第24話 僕と二人のお姉ちゃん @8

 僕を抱えたクオンちゃんが、屋根を駆け抜け飛び越えていく。


 僕のせいでクオンちゃんの両手は塞がっているが、それでも尚、慣れた様子でパルクールの如く、道無き道を突き進んでいた。


 しかもこれだけ激しい動きであるにも関わらず、僕への振動がほとんど来ない。

 おそらくクオンちゃんの運動能力が、相当に高いということなのだろう。


 僕は、僕の膝裏と背に回された、クオンちゃんの腕の感触を感じながら、その表情を伺ってみる。


「ふふ、これでカナエくんはボクのモノ……」


 めちゃくちゃ物騒な笑みだった。


 相変わらず優しげで大人びた雰囲気なのに、何故か瞳の奥底に暗いものを感じさせられる。


 というかなんだよ「ボクのモノ」って。

 それ攫われたのと同じじゃないか。


 そもそも僕は急に抱え上げられて、そのままこの状況に至っている。

 だから今現在何が起こっているのかを、僕はまるで分かっていないのだ。


 どうしてクオンちゃんに運ばれているのかも、何故こんなに全力疾走なのかも全く不明。


 結果的に『マダラバアシ』から距離を取れているので、僕としては満足なのだが、このまま流されるがままというのも不味い気がする。


 とりあえず、クオンちゃんに尋ねてみた。


「ねぇクオンさん。これどういう状況?」


「うん?……今はね、ボクがカナエくんを『マダラバアシ』から守っているんだ」


「あ、そうなんだ。じゃあ僕らのすぐ後ろを、めっちゃ怖い顔で追いかけて来てる、あのイノリちゃんは?」


「多分、ボクを殺そうとしてるんじゃないかな」


「意味わかんない」


 何があったんすか。


 僕が見たがままの現状を説明するなら、まず僕を抱えたクオンちゃんが居て、その後ろを鬼の形相で追ってくるイノリちゃん。


――で、その更に後ろから巨大な『マダラバアシ』が、木々や建物をぶち壊しながら付いてきている。


 さっきからオブジェクト破壊エフェクトと、それによるサウンドが凄まじい。

 もしここが仮想現実でなかったら、余裕で大災害として扱われるレベルだ。


「エグい……」


 僕は引き攣った声を洩らす。


 この悲惨な光景の原因は、イノリちゃんが『マダラバアシ』に狙われたまま、街を駆け抜けていることにある。


 つまり根本的な話として、どうして二人とも目的の『マダラバアシ』と戦わずにいるのか、という疑問に落ち着く訳だ。


 これではいつまで経ってもクエストが終わらない。


「ねぇクオンさん、僕的には早く『マダラバアシ』を倒してくれると嬉しいんだけど……」


「いや、倒すとカナエくんが復活してしま―――……まだ機は熟していない、とボクは思うよ」


「嘘じゃん。それ嘘じゃん」


 ほとんど本音漏れてるわ。


 これもしかして二人とも、僕が動けないのを楽しんでいるのではないか。

 姉の風上にも置けない連中だ。


「ふーむ…」


 一体どうしたものかと考えてはみるが、僕の行動可能事項が少なすぎて、何も思い付かない。


 そりゃそうだろう、今の僕に出来る範疇にあるものといえば、口を動かすことだけなのだから。

 せめて腕だけでも動けば、リタイアなりログアウトなり出来たというのに。


 無力な己に絶望しながら後ろを振り向くと、ふと銃を構えているイノリちゃんに気付いた。


 いや、これでは説明不足。

 言い直そう。


 銃を『マダラバアシ』ではなく、構えている、イノリちゃんに気付いた。


「え?」


 自分の中で理解を二度も繰り返しといて、「え?」なんて間抜け声を晒すのも嫌なのだが、そりゃ「え?」ってなる。


 味方に撃たれそうになってるんだもの。


「クオンさん、イノリちゃんが銃構えてる」


「ふむ、やっと彼女も『マダラバアシ』と戦う気に――」


「……僕らに向けて」


「え?」


 僕とそっくりの反応である。


――瞬間。


 銃声が響き、クオンちゃんの頬を弾丸が掠めた。


 いつの間に武器を取り換えたのか、それは僕の得意とする『スフィアシップ』の銃声だった。


「…………。」


「…………。」


 僕とクオンちゃんは言葉を失う。


 いや実際のところ弾丸が命中したとしても、味方攻撃フレンドリーファイアが無効なこのゲームでは、そこまでの問題ではない。


 痛みも精々が全力デコピンくらいなものだし、数値上のHPが減ることもない。

 クオンちゃんに命中すれば、バランスを崩させる効果はありそうだが、とにかく精々がそのレベルだ。


 ただそれはそれとして、めっちゃ怖い。

 弾丸が風を切る音なんて、聞きたくはない。


 クオンちゃんが、イノリちゃんに向けて口を開いた。


「イ、イノリくん!カナエくんに当たったらどうするつもりだ!」


「当たりませんよ。この弾丸は貴女にしか当たりません」


「確かに君のエイムは素晴らしいが、万が一ってこともあるだろう!」


「有り得ません。私はこの弾丸一発一発に命を賭けています。もしどれか一つでもカナエさんを掠めたのであれば――」


 イノリちゃんの目が、おぞましい程に据わっている。


「――リアルで死んで償います」


 いや、そんな、いいよ……。

 そこまで覚悟決めなくても、好きなだけ当ててくれて大丈夫だから……。


 流石のクオンちゃんも顔が固まっているし、やはり今のイノリちゃんは、次元を超えて頭がおかしいのだと思う。


「そ、そうか……」


 どんな顔をするべきか分からないときの顔って、こんな感じなんだなぁ、とはクオンちゃんを見つめる僕の感想。


 多分、僕もクオンちゃんの立場だったら、同じようなリアクションをしていた気がする。


「……クオンさん、僕に何かして欲しいことある?」


「今は、ただ出来る限り大人しくして貰えると助かるかな……。あとボクも銃を構えたいから、カナエくんを小脇に抱えることになるが、許して欲しい」


「おっけー」


 そう言ったクオンちゃんはお姫様抱っこを中止して、言葉の通り、僕を左脇に片手で持った。


 少し辛い姿勢にはなったが、結局僕が何もしないことには変わりない。


 暇である。


 そして二人は襲い掛かる『マダラバアシ』を完全に無視して、勝手に銃撃戦を始めた。


 木々の合間を縫い、屋根を蹴り、激しい立体機動による空中戦が巻き起こる。


 僕はただただ振り回されるだけだ。


 気分は死ぬほど激しいジェットコースター。

 もちろん安全の保証は全くない。


 しかし暇だ。


 この動かせる口だけで、どうにか暇を潰せないかと僕は考える。


 その結果、一つの案を思いついた。


「あ、そうだ。雑談枠取ろっか。皆、僕に話しかけていいよ」


 コメ欄の皆とお喋りしよう、と。


【お前正気か?】

【今カナエちゃんのすぐ横、弾丸通ったけど】

【周り見ろ】

【そこは地獄やぞ】


「いいよ、どうせ出来ることも無いし。皆も暇でしょ?」


【いや俺ら今、アクション映画より凄いアクション見てっから。暇ではないよ】


「まぁ確かにそうなんだけども」


 例えるなら、『マダラバアシ』という名のゴジ〇を背景に、ドラゴン〇ールの戦闘シーンを見てるようなものだ。


 そりゃ見所しかないな。


 今この瞬間も、二人の上段回し蹴り同士がぶつかり合い、衝撃波が僕に伝わってきている。


 この衝撃波の威力から判断するに、きっと二人とも戦闘力53万といったところか。


 やはり二人の力は五分なようで、戦況自体は拮抗していた。


 僕は再びコメント欄に視線を戻し、視聴者の皆に話しかける。


「で、何話す?」


【「で、何話す」じゃねぇよ】

【なんで冷静なんだよ】

【せめて、肉弾戦が繰り広げられてることにツッコミ入れろカナエ。このゲームは銃撃するゲームだから】


 そんな正論ぶち込まないで欲しい。

 僕だって見て見ぬフリをしてるんだ。


「ほら、そんなことより質問質問。何かないの?」


 僕はクオンちゃんの左腕の中で、ブオンブオンと激しく振り回されながら問い掛ける。


【肝据わってんなぁ……】

【普通なら吐いてるよこんなの】

【もう誰か質問してやれよ…】

【恋バナ行きましょう】


「恋バナ?おっけー、いいよ。何聞きたい?」


 イノリちゃんの視聴者層は、恋バナが好きな傾向でもあるのだろうか、と僕は少し気になった。

 以前もイノリちゃんが、恋バナの配信をしていたのを思い出す。


【一発目!彼氏いんの?】


 彼氏か。


 実は僕は男なんだ、とは言えない以上、答えの選択肢も限られてくる。


「いないいない。それに彼女もいないよ」


【……彼女?】

【彼女の有無なんて聞いてないですけど】


 そして僕は、カナエの設定をレズということにして、話を進めることに決めた。


 でないと好みの男とか聞かれたときに、何も答えられずに詰んでしまう、と考えたからだ。


【もしかして、男より女が好きだったり?】


「うん。実は僕、女の子の方が好き」


【!?!?】

【!!!】

【!?!?!?】

【……っ!!】

「!?!?!?」←イノリ

「――――っ!!!」←クオン

【!?!?!?】


 コメ欄に混じって、戦闘中の二人も興奮している気がするのは、きっと僕の勘違い。


 次へ行こう。


【じゃ、じゃあ好きな女の子のタイプは?】


「好きな、タイプかぁ……」


 その質問によって僕の脳裏に浮かぶのは、祈祷さんの姿。


 好きなタイプ以前に、好きな人がいる以上、その本人の特徴を挙げるのが吉だ、と僕は考える。


「クールで優しいんだけど色々と容赦なくて、偶にアンポンタンなことを言い出すタイプかな」


 僕の中での祈祷さんのイメージは、こんなところだ。


 後はなんだろう、超可愛くて超カッコいいとか。

 「可愛い:カッコいい」の比率が「6:4」だとか。


【大分細かいね……】

【それ特定の人物いるでしょ】

【好きな人いるだろ】


 あ、秒でバレた。


 ここの視聴者はホントに勘の鋭い奴が多い。

 いや今回に関しては、僕の答え方に問題があった気もするけれど。


 そしてそのコメント中に、更に深く掘り込む一文も見えた。


【つかその特徴、イノリちゃん近くね?】


 僕は目をパチクリさせて、少し驚く。

 

「イノリちゃん?」


 祈祷さんを思い浮かべながら話した特徴で、イノリちゃんという名前が出てくるとは、僕も想像していなかった。


 しかし言われてみれば確かに、似ている部分もある気がする。

 口調なんかもかなり近いし、雰囲気もそれっぽいような。


「うーん、確かに。もしかしてイノリちゃんって、僕の好みに近いのかな?」


 一瞬、僕の中で、祈祷さんとイノリちゃんが重なりそうになる――

 

――が、冷静に考えて祈祷さんは、イノリちゃんみたいに頭おかしくないし、鼻血とか噴かない。


 多少似ている部分があるのは認めるが、やはり祈祷さんとはかけ離れているだろう。


 そもそもの話、僕はイノリちゃんやクオンちゃんを神聖視しているため、恋心など抱く筈もない。

 愛はあっても、いやらしい気持ちはゼロである。


 故に崇め奉りこそすれ、恋愛感情など僕は鼻で笑い飛ばす。


 と、ここで唐突にコメ欄の流れが少し速くなった。


【ねぇ、なんかイノリちゃん押してない?】

【さっきまで拮抗してたのに】

【カナエの言葉か?】

【好みって言われてテンション上がったのかも】


 コメ欄の真偽を確認するべく、僕も目を上げると、確かにイノリちゃんが優勢になっていた。


 動きのキレだけでなく、精細さまで増しているように見える。

 

 ただ、嬉しそうな表情で、アクロバティックな蹴り技を繰り出すイノリちゃんの姿は、僕をドン引かせるには十分過ぎた。


 そしてその二人の力量差が、一定値を超えたとき――


「おわっ、……ん?」


「やった……っ!捕まえました、カナエさん……っ!」


――僕の身体は、イノリちゃんの元に移った。


 あまりの早業に、僕は何が起きたのかを理解出来なかったが、とにかく今はイノリちゃんが僕を抱えながら、頬擦りをしている。


 また僕の目の前ではクオンちゃんが、ほんの少しだけムスッとした表情を浮かべていた。

 悔しそう、と呼べるほどあからさまな変化ではなかったが、少なくとも僕を諦める様子ではない。


 これは第二ラウンドが始まりそうな予感。


 その雰囲気のままクオンちゃんが、イノリちゃんに話しかける。

 

「……カナエくんを、返してくれないか」


「いーやーでーす。取り返したければ力ずくでどうぞ。カナエさんは私のモノですから」


「…………。そうか、ならボクも本気で行くよ。覚悟した方がいい」


 クオンちゃんがそう言い放った直後、その姿はかき消えて、再び銃声と打撃音が響き始めた。


 まだまだこの不毛な争いは終わりそうにないな、と僕は思う。


 ちなみに二人の戦いの脇では、『マダラバアシ』もちょっかいを出そうと頑張っているのだが、軽く躱されたり蹴り飛ばされたりと、不憫なまでに雑な扱いをされている。


 モンスターに感情なんて無い筈だが、泣いているように見えるのは、僕の感受性が豊か過ぎるのが原因なのか。


 僕の周囲は再び地獄に戻ったが、相変わらず暇なので雑談枠を続行する。


「はい次の質問ー」


【カナエちゃん、お兄ちゃん欲しくない?俺がなってあげようか?】


「いらない。次」


【36歳の弟、いらないか?】


「いらんって帰れ。次」


【カナエさんのおっぱいって、僕らも触っていいの?】


「ダメだよ。嫌だよ。相手は選ぶよ僕だって」


【パンツの色は?】


「しr――……あ。忘れて」


【うぉぉぉぉ!!!!】

【白ぉぉぉぉお!!!!!】

【ひゃっほぉぉぉぉお!!!!!】

【白パン!!!白パン!!!】


「うるさい。次」


【胸のサイズは?】


「ぶっ殺すぞ」


【イノリンのおっぱいとクオンちゃんのおっぱい、どっちが良かった?】


「え、えぇ……。なにその質問……」


 確かに僕は二人共と抱きついてるから、比べるだけの情報はあるけど、流石にそれは判断出来ないって。


 無難に行こう。


「おっぱいに貴賎なし」


【じゃあどっちのおっぱいの方がお姉ちゃんっぽい?】


「おい、おっぱい星人共。いい加減にしろよ」


 無難な回答を選んだ僕の意図を汲んでくれ。


 つかお姉ちゃんっぽいおっぱいってなんだよ。

 勝手に新概念確立すんのやめろ。


 まずどうやって比べんの?サイズ?

 大きいのはクオンちゃんだけど、それで良いの?


 もう面倒くさいからそれで良いや。


「クオンさんで」


――と、僕がこの回答をした瞬間、クオンちゃんの戦闘力が跳ね上がり、僕の身体はクオンちゃんの腕の中に収まった。


 なんでだろうね。


 顔を見上げると、クオンちゃんが僕を、愛おしそうな表情で見つめていることに気付く。


「ふふ、カナエくん。存分に姉の胸を楽しむといい」


「え、何?いや、そんなに強く抱きしめられると痛い痛い痛――くはないね柔らかい。違うそういう話じゃない苦しいから止めて」


 繰り返すが、僕は決して彼女らに欲情などしない。


 柔らかいなぁとか気持ちいいなぁ、程度がMAXの感情で、それを超えることはあり得ないと断言できる。


 もし祈祷さんに同じことをされたら、確実に鼻血噴くけれど。


 圧倒的な乳圧で呼吸が出来ないが、僕は構わず雑談枠を続行する。


ふぅぎつぎー」


【雑談枠にどんだけ思い入れあんのさ】

【決して立ち止まらない意思を感じる】

【何がカナエをそこまで掻き立てるの?】


 意地だよ。

 ここで止めたら、おっぱいに負けた感じになるだろうが。


【イノリとクオン、抱きつき心地が良いのはどっち?】


「みんなさ、敢えてその二択の質問にしてる?」


 薄々僕も感づいてはいるが、これは良くない流れである。

 しかし雑談枠を開いた人間として、答えない訳にもいくまいので、僕はしっかりと考えた。


 程よいサイズのイノリちゃんと、大きめなクオンちゃん。

 結論、抱き心地に関して言えば、スレンダーな方が好きかもしれない。


「イノリちゃ――うぉ!?」


 今度は一瞬にしてイノリちゃんの腕に捕まった。

 ぱねぇ。


【頼りになるのは?】


「クオンさ――ぐふぅ!?」


 一瞬にしてクオンちゃんの腕に(ry


【デートしたいのは?】


「イノリちゃ――うぐ!?」


【甘えたいのは?】


「クオン――あが!?」


 あ、待って待ってヤバいヤバい。


 二人の腕を移動するときの、グワンってくるGはただでさえ凄まじいのに、そんなリズミカルに繰り返されると僕でも吐く。


 質問に答えなければ良い、ってだけの話なのは分かるが、この雑談マスターの僕がそんなことをする訳にはいかないのだ。


 投げ込まれた質問全てに答えてこその、カナエの雑談枠である。


 実際のところ、頭の片隅には「いや雑談マスターってなに?」と冷静なツッコミを入れてくる僕がいるのだが、今の僕には耳を傾ける余裕がない。


 というかそもそも、なんで答えがイノリちゃん、クオンちゃん、と交互になるのだろう。


 もしや僕の心理を読み取っている視聴者がいるのか?

 僕以上に僕を見抜いている化け物がいるのか?


 底が知れな過ぎるぞ、僕のファンたち。


 こんなことを考えている間にも、僕の身体は奪い合われていて、脳に深刻なダメージが入っていくのが分かる。


 そして、あーそろそろ気を失うなぁ、なんて感覚に陥り始めたとき――


「「あ」」


――イノリちゃんとクオンちゃんが、僕を取り落とした。


 お忘れかもしれないが、二人は今までずっと木の幹や屋根を足場に、空中でバトルを繰り広げていた。


 そんな高所から唐突に投げ出された僕は、それなりの速度で地面に叩きつけられることになる。

 

「ぎゃふ!!!」


 当然一ミリも動けない僕に、受け身など取れるはずもなく、HPゲージがそれなりの割合で削られた。

 所詮ゲームなのでそこまでの痛みは無いが、息苦しくなるような衝撃は訪れる。


 そしてほんの少しの気持ち悪さと共に、ゆっくりと目を開くと――


「あぁ…………」


――目の前で、『マダラバアシ』が口を開いていた。


 僕の落下地点は、不運にも丁度『マダラバアシ』の手前だったらしい。


 これ喰われるなぁ、と僕は悟る。


 イノリちゃんとクオンちゃんが、僕に向けて走っているのは分かるが、間に合いそうもない。


「「カナエさん(くん)!!!!!」」


 そんな二人の悲痛そうな叫びを聞きながら、僕は食べられて死にました。


 おしまい。

 ちくしょう。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



「ねぇ、二人とも反省してる?」


「「はい……」」


「二人でちゃんと戦えば、すぐに倒せたよね?」


「「はい……」」


「そんなに動けなくなってる僕が面白かった?」


「「いえ、可愛かったです……」」


「やかましいわ」


 という感じで、僕ら三人の突発的コラボは、僕の説教と共に幕を閉じた。

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