もしもカクヨムが極限まで平等であったのなら
ちびまるフォイ
平等を求める理想の不平等
カクヨム界隈は荒れに荒れていた。
「ランキングがいつも常連じゃないか!」
「異世界ばかり優遇している!」
「中身と人気が釣り合ってない!」
人気作家とその他の作家たちとの差は開くばかり。
人気作品の多くに異世界を含んでいることから人気欲しさに同ジャンルを量産して、
当初の構想として掲げられていた「本格的な作品作り」からは遠のいていることに
カクヨムの運営たちは頭を悩ませていた。
「どうします? このままでいいんですか」
「そうだよなぁ……。ユーザーからも格差については不満と罵声が来ているし」
「最近じゃ作品作りっていうよりマーケティングに力が入っているみたいです。
PVや検索候補に引っかかるように調整しているのもあるそうですよ」
「そういうのじゃないんだよ! もっと切磋琢磨する環境にしたかったのにぃ!」
「じゃあいっそ格差なくしてみますか」
「えっ」
カクヨム始まって以来の大変革が行われた。
トップページにあるランキングは廃止され、各作品にあるポイントもなくなった。
これまで作られていた格差をぶっ壊した。
「思い切ったことしちゃったなぁ。
これでユーザーから反感かわなければいいけど……」
ぶるぶる震えていたカクヨム運営だったが、意外にも反応は穏やかだった。
それどころか、ランキングやポイントやらの競争小説社会に疲れ切った他サイトの人たちがなだれ込むという謎の効能が出た。
「やった! すごい登録ユーザー数増えているぞ!
これで広告収入もたくさん入るな!」
「みんな本当は書くことを純粋に楽しみたかったんですね」
サイトには異世界小説だけでなく様々なアプローチの作品が出るようになった。
それが馴染み始めると、徐々に運営には怒りの声が届くようになった。
お客様窓口トーク画面には大量のメッセージが送られる。
『いくら書いてもコメントつかないのは不平等だ!!』
『なんで同じ題材で同じような作品なのに、あっちはレビューあるんだ!』
『正常な執筆活動のために格差はなくすべきだ!』
「ど、どうしろっていうんだよ……」
「ランキングという憎悪対象がなくなったから、
今度はコメント数やレビュー数という部分でお互いを比較しちゃうのかもですね」
「て、撤廃だ! 格差てっぱーーい!!」
カクヨムではコメントやレビュー機能がなくなった。
利用者は他人のコメント数やレビュー数を見て落ち込むこともなくなった。
「ふう……これっで一段落だ……」
「いや、まだ来てますよ」
「うそ!?」
『なんでこんなにもアクセス数がちがうんだ!』
『こんな扇情的なタイトルは読者を誘導しようとしている!』
『タイトルやキャッチコピーで読者を釣るなんて、平等じゃない!』
「ぐぬぬ……どうしよう……」
興味を引くタイトルにはついクリックの指が伸びてしまう。
それが小説へのアクセス数という差で出てしまっていた。
「小説アクセス数の表示もやめよう。うちのサイトは徹底的に平等とする!」
徹底的な平等化が実施された。
小説の題名やキャッチコピーは釣り目的のものが出てしまうため共通化。
「小説 No.1001」など、お互いに格差が出ないようなものにすること。
小説に登場させる人物についても「カクヨムプリセット」のキャラから使うものとして、
必要以上にエッチなキャラで読者を釣るようなことも平等化のため禁止した。
けれど、いくらふさいでもふさいでも平等化の反論は大きくなるばかりだった。
『この作品の中で、あまりに扇情的な内容があった! 不平等だ!』
『ストーリーの流れも共通化しないと不平等ではないか!?』
『作品ごとに色を変えられるのは、色による格差が出てしまうぞ!』
『1話の最大文字数がバラバラなのは不平等だ! 格差のタネになる!』
「わかった! わかった! 不平等なのはわかったから!」
カクヨムの運営は半泣きになってしまった。
「で、どうするんですか?」
「決まってるだろう。不平等な部分はなくしていこう。
不平等にならないように各ストーリーのガイドラインを設定する。
小説につけられる色もすべて黒一色に統一しよう。平等にね。
1話の文字数も設定して平等にしよう」
「正気ですか。そんなことしたらますます個性が失われるじゃないですか」
「じゃあどうしろっていうんだよ!
こんなに平等への努力をしていてもこれだけ批判されるんだぞ!」
「僕にまかせてください。案があるんです」
「好きにしろ! でも俺はぜーーったい手伝わないからな!
どんなに批判されても俺は関係ないからな!」
カクヨムの運営はベテランから若手へのバトンタッチ。
同時にすべての責任も若手が背負い込むものとなった。
それでも、若手がなにをしでかすのか気になった元運営はこっそりカクヨムのページにアクセスした。
サイトは目を疑うような改革が施されていた。
「ってこれランキング戻ってるじゃん!!!」
不平等だという苦情により廃止されたランキングがまさかの復活。
平等になれていたユーザーに対して、競争を強いるようなランキングは劇薬すぎる。
慌てて若手を呼びつけた。
「お前なにしてくれてんだ! 苦情を増やしていいとは言ってないぞ!?」
「落ち着いてください。今のところ、平等文句はひとつも来ていないですよ」
「そんな馬鹿な!」
お客様からのご意見トークには何ひとつ批判コメントが来ていなかった。
ランキングが導入されればアレルギーのように来ると思っていたのに。
「あ、ありえない……ランキングだぞ……?
血で血を洗うような競争になるのに批判が出ないなんて……」
ランキングを眺めてふと気づく。
自分のアカウントでログインした時のランキングが変動していた。
「おい、このランキングおかしくないか。
俺のアカウントで見たときと順位が違っているぞ? 1位はたしかに俺のーー」
「はいそうです。そういうふうに作ったものです」
若手はうなづいた。
「このランキング、自分の作品が毎回1位になるよう見せているんです。
どうです? これだけでもう批判されなくなったでしょう?」
もしもカクヨムが極限まで平等であったのなら ちびまるフォイ @firestorage
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