第六話 激闘! 脱出作戦


              ☆☆☆その①☆☆☆


 ユキが先頭で、マコトが最後尾。

 通路を駆ける三人の背後から、追いかけてくる襲撃者たちと、銃撃の嵐。

 マコトは追っ手を少しでも減らそうと、二人から遅れつつ二丁のレーザーガンを撃ちまくっていた。

「当たらせませんっ!」

 激しい銃撃を左右にかわしながら、マコトの頬や腿などを、敵弾が掠める。

「マコトさんっ!」

「レイは走って!」

 マコトを心配するレイは、ユキに手を引かれて階段を駆け上がってゆく。

 案内の表示が、お嬢様の視界にチラと入った。

「あのっ、この階段って、地上にはっ、出られないみたい–」

「ですが他にありませんわ!」

「とにかくレイは逃げてっ! ああもう、あいつらしつこいったらっ!」

 一射で一人の銃撃者を撃ち倒しながら、銃弾の雨で各所が削られてゆく、マコトの極薄メカビキニ。

「マコトは大丈夫ですわ! レイ、急ぎます!」

 上のフロアに到着すると、倉庫とは違って照明がなく、小さな窓から差し込まれる光があっても、夜のままに暗かった。

 数メートルと先の見えない広い空間に、ズシンっと重たい機械の足音。

「! レイ、そのまま…っ!」

 警戒した二人の目の前に、全高四メートル程の巨体メカが、歩み寄ってきた。

 建設現場で使用されるパワードスーツ型の重機に、無理矢理な装甲や武装を施した感じの、戦闘仕様。

 見た目もイケてないパワードスーツから、イヤてない下衆な笑い声が聞こえてきた。

『ゲエェッゲッゲッゲエェェェッ! 最下層の倉庫から走って逃げられる場所はぁ、ここだけなんだもんねえぇっ! お前たちの先読みをした僕はぁ、なぁんて頭が良いんだろうねえぇぇええっ!』

 誰でも出来る事を自慢しながら、パワードスーツは後付けされた両腕の武装を、二人に向けてくる。

 対人用ではない程の大きな銃口を向けられ、一歩、ジリと後退する二人。

 みんな殺される。

 そう感じたレイは、震える脚で一歩、前に出た。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「待って…! わ、私が欲しいなら、好きにしていいから…二人には、手を出さないで…っ!」

 恐怖に怯えながらも、その瞳には、凛とした意思の強さが宿る。

 お嬢様の決意を目にしたユキは、レイの震える手をソっと包んで、優しく声をかけた。

「レイの勇気、素晴らしいですわ。ですが残念な事に…ゲドロクのような犯罪者には、レイの崇高さは全く理解できないものですわ」

 言うが早いか、ユキの言葉をゲドロク自身が証明する。

『ぁああ欲しいよおぉっ! キミだけじゃなくてえぇっ、もう三人ともねえぇっ! 僕の勝ちなんだからさあぁっ、三人ともっ、僕の好きにできるんだあああああっ!』

「ね、下衆でしょう?」

 ゲドロクに心底から呆れるレイを、ユキは優しい笑顔で諭した。

「走りますわ!」

 小型の閃光弾を床で炸裂させたユキが、レイの手を引いて逃走再開。

 闇夜のように暗い室内での発光に、パワードスーツのセンサーが一時的にブラックアウトして、モニターを直視していたゲドロクが目を傷めた。

『うぎやあああぁぁぁあああああああっ! ちくしょうめええっ! 女のクセにぃっ、よくも僕にっ、痛い事したなあああああっ!』

 一時的に両目が利かなくなったゲドロクは、パワードスーツをオート追跡に切り替えて、襲撃を開始。

 もう殺す気まんまんだ。

 ターゲットの二人を追いかけるパワードスーツは、ハンティングモードのままに、両腕の火器を無遠慮で乱射させてきた。

 レーザーやビーム、実態弾の嵐が背後から襲ってきて、生きた心地がしない

レイ。

「きゃああぁっ! 当たっちゃうっ、死んじゃうぅっ!」

「レイ、そのまま前に向かってください!」

 レイを先頭にして走るユキは、逃げながら後ろに向かってヒートガンを撃つ。

 しかし射撃の腕は、あり得ないほど悪いらしく、全てが明後日の方向に乱射されるだけだった。

 左右に振れながら逃げる二人へと降り注がれる銃撃で、ユキの極薄メカビキニがあちこちで掠られて、レイのシーツが穴だらけにされてゆく。

 銃弾から逃げながら、ユキは上のフロアへと続く階段を目指すものの、乱射されるレーザー光などに邪魔をされて、なかなか辿り着けずにいる。

「もぅだめぇっ!」

 走り続けて限界が近いレイが、ギブアップしそうになっていた。

「大丈夫ですわ、レイ! もうすぐの我慢です!」

 ユキが何を言っているのか解らないレイだけど、何か助かる方法があるのだろうと信じて、死にたくない一心で、銃撃から逃げ続ける。

「はぁ、はぁっ–あぁっ!」

 激しい弾幕から逃げ続けているうちに、二人は壁の隅に追い詰められてしまった。

 装甲重機に向かって小型のヒートガンを向けるユキを、ゲドロクが調子づいて笑う。

『あれあれえぇ? そんなチャチなヒートガンじゃあぁ、この装甲一枚ぃ、抜けないわおぉ? キミはバカなんだねえぇぇ!』

 悪いけど…と、レイもちょっと思ってしまう。

 二人の身体は掠められた様々な銃弾によって、その身を隠す部分はほぼ失われているという、女性なら心が折れてしまう状態。

 なのにユキは、ヒートガンを前方へと差し向けつつ、ニコっと強気に、美しく優雅に微笑む。

「ですが、あなたを油断させて時間を稼ぐ事は、できましたわ」


              ☆☆☆その③☆☆☆


『はああ?』

 ゆるふわガール以外の二人が「?」顔になった瞬間、重機の背後から三射のレーザー光が、その身に襲い掛かった。

 両腕ユニットの付け根と腰関節を背中から撃たれてガンガガンっと強い衝撃に襲われたゲドロクが、操縦席で大声を上げて慌てる。

『どわわわっ! ななんだ何だあああっ!?』

「レイ、ユキ、まだ生きてるでしょっ?」

 重機の後方から駆け寄ってくる綺麗な声に、ショートカットガールの無事を知ったレイは、安堵の声を上げる。

「マコトさんっ–きゃっ!」

合流したマコトは、激しい銃撃戦を切り抜けたあげく、スーツの肌を隠す部分が殆ど失われていた。

 ユキはレイの腕を取りつつ、レーザーガンのエネルギーカートリッジを交換するマコトへと、手短に確認。

「マコト、下は如何ですか?」

「ダメだね。やっぱり全滅させられなかったよ」

 マコトが簡単に答えた直後、駆動系を撃たれた重機が、重たい機動音で再稼働を始めた。

『グググ…両腕と腰を破壊されたってぇ、僕のコイツはまだ戦えるもんねえぇぇっ!』

 ゲドロクの声に応えるかの如く、醜い人型だった重機は関節部分を緩めるように変形をして、ビークル形態へと姿を変える。

 大きなタイヤで車体を持ち上げているその姿は、よほどの荒れ地でも容易に走破出来る性能を見せていた。

「うわ、何あれ!」

 驚くマコトに、ユキが呆れた様子で解説。

「あれはもとから、野外作業用の機種ですわ。まさかマコトったら、間接部分だけしか破壊してませんの?」

「そんなの見分けつかないよ!」

 機械オタクへの反論を破るように、変形重機が追撃宣言。

『三人纏めて お仕置きだああああぁぁっ!』

 その掛け声を合図かのようなタイミングで、階下から多数の襲撃者たちが駆け上がってきた。

「ひいぃっ–っ!」

 多勢に無勢のうえ、こっちはほぼ裸。

 絶望感に包まれるレイを左右から掴むと、二人は全力で駆け出す。

「さ、レイっ!」

「行きますわ!」

 マコトの背後射撃でけん制しながら、三人は更に上層へと、階段を駆け上がる。

『待てえぇっ! お前らあぁっ、逃がすなよおぉぉっ!』

 言いながら、ゲドロクは自らが先頭になって、ビークルの重火器を乱射させつつ追いかけてきた。

 規則正しい段差を強靭なタイヤで滑らかに潰しつつ、破壊の重機が鈍足ながらも追いすがってくる。

 レイたちの足が少しでも遅くなったら、途端に追い付かれてしまうだろう。

「はぁ、はぁっ!」 

 高層廃ビルの屋上まで逃げて来た三人。

 屋上には僅かな廃材が転げているだけで、身を隠す場所なんてどこにもなかった。

 出入口は扉も壁もクリアな超硬質樹脂だけで作られていて、屋上に出ずとも階段から頭を覗かせるだけで、全てが確認できる仕様。

 誰一人として住む者の無い海上都市の街並みは、月明りのみに照らされて、コーストタウンの名に恥じぬ荒廃っぷりだ。

 くすんだ汚れと埃に彩られた無機質な廃ビルの屋上に、生気溢れる肌色の美少女三人だけが、異質な存在である。

 銃撃からの逃走の果て、レイは手に握られたシーツの布片のみの姿にされ、マコトもユキも極薄メカビキニが完全に崩壊し、チョーカーとグローブとブーツだけという姿。

 三人は、秘すべき肌も露わな恥ずかしい半裸状態にされていた。

 片手ほどの切れ端を胸に充てて、レイは絶望感に飲まれてゆく。

「も、もう…逃げ場がない…」

 遠くで明るく輝くのは、眠る事を知らない都市の輝き。

 優しい夜風が、頬を撫でる。

 さっきまで観光を楽しんでいたあの輝きが、レイには限りなく遠い場所に思えた。

 マコトはカラになったレーザーガンのカートリッジを廃棄して、ユキは手首のコンソールを確かめている。

「カートリッジはもう無い」

「私のヒートガンも、エンプティですわ」

 屋上に追い詰められてしまったうえ、隠れる場所も反撃の手段も無し。

 三人が抜けて来た扉の向こうから、重機の爆音が急接近してくる。

(もう お終いだわ…)

 お嬢様がヘタりこむと、マコトは優しく、レイの肩に手を置く。

「レイ、ここまで よく頑張ったね」

「……マコトさん…」

 美しい中性王子様の優しい表情が、レイには別れの言葉にも感じられる。

 屋上の出入り口が破壊されると、重機を先頭に十数人の男たちが、雪崩れ込んで来た。

「若ぁっ、いましたっ! あそこですっ!」

 三人を見つけた男がゲドロクに声をかけると、男たちが油断なく遠巻きで、三人を包囲。

 ゲドロクの重機が正面に位置すると、マコトとユキはレイを背後に、屋上の端へと後ずさる事しか、出来なかった。

 背後には、腰までの高さな朽ちた防護壁だけで、あとは何も無い夜の空間。

 三人は、確実に追い詰められてしまった。

『ゲェッゲッゲッゲエェッ、追いかけっこはぁ、ここまでだねえぇ』

「く…っ!」

 裸の肢体を両腕で隠しつつ、マコトもユキも、美顔を悔し気に憂させる。

 追いつめられたお嬢様も、無意識に涙を光らせてしまっていた。

「ううぅ…」

 対して不遜な男たちは、強気な表情ながらも恥ずかしそうに裸身を隠す美少女たちの姿に、イヤらしい欲望が剥き出しである。

 マコトは男たちをキっと睨みつけながら、ゲドロクに言い放つ。

「ボクたちは好きにしていいです! そのかわり、レイだけは見逃してあげてください!」

 マコトの言葉に、レイが涙の愛顔を向ける。

 勝利を確信しているゲドロクの返答は、やはり下衆な者たち特有の言葉。

『その前にぃ、まずはお前らの武器をぉ、捨てて貰おうかあぁ?』

「……ええ…」

 凛々しく応じるユキの言葉で、二人が手持ちの銃を男たちの足下へと転がす。

 弾切れのハンドガンを、ゲドロクは見せつけるように、重機の小型アームでグシャンと潰した。

「さあ、レイは解放してあげてください!」

 マコトたちの頬に光る冷や汗を、ゲドロクは見逃さず、更に楽しもうとニヤつく。

 裸の女たちを追い詰めながら、それでも油断せず重火器を向けたまま、却って勝利者として更なる要求をしてきた。

『ふふぅぅううん? まだまだだなあぁ!レイを助けたかったらあぁ、三人でホールドアップぅ、降参のポーズをぉ、するべきじゃないのかなああぁ?』

 裸の女性たちに対し、大勢の男たちの前で両手を上げろ。

 という要求に、レイは驚愕する。

「そ、そんな…」

「…解りました…」

 悔し気なマコトの言葉で、二人がしなやかな両腕を頭上に掲げる。

「マ、マコトさんっ…ユキさんっ…っ!」

  マコトとユキの裸身が隠せなくされて、男たちの下衆な視線に晒された。


              ☆☆☆その④☆☆☆


 大きな双乳も引き締まったウェストも、スーツを失った裸の腰も、男たちの好色な視線で舐め回される。

 裸のお尻の上部では、二人の尻尾がヒクんとわななく。

 犯罪者への裸身公開という仕打ちに、二人の気丈な捜査官は瞼を閉じて頬を上気させ、強い恥辱に震えていた。

 襲撃者たちは、晒された美しい裸たちに興奮しきりだ。 

「見ろよっ! 特別捜査官様の、ストリップだぁっ!」

「銀河に轟くワイルド・ビッチの 全裸公開と来たぁっ!」

「ゲドロク様っ! 俺ぁ一生っ、付いていきますぜっ!」

 下衆な感性と下卑た視線を、ジっと耐えるしか出来ない二人。

「ひ…酷すぎる…っ!」

 私の為に、二人だけを恥ずかしい目になんて。

 マコトたちの恥辱を自らのように思ったレイは、しかし恐ろくて恥ずかしくて、二人のような行動には出られない。

 そんなレイに、ゲドロクは嬉しそうに命令をする。

『おやあああぁぁ? レイは降参しないのかなああぁ? なら三人纏めてぇ、殺しちゃおうかなああぁぁ?』

「っ–っ!」

「レイは許してあげてください!」

 食い下がるマコトに、却ってレイは、背中を押されていた。

 二人の間で一歩前に出て、決意の眼差しをゲドロクに向ける。

「マ、マコトさんとユキさんは、関係ないでしょう…! 私だけを、す、好きに しなさいよ…っ!」

 言いながら、レイも頭上に両手を上げて、一糸まとわな裸身を男たちに晒した。

「うひょ~っ、お嬢様も全裸だあ~っ!」

「その場で一回転しろ一回転~っ!」

 ゆっくりと一回りする三人の裸体に、男たちの劣情が、声と視線でズキズキと突き刺さる。

「もういいでしょう! 約束通り、レイを解放してください!」

 気丈にゲドロクを睨み上げる裸美少女の要求を、勝者気分のゲドロクが呑むワケなど無かった。

『三人のストリップを見てたらあぁ、三人とも手に入れたくなっちゃったなあああっ!』

 言うが早いか、重機から三人のやや手前へと、二発のカプセルが発射。

 マコトたちのすぐ近くで、モウモウと白い煙が立ち上り始める。

「! 神経ガス!」

 緩い夜風で薄れる痺れガスが、三人に向かって少しずつ流れてきた。

「レイ、口を塞いで!」

『おおっとぉ、手を挙げてろぉっ! 動くなよおお!』

 三人は身を屈ませることも、身体や口元を隠す事も許されず、裸身を晒したまま流れ来る痺れガスを受ける事しか、出来ない。

 このまま逃げられなければ、覆い続けるガスが僅かずつだけど確実に三人の身体へと浸透し、痺れて動けなくされてしまう。

 そうなったら、三人とも目の前の男たちに。

 レイは、自分が二人を巻き込んでしまった事に、涙するしか出来なかった。

「あぁ…マコトさん、ユキさん…ごめんなさい…」

 しかし二人のケモ耳は、ピンと立っていて、それは諦めの感情ではない。

 お嬢様に聞こえるような小声で、マコトがユキに尋ねた。

「ユキ、そろそろ?」

「ええ。あと五…四…」

 自信たっぷりで答えるユキに、マコトはウンっと強く頷く。

「……?」

 二人の会話の意味が解らず、愛顔を「?」にキョトンとするレイ。

 マコトは、美しくも強気な笑顔をレイに向けると「行くよ!」と小声で合図。

「え…ぇええっ!?」

 二人が素早くレイの両腕を捕らえると、思いっきり背後へと跳躍。

 高層ビルの屋上から夜空に向かって、三人の裸身が飛び出した。

『な、何いいぃっ!?』

「ええええええええええええええっ!」

 突然の投身行為に、レイは驚愕と動揺を隠せない。

 ああ、あのままゲドロクたちに、好き勝手されるくらいなら。

 たしかに、死んだ方がずっといい。

 そんな思考が、頭を過った。

「ああ…私、死んじゃうんだ…でも、マコトさんたちと一緒なら–きゃっ!」

 などと悲壮に沈んでいたら、何か柔らかい物の上に落ちて弾んだ。

 強烈な風に吹かれて、何かに乗って超高速で飛翔していると、認識できる。

 天国って、こんなに強風地帯なの?

「レイ、もう大丈夫だよ」

「地上じゃなくても、間に合わせましたわ!」

 ユキが、自慢げながら当然のように言いつつ、手首のコンソールを弄っている。

「ユキの操縦は銀河一だから 信じてたよ」

「え? ユキさん? えええ?」

 三人は、海上都市の超低空を飛翔する、輝く白鳥型な宇宙船の上にいた。

 ビルから飛び降りた少女たちを受け止めたクッションが縮んで吸収されて、船体はユキのコンソールで操縦されている。

 凄い風が当たるスピードとはいえ、航宙船からすれば、墜落ギリギリの超鈍速。

 二人のブーツが船体に吸着していて、M時座りをしているユキの腰前でレイを抱き留めて、飛ばされないように身を挺してホールドしていた。

 同じく自分のコンソールを操作しているマコトは、二人の前で盾のように、裸のまま両脚を肩幅に広げてスックと立ち、前からの風を裸身と尻尾に受けている。

「こ、これは…宇宙船?」

「つまりですわ」

 レイを救出に来た二人の計画では地上からの脱出だったけど、まさかのゲドロク逃走で、屋上に逃げるしか手が無くなった。

 そんなアドリブでも、二人は脱出方法を考えだして、阿吽の呼吸で逃走をして、レイを無事に救出したのだった。

「思っていたよりも相手が多くて、屋上までに全滅させるのムリだったし、しかも予想よりも早く屋上に追い付かれちゃったからね。追い詰められたあと時間を稼ぐのに、いやぁ恥ずかしかったよ。ね、ユキ」

「無論ですわ! ですからマコト、このままあの犯罪者たちを逃がすような事、いたしませんわ!」

「うん! あいつら 絶対に許さない!」

 正義の遂行+仕返しの決意で微笑むマコトたちは、眩く美しい生命力で輝いていた。

 突然に飛来した小型の宇宙船に、ゲドロクたちは動揺を隠せない。

『あ、あれはぁ、宇宙船んんっ!?』

 宙を舞う白鳥は背中に三人の裸美少女を乗せたまま、大きく優雅に旋回。

 嘴のような艶めく先端を、男たちの群がる廃ビルへと向けていた。

「ア、アイツが噂のワイルド・ビッチ号かっ!」

「バカっ、そもそもトラッシュ・ツインズだろうがっ!」

『そんな事ぉっ、言ってる場合かあぁっ! うう撃ち落としちゃええぇっ!』

 武装重機の重火器群を先陣に、襲撃者たちの乱射攻撃が、裸の三人へと放たれる。

「きゃああああっ!」

 前方から降り注ぐ弾幕に裸のお嬢様が怯え、マコトとユキは動じない。

「大丈夫ですわ。あの程度の弾幕なんて、片手でもいなせますわ」

 落ち着いて話す裸のゆるふわガールは、手首の大型コンソールで白鳥をスルスルと操縦。

 突進の速度を全く落とさず、降り注ぐ弾幕を右に左にと優雅にかわす。

「だめです若っ! 当たりませんし、そもそもこんなハンドガンじゃあ、当たっても船には傷一つ付きませんぜっ!」

 重機からのミサイルなどはヒラりとかわしてチャフで始末し、その他のレーザーやヒート系は、そもそも携帯火器過ぎて、船の装甲にはダメージにならない。

 ユキが攻撃を避けているのは、それでも船体に焦げ跡とか付くのがイヤだからだ。

 ショートカットなボーイッシュ裸ガールのコンソール操作で、白鳥の嘴がクワっと開く。

 と、対戦艦用の長身メガ砲、通称ガルバキャノンが、スルっと伸びた。

 マコトが、怒りを込めて通告をする。

「ゲドロク・ブラン! 誘拐と公務執行妨害と殺人未遂と強制猥褻未遂と重火器の密輸入及び違法携帯とその他もろもろっ! ついでにあなたたちも一纏めです!」

 ゲドロクの手下たちに向けて、特別捜査官の権限による死刑執行の宣言をするマコト。

 グングンと近づく白鳥に、ゲドロクたちが恐怖で包まれる。

 嘴から伸びる対艦ビーム砲が光を集めると、対象者たちに恐るべき破壊力を実感させた。

 –キュイイイイィィィィィィ…!

『や、ヤバイぞおぉっ! 僕は逃げるうううぅぅぅっ!』

「「「ああっ、若ずるいっ!」」」

 武装重機が我先にと踵を返すと、襲撃者たちも出口へ向かって全速力。

「逃がしませんっ! それにっ!」

 マコトが指先でコンソールのマークにタッチをすると、白鳥から怒りの眩い一撃が放たれた。

「ボクたちは『ホワイト・フロール』ですっ!」

 –っっドチュウウウウウウウウウウウウウウンンっっ!

『うわうわうわっ–ウソおおおおおおおおっ!』

 対戦艦用の、低速だけど破壊力絶大なエネルギー弾が、高層廃ビルの屋上に一瞬で着弾。

 ビルそのものが巨大な光球となって蒸発しながら、夜の海上廃都市を照らす。

 –ドドドドドドドドド……っ!

 溜められた高エネルギーが爆発をすると、ビルの跡地までもが抉れて消滅。

 犯罪者たちは塵も残さず蒸発をして、廃墟だったマンションも、その海上立地も、大きな陥没しか残されなかった。

「ふぅ…」

 犯罪撲滅が完了すると、マコトはユルユルと首を回し、ペタんと座り込む。

「ああ、ひどい目に遭ったね~」

「本当ですわ。さ、早く帰ってシャワーを浴びて、サッパリしましょう」

 唖然としながら陥没地帯を見送っていたお嬢様に、マコトが話しかける。

「さてと。ターディルさんには レイが報告して、安心させてあげる?」

「え…あ、そうですね」

 と、心の準備が整う前に、マコトの声で反応したのか、二人のコンソールが通信回線をオートで開く。

 船外モニターが投影されると、ターディル氏が大きく映し出された。

『おおっ、お嬢様っ、御無事でっ–おっと失礼っ!』

 ターディル氏の携帯通信モニターに映し出されたのは、三人の裸。

 一瞬だけ認識が追い付かず、慌てて裸身を隠すユキとマコトだ。

「い、ぃやですわ! ターディルさんってば!」

「あ、あっち向いてて!」

「あ、ターディルさん! 私たちなら大丈夫ですよ!」

 対して、身内なレイは、裸身を隠す事なく笑顔で無事を報告していた。

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