第五話 海上廃都市


              ☆☆☆その①☆☆☆


 ビル建設の景色の中に、誘拐犯が潜んでいたのだろう。

「あの誘拐犯」

「ええ、レイの隠密行動を知っていた。と考えられますわ!」

 脱衣室へと駆けながら、素早く思考する二人。

 破壊音を聞いたターディル氏が、慌てて浴室に駆け込んできた。

「ど、どうしましたお嬢様っ–っし、失礼っ!」

 全裸のマコトとユキに驚き詫びながら、ターディル氏はレイの身を案じ、室内を見渡す。

 二人は裸身をさりげなく隠しつつ、駆けこんだ脱衣室で頷き合った。

「ユキ!」

「ええ!」

「ターディルさんっ、誘拐犯はエアクレーンで東の二時方向に逃走中です! ボクたちもすぐに追いかけますので、先に追跡してくださいっ!」

「わ、解りましたっ!」

 夜空を逃走する大型エアクレーンを、ギリギリで目視していたターディル氏は、意識的に裸の二人への視線を避けつつ、地下駐車場へと走ってゆく。

 マコトとユキは、極薄メカビキニを急いで身に着けると、地下駐車場の国家公務員用非常スペースへと駆けつつ、ユキが手首のコンソールを操作し始めた。


 夜の都市上空を大型重機で飛行する危険行為は、法律違反だ。

「まさか、異星であんなモノまで持ち出すとは!」

 ターディル氏は、大使館の大型高級車を高速で走らせながら、レーダー同調の追跡カメラも注視しつつ、上空の大型重機を追跡し続ける。

 間もなく、失踪する大型車の右横に、ユキが操る国家公務員専用のバイクが、横付けをしてきた。

 後ろにはマコトが乗車していて、その右手にはレーザーガンが握られている。

「おお、お二人っ!」

 マコトはユキの背中にピッタリと掴まりながら、大型レーザーガンの先端に小さなロケットを装着。

 ブレる事なく失踪するバイクの上で、意識を集中して上空の重機に狙いを定めると、プシュっとロケットを発射。

 撃ち出されたロケットは小さな炎を煌めかせながら、重機のお尻に接着された。

「センサー貼り付け!」

「認識。これで見逃しはありませんわ!」

 二人の素早い連携に、ターディル氏はつい魅入ってしまう。

「ターディルさん、乗せてください!」

「は…? あわわっ!」

 マコトが言いながら、ユキが寄せるバイクから、大型車の助手席へと乗り移ってくる。

 マコトが後ろの扉を開けると、その掌を掴んだユキが後ろの座席へと乗り込んだ。

 放逐されたバイクは、プログラム通りに車道の脇へと身を寄せて停車。景色と一緒に、そのまま背後へと遠ざかってゆく。

 ユキは素早く追跡画面を注視し、マコトは気になる事をターディル氏に尋ねた。

「ターディルさん、誘拐犯に心当たりは?」

「はい、実は…御座います」

 初老な自称ガードマンの話では、レイの婚姻相手はサゾックでも五本指に入る製薬大手「アラシアン製薬」の息子で、両家の繋がりはサゾックを更に大きく飛躍させると、期待されているらしい。

 対して、クロムギン家との繋がりを強めたい新進企業があり、その名を「ブラン重工」という。

「ブラン重工は、急速に発展した素晴らしい企業ではありますが…いかんせん大変な問題がありまして」

「問題…ですか?」

 何やら犯罪の臭いがする。

 二人の目の前に、ターディル氏の腕時計型デバイスから、二枚の立体写真が表示される。

 一人は優しそうで細マッチョで、しかし平均的でこれといった特徴のないフェイスの、赤髪青年。

 もう一人は、デップリと肥えていて目元もイヤらしく、口元もブルドッグのようにだらしなく、犬の垂れ耳も悪い意味でお似合いな、緑髪の青年。

「ぇえと…」

 アラシアン製薬の息子、赤髪の青年を選ぶのも当然だろう。

「お嬢様は、外見で男性を判断されるお方ではありませんが…」

 ああ違うんだ。と、二人は思った。

「アラシアン家のルービス様は、とてもお優しく知性も常識も経営手腕も兼ね備えた素晴らしい御仁です。一方で、ブラン家のドゲロク様は、八男という自由な身でありながら女性関係やその性癖に、口外もはばかられる程の問題がありまして…ブラン家でも、ゲドロク様を庇うのはもはや限界だという噂もあります…お嬢様でなくとも、ゲドロク様を選ばれる女性は特種と言わざるを得ないでしょう」

「うん…まぁ、そうですね…」

 ターディル氏の視線が、厳しくなる。

「ゲドロク様は…どうやら幼き頃から、お嬢様を想い続けておられたようです。しかしお嬢様のお気持ちが、たとえ青年となって自己紹介を経てもゲドロク様に向かわれない以上、ゲドロク様には諦めて戴くしかありません」

 二人にも、だいたいわかってきた。

「それで、ルービス氏との結婚が決まったから実力行使…って事かな」

「なんとしても…この私の命に代えましても、お嬢様の御身をお守りしなければ…っ!」

 悲壮な決意のターディル氏に、ユキがズバリ尋ねる。

「ターディルさん。あなた、ガードマンではなく執事さんですわね?」

「あ–その…黙っていて、申し訳ありません…」

 シュンとなる初老のターディル氏は、良い人なのだな、と二人は思った。

 初老の執事も、疑問を口にする。

「しかしゲドロク様は、いかにしてお嬢様の隠密行動を知り得たのやら…」

 その答えは、誰でもわかる。

「アレじゃないですか? 地球に来た時の 派手な宇宙船ですよ」

 マコトの言葉に、ターディル氏は素で、ハっと気づく。

「ああっ、そうでしたかっ!  私とした事が、なんたる失態っ!」

 本気で言っている。

 かなりノンビリしたお嬢様御一行の事を二人がなんとなく理解した頃、移動していたビーコンが停止して、地図から消えた。

「この地点には…たしか、廃棄された海上住宅予定地があったんだっけ」

「つまり、お嬢様はその場所にっ?」

「ええ。ターディルさん、この車、単距離なら飛行可能ですわね?」

 マコトは王子様のみたいな強気に、ユキはお姫様のような優雅さで、にこっと微笑んだ。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 建設途中で建設会社が倒産して放置された、海上住宅予定地。

 海上三十メートルに人工の土地を建造して作られた、よくある住宅予定地は、マンションや公園や商店など、これまたよくある、一つの街として活動する予定だった。

 土台となる人工建造地は、高さ二十メートルほどの地下空間として作られていて、内部は、街が活動するに必要な食材などを貯蔵できる倉庫がいくつもある。

 海上住宅地へと続く陸路は上下の車道が一対しかなく、基本的には特別感を求める高級ユーザー用だったと、マコトたちは認識していた。

 陸側車道の片隅にある廃材置き場に停車した高級車から、ターディル氏が下車をする。

「お二方、私に何かできる事は、ございますまいか?」

 お嬢様を命よりも大切に思っている執事なのだから、当然の心配だ。

 ゆるふわの特別捜査官が、落ち着いて答える。

「あなたは一般の方なのですから、これ以上の危険は 承認いたしかねますわ。それに…」

 心配を隠せない初老の執事に、ショートカットの特殊捜査官が自信たっぷりで、言葉を引き継ぐ。

「レイは必ず、ボクたちの命に代えても 無事に連れ戻してみせます!」

 強く言い残すと、ユキが大型高級車をジャンプモードに変形させて、海面ギリギリの飛行で海上住宅地へと向かった。


              ☆☆☆その③☆☆☆


 海上ゴーストタウンと化している、住宅地。

 いくつかのタワーマンションや建設途中のまま廃棄された建造物が、月明りに照らされている。

 その姿は、まんま死んだ街だ。

 マンションは外壁が劣化して各所で剥がれ、ガラスも割れて、吹き曝しな海風や埃やカビで、もはや修繕するより立て直した方が安上がりなレベル。

 公園の遊具も破損がひどく、植え込みの植物たちも枯れたり逆に繁茂しすぎたりで、とても心癒される光景ではなかった。

 そんな地上にある数棟の高層マンションではなく、地下街の一室に、レイは捕らえられていた。

 全裸で誘拐されたお嬢様は、裸のままベッドの上で仰向けに転がされ、×字姿勢で拘束されている。

 やたらと広い倉庫らしい室内は、汚くて、破棄されたコンテナと埃だらけでありながら、拘束されているベッドは持ち込まれた物らしい。

 新品そのものでフカフカで、しかし異様に趣味の悪い金ピカ仕様だった。

 誘拐犯たちは、レイを攫うと海上のこの地へと連れてきて、人員を降ろすと、誘拐に使用した重機を建設現場の近くへと自然な形で放置。

 今は倉庫の外で、怪しい男たちが念のためのと、隠れて見張りについていた。

 倉庫内では、大の字に寝かされたレイの足下に、肥えた青年が一人。

「僕もねぇ、こんな形でキミを手に入れるようなマネはぁ、したくなかったんだけどねえぇ。ゲッゲッゲェ」

 イヤらしいを超えたレベルでナチュラルに下衆笑いを零すのは、ブラン重工の放蕩八男であるゲドロクだ。

 見下され続けた男が逆転して絶対優位に立ったかの如く、勝利した復讐者みたいな態度で、裸の美しい令嬢を鑑賞していた。

 振った男に辱められる恥辱で震えろ。

 という劣等意識が丸出しな、人語を話すブルドッグを更にわざと品種改悪しましたみたいな、下品な視線で見下ろされながら、しかしレイは羞恥で上気しつつ、強気に抗議する。

「攫われた時から、誰の仕業かと考えてましたが…あなた、誰ですか?」

「ゲエッ! 僕の事ぉ、覚えてないのかぁいいぃっ?」

 ショックで青ざめるゲドロクの言葉が耳に入らなかったらしいレイは、強く言葉を、更に続ける。

「そもそもこんな犯罪行為、決して許される事ではありません! どこの誰かは知りませんが、今すぐ私を解放しなさい!」

 覚えのない相手とはいえ、全裸のままだから、身動きできなくても、恥ずかしくて顔を背けたい。

 しかしそれでは、まるで敗北したかのような気分だから、レイは涙が浮かぶ大きな瞳で、肥えた醜男を凝視していた。

「ぼ、僕を…知らない…だと…っ!?」

 レイの認識に悔し涙で歯ぎしりしながらも、ゲドロクは有利な立場に、ショックと怒りを鎮める。

「グググうぅっ…ま、まぁいいかなあぁ。なんといってもこれからはぁ、僕たち二人の時間ん、なんだからねえぇ!」

 怯えろおぉっ!

 などと勝ち誇るゲドロクに、しかしお嬢様は、強気な抵抗の意思を隠さない。

「今すぐ私を解放すれば、この恥辱も忘れてあげます! まあ相手も、見知らぬあなたですし!」

 そんなお嬢様の意思ですら、実はゲドロクの性癖の最深部にとっては、堪らない様子。

「ぃいよぉ、その強気いぃ。ヘシ折りたくてぇウズウズするよおぉっ! それに折角ぅ、僕のベッドにご招待したんだからぁ、素敵な一夜をぉ、過ごそうじゃあないかあああっ!」

 エヘッヘッヘェ。と、気持ち悪くしかし優雅に、ワインを一口戴いて笑うゲドロクだ。

「いいや一夜じゃなくてぇ、全て不問の三日間 だったよねえぇっ! 三日三晩…グェヘッヘッヘッヘ!」

 美青年とは真逆な醜青年の言葉に、レイはゾっと、嫌悪の予感が走る。

 お嬢様の表情を読み取ったゲドロクは、完勝気分で笑って告げた。

「キミの旅行はぁ、僕とのぉ、生涯忘れられない時間を過ごす為のぉ、お忍び旅行になるんだよおおおぉぉぉっ! これから最終日までえぇっ、誰ぁれも邪魔しないこの空間でえぇっ、二人っきりでえぇっ、たああっぷりとおぉっ、愛し合うんだよおおぉぉっ! ゲェッヘッヘッヘエェェッ!」

 アルコールの勢いとか関係なく、その眼には狂気を超えた卑猥な邪光が輝いていた。

「何をバカな–っ!」

 ワイングラスと涎を床に落としたゲドロクが、上着を脱いで歩み寄ってくる。

「ぃいやよっ! 来ないでよっ! 来たらヒドいんだからっ!」

 強く言いながら、拘束された裸身でモジモジとあがくレイ。

 ゲドロクを睨みつける大きな瞳は、羞恥と恐怖で涙が溢れそうになっていた。

「ゲッゲッゲェッ! 本当ならばベッドに縛り付けたりなんかしなくてもぉ、非合法な媚薬『エロX』が手に入っていればぁ、攫ったときに注射して淫乱に落としてやってたのにいぃっ! やっぱぁ、人づての人づての人づてだとぉ、どこかでバカがミスしやがるんだなああああっ!」

 失敗していた密輸に愚痴りながら、パンツ一枚の姿となったゲドロク。

 脂肪タップリでアチコチが揺すられる全身や、尻とか下腹部に食い込むラメ色ブーメラン一枚の姿とか、女性にとっては悪夢のような光景だ。

「こっ、来ないでったら! あっち行ってよっ!」

 全力で手足をモジつかせるレイのバストが、プルプルっと揺れる。

 醜態にドン引きするお嬢様の、嫌悪を隠さない表情も、もはやゲドロクにとっては興奮剤の一つでしかなかった。

「ゥハッハッハアァッ! 僕をぉっ、誘ってるねえぇっ!」

 天井からの照明で、ラメ色ブーメランの中心部分がテラっと艶めく。

「ひぃっ!」

 貞操の危機というより、おぞましすぎるその姿に、レイはもうゲドロクを直視できない。

 怯えた得物に、卑劣な醜男の興奮は更なる高みへ。

「それじゃああっ、愛の営みいぃっ、戴きま~すっ!」

 蛙のようにジャンプしてベッドに突撃したその瞬間、天井付近の小窓のガラスが、ガシャンっと割られる。

「見つけましたっ!」

 透き通る声で飛び降りて来たのは、白い極薄メカビキニを纏った、特別ケモ耳捜査官の二人だった。

「うわぁっ! ななななんだお前たちはあぁっ!?」

 驚いて飛び退いて床に尻もちを着くゲドロクと、レイを護るようにスタっと着地をする捜査官たち。

 マコトは素早く、レーザーガンをゲドロクに向ける。

「動かないでください! ゲドロク・ブラン。誘拐及び婦女暴行未遂の容疑者として、逮捕します!」

「ひいぃっ!」

 容疑者というより真犯人が、短い諸手を挙げて恐れ慄いている間に、ユキが小型のヒートガンを抜いて、レイを拘束から素早く解放。

「さ、こんな不潔なところ、すぐにお暇いたしましょう」

 成金ベッドの綺麗なシーツを取り上げると、レイの素肌に纏わせて後退をする。

 マコトが手錠を取り出して、ゲドロクへと静かに歩み寄る。

 容疑者というか真犯人は、醜顔を悔し気で更に歪ませつつ、ジリジリと壁際へと後ずさる。

「うぅ…っ!」

「観念してください。嫌がる女の子をムリヤリどうにかしようなんて、そもそもどうかしてますよ、あなた」

 壁際まで追い詰められたゲドロクは、冷や汗を流しながらも、唐突にニヤりと笑う。

「ぼ、僕にこんな事してぇ、只では済まないんだよおぉ…ゲエッヘッヘッヘッ!」

 異星人の醜男が不気味に笑うと、ブーメランの中に手を突っ込んだ。

 銃を抜いたらその手を撃つ。

 と注意していたマコトの予想が裏切られ、ゲドロクはパンツの中に隠していたスイッチを、そのまま押した。

「!」

 二人が注視している目の前で、ゲドロクが引っ付いている壁が一瞬でクルりと回転。

 醜男は壁の向こうへと、姿を消していた。

「…あっ、逃げましたっ!」

 刹那に遅れて気が付いた時には、壁の仕掛けがピタリと閉じられ、誘拐犯の逃走を許してしまっていた。

 壁の外から室内のスピーカーを通じて、ゲドロクの下卑た勝利宣言が轟く。

『僕ぉくはぁっ、頭が良いんだよおおおおっ! こんな事もあろうかとぉ、脱出装置をいくつもぉ、仕掛けておいたのさあぁぁぁっ! ゲッヘッヘエェッ!』

 宣言と同時に、左右の壁の扉が開かれる。

 と、手に手に火器を持った怪しい男たちが、雪崩れ込んできた。

 二人はレイを挟んで、大きなコンテナに身を隠すものの、左右から挟まれて身動きが取れない状況。

 このままでは、脱出もできない。

「迂闊だった…!」

「まさか、脱出装置まで設置していたなんて。短時間で随分と手の込んだ事をする犯罪者ですわ。レイ、少しの間 息を止めていてくださいな」

「え…んんっ!」

 言いながら、ユキがレイの美顔から全身にまで、まんべんなくスプレーを吹きかけた。

「…ぷは、あの、何を…?」

「私たちの備品で、防弾防熱防粒子の特殊防護スプレーですわ。これでレーザーガンや実弾による攻撃を受けても…そうですわね、致命傷にはなりませんわ」

「…ひいぃっ!」

 死なない程度には痛いけど無いよりはマシ。という防御手段だ。

 男たちの様子を探ろうとマコトがチラと顔を覗かせたら、左右から一斉に激しい銃撃が襲ってくる。

「うわっ–両方向となると、結構厳しいかな」

 それでも、レーザーガンで反撃するマコトに対し、レイを挟んだ背後のユキは、キョロキョロと周囲を見回す。

 一人また一人と撃ち倒しながらも、襲撃者たちの勢いの数も、全く衰えず。

『ぅおいお前らぁっ、もう多少の傷がついても、かまわないからぁっ、僕のレイを取り返せぇっ! 邪魔な二人はぁ、報酬としてお前らの好きにしてぇ、良いからなああああっ!』

 醜男八男の命令に、襲撃者の男たちの勢いがイヤらしく強まるのが、解る。

「まったく、これだから犯罪者という人たちは!」

「マっ、マコトさんっ、どうしましょうぅっ!」

 二人の美少女を自由にして良いと言われた襲撃者たちは、生きたまま捕らえようと、小さなカプセルを数個、投げ込んできた。

「! レイっ、息を止めてくださいなっ!」

 ユキが白い掌でレイの口を塞いだ次の瞬間、カプセルから白い煙かが噴き出した。

「催眠ガス!」

「ひいぃっ!」

 コンテナの影で白い煙に覆われてゆく恐ろしい事態に、レイは怯える。

 そんなお嬢様を、替わってマコトが抱きしめて、安心させる。

「大丈夫ですよ、レイ。ユキ!」

「ええ、見つけましたわ。効果は保証できませんけれど」

 マコトの言葉に阿吽で応えたユキは、口元を隠しながら、離れた壁の小さなスイッチを指している。

「カンとしてはどう?」

「位置的に、この部屋から出られると思われますわね」

「充分っ!」

 二人のヤリトリが理解できないお嬢様は、二人に両腕を捕られて立ち上がらされる。

「レイ、全力疾走ですわ!」

「えっ–ぇええっ!」

 二人は左右からレイを挟んでガードしながら、遮蔽物の無い壁に向かって走り出した。

 マコトが左右へのけん制射撃をしつつ、三人は睡眠ガスのない壁際へと到着。

 数人の襲撃者がマコトの銃撃で倒れると同時に、ユキが手を伸ばして壁のボタンを素早く押した。

 途端に、目の前の壁がパックリ口を開けて、壁に向かって走っていた三人はそのままの速度で飛び込む。

「きゃあっ!」

「推測した通りですわ! ゲドロクが用意した脱出装置の一つでしたわ」

「さすがユキ!」

 尻もちを着いた三人が急いで立ち上がると、通路を迂回してきた銃撃者たちに見つけられてしまった。

「あっちは!?」

 と問うマコトに、ユキは手首のコンソールを操作しながら、読み込んでいたこの建物の設計図を素早く捜査。

「ええ、地上への出口は回り込まれました! こちらですわ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る