第一章『私はあなたを認めません』 1
波乱の入学式は、無事滞りなく終わった。
天童魔法総合学園。
世界で最初に星が降り、国が作った魔法研究の最先端を行く教育機関。
周辺の山総てが学園の敷地であり、都市一つが魔法の実験と研究を目的として魔力で動く街灯や道具が多数導入されている。
この学園に通う子供たちは、全国から集められた魔法の才能ありと判断されたもの。親をなくし、他に当てがなかった者。社会の次代を担う良いところのお嬢ちゃんお坊ちゃんと、幅広い層を受け入れている。
それ故か、成績や家柄によってふんぞり返る天狗達の温床になっているのだ。
偉そうな大人にこっぴどく叱られ、渡されたクラス名簿に従って教室に向かう。嬉しい事に
やれ壁をぶち破るなだとかあの挨拶は何だとか。なんか色々言ってたけどブロッコリーの事を考えてたら解放された。
その頃には恋花さんも意識を取り戻したのか、校舎入り口の階段に座り込んでいた。
「待っていてくれたんですか?」
「あぁ
「ホントですか!やったー!デートですね!」
「教室まで連れて行くのがデートになるのかなぁ……」
顔に疲れの色を滲ませて、ゆっくりと立ち上がろうとする。その体が不安定に揺れて、危うく転びそうになっていた。
「だいぶお疲れじゃないですか……大丈夫ですか?」
「ちょっとだけ立ちくらみが……はは。でも、疲れからじゃないですよ。安心したら気が抜けちゃって」
恋花さんは手をパタパタして、何でもなさそうに振る舞う。
その顔は確かに森の中で見たときよりも力が抜けているように見えた。
お互い、無事入学と進級を果たせたのだ。大変喜ばしいことですね。
「これよかったらどうぞ。お茶と飴です」
カバンから保温水筒を取り出し、黄金色の液体を注ぐ。
それを見てすこし悩む仕草をみせたあと、苦笑しながらも受け取ってくれた。
「じゃあ、すこしだけ。……んっ。わぁ。これジャスミンティですか。美味しいですね」
「えへへ。いつも水筒に入れて持ち歩いてるんですよ。お気に入りなんです」
相槌をうちながら、飲み干したカップを受け取り、自分の分もともう一杯いれる。
そのまま飲もうとすると、恋花さんは口をもごもごさせ気まずそうにうつむいてしまう。何かを誤魔化すように飴ももぐもぐした。
「んむぅむふふ。仕事のあとの一杯は心が安らぎますねぇ。まあまだ何もしてないんですけど……」
「そ、そうですね……はい……。大変な初日になってしまいました、ね……もごもご」
「それに可愛い女の子との間接キスだと思うといつもの5倍くらい美味しい……ほわ……」
「~~っ!気にしないようにしてたのに……!」
「あはは。冗談ですよ。それよりジャスミンティの効能ってご存知ですか?」
「し、知りませんけど……」
ご機嫌を損ねて唇を尖らせている。めちゃかわ。
「ホルモンバランスを整え、リラックス効果や消化促進、美肌効果といった美容効果が高いお茶なんですよ」
「へぇ。確かに頂いたお茶はとても落ち着く味でした……。今度から飲もうかな……」
「そして……ジャスミンの香りは性欲を高める効果があるとかないとか……ふふ」
「~~~~っ!!!」
形の良い耳まで赤くして、とうとうぷいっと顔を背けられてしまった。
この反応が可愛くて、ついついからかいたくなっちゃうなぁこの人は。
それでも置いていこうとしない当たり、元来の人の良さがよく見えた。
「もう、そろそろ行きますよ。今度こそ遅れたら何言われるかわかりませんから!」
「はぁい。んふふ。恋花さんは怒ってても可愛いなぁ」
そうしていよいよ、私達は教室へ向けて歩き出したのだった。
新設されたばかりの高等部の校舎は、魔法学園のイメージとは少々離れた近代的な造りになっていた。
角度が鋭い屋根や塔もなければ、大きな時計塔もない。
今の時代にわざわざ、それも日本で中世風の建築をするのもおかしな話だが、すこしだけ残念。
「恋花さんは中等部からのエスカレーター進学でしたよね」
「……はい。そうですけど、それがどうかしました?」
「この学校って、可愛い子って多いんでしょうか!学園のアイドルとか、深窓の令嬢とか、宇宙人とかロボットとかいましたかっ」
日本の高校はとても寛容なのか、最終兵器な彼女や宇宙人の留学生がよくいるのだ。
この大きな学校であれば、そういった秘密を持った美少女とお近づきになれるかもしれない。
私はそんな淡い期待を抱いて、この街にやってきたのだ。
「え、えーっと……綺麗な人やお金持ちの人は多いけど、宇宙人とかはちょっと聞いたことないですね……」
「そうですか……そうですよね、そういうのは秘密であるべきですから、当事者以外は気づきませんよね……ならなら、サムライやクノイチさんはいらっしゃいますか!私一度でいいから会ってみたくて!」
「剣とか持ってる人はいますけど、どうだろ……期待通りのものじゃないかもしれないですね」
「あうぅ……」
セカイを取るか彼女を取るか、そんな究極の二択を迫られるのが夢だったのに、いないのか……。
日本の学校が舞台の話には、かならず一人はそういう秘密を抱えた少女が出てくるのになぁ。
「なんか、ごめんなさい……」
「いえいえ。全然いいんですよ。仮にそういう方がいなくても、私には恋花さんがいますから」
「わ、私ですか……?私はそんな、普通の人間ですよ……」
「そうじゃなくて……。最初に出来たお友達が、恋花さんのように優しくて可愛い子で幸せだなーって言ってるんですよっ」
「……もう、調子のいいことばかり言うんですから……」
にぱっと笑顔を向けるも、恋花さんは毛先を指でいじりながら、やはりそっぽを向いてしまう。
健康的な首筋がほんのり赤く色づいたのを、私は見逃さなかった。
自然と会話が止まり、二人の間に穏やかな沈黙が流れる。
表情までうかがい知ることは出来ないが、改めて彼女のことを見つめてみる。
手入れの行き届いた長い髪。程よく発育の良い女性らしい輪郭。整いすぎるほどに整った、可愛らしいお顔。
話せば話すほどわかる、生来の誠実さ。変に堅苦しくない態度には、自然と惹きつけられるものがある。
はじめて出来た同年代の友人が、この子であってよかったと心から思うのだった。
「そこのお二人、少々お待ちなさいな!」
不意に、心穏やかな時間を邪魔する声がした。
声の方に振り向けば、階段の踊り場に佇む一つの影があった。
「なにやつ!」
顔は窓からの逆光で確認することは出来ない。そのシルエットから同じ女生徒であることだけがかろうじてわかる。
影はその場で大仰に髪を払いなびかせて、高らかに宣言した。
それはもう、教科書に載っているような仕草で。
「おーっほっほ!
「たっはー、めっちゃ面白そうな人きた!」
「ちょっと花莉好さん……!?」
「あなた、随分とお調子にお乗り遊ばれてはいなくて?この
烈火と名乗った少女は、こちらにバシィッと手袋を叩きつけて、不敵に笑った。
「いいっすよ!」
――こうして私、
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