第四話 婚前観光


              ☆☆☆その①☆☆☆


 地球に降りるシャトルは、普通の民間シャトルに搭乗。

 それでも特別席の完全個室を使用しての、厳重警戒態勢だ。

 地上の空港に降りると、地下駐車場の更に地下層へと向かい、地球にあるサゾック大使館が用意した、グレーの高級中型エレカへと乗り換える。

 外見は一般的で目立たないけど、装甲も速度も防御装置も、地球連邦の許可が必要な特殊車両である。

「運転手はわたく–んんっ、自分が勤めますので–」

 と申し出る黒服の男性に、ユキが笑顔で提案した。

「運転は私が致しますわ。ターディルさんは、どうぞ助手席で周囲の警戒を」

「え–ゴホン…では、よしなに」

 マコトたちが車体のチェックを終えると、操縦席にはユキが乗り、助手席にはターディル氏が搭乗。

 後部座席の中央にレイが座り、マコトは助手席の後ろに座った。

「わぁ~、わたし マコトさんとお隣~っ! ユキさんてばとっても気が利く素敵な方なのね! 嬉しいわ、うふふ」

 お嬢様が頬を染めて、子供のように、隣のマコトへと縋り付く。

「いえ、あの…わワタクシは、ビークルの操縦が得意ではないので–」

「またぁ~、マコトさんはボクっ娘でしょ~? ユキさんも、みんな同い年なんだし、他人行儀は無し無し!」

 と言いつつマコトにベタベタするレイの姿を、ルームミラー越しに見たユキは、やや呆れながらも、なんだかご機嫌斜めの様子だ。

「それでは、出発いたしますわ!」

「後ろOK」

 マコトの報告に、ユキがエレカを、ちょっと乱暴に発進させる。

 長い地下道から地上に出ると、世界はまだ昼前の、明るい陽射しに溢れていた。

 港から都市部へと向かう車中で、ユキがレイに尋ねる。

「それで、これからどちらに向かわれますか?」

 質問に答えたのは、レイではなくターディル氏。

「わた–じ自分としましては、予約を入れたホテルに向かい、そのまま三日間、部屋で大人しく映画やネットショッピングやネット観光などで過ごしていただければ幸いです」

 つまらなすぎる提案を、真顔でしている。

「そんなのイヤ~! 全身カビだらけになっちゃう!」

(うん それはない)

(ええ それはありませんわ)

 反射的にお嬢様に同意する、マコトとユキだ。

「ね、ね、マコトさん! マコトさんのオススメコースとか、ありません? 美味しいトコとか綺麗なモノとか楽しいトコとか!

 突然に指名をされて、マコトも慌てて考える。

「ボ、ボクですか? ぇえっと……」

「わ! やっとボクっ娘~! 目の前で見れて感激~! やっぱりマコトさんは、そうでなくちゃ!」

 グイグイと来るお嬢様は、瞳をキラキラと輝かせて、なんだかすごく嬉しそうな圧を感じる。

「えっと…そういう女の子っぽいことは–」

「ユキさんの方が詳しいのでしょ? ユキさん、よろしくお願いします!」

 あらためて指名されたユキも、ちょっと戸惑った。

「え、あ、はい…」

 このお嬢様、子供っぽい言動に比して、意外と相手の事を認識しているんだな。

 と、二人は理解。

 ユキは、そんなレイが気に入り始めていた。

「それでは、ご満足いただけますかどうか。ご案内させていただきます」

 エレカは、今度は楽しそうに急カーブを切ると、セントラルシティーへと向かった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 各惑星国家の主惑星は、一つの統一機関で纏められているのが普通だ。

 この地球国家も、地球領域の主惑星として統一機関に纏められているが、旧世紀の国家領域も維持されている。

 地球連邦所属のニッポン国も、そういう意味では地球上において、特別に珍しい存在ではない。

 国家の首都はトーキョーであり、連綿と続く独自の文化伝統を、他惑星のそれらを柔軟に取り込みながら、維持し続けていた。

 地球国家の住民の八割は、母星である地球出身者であり、外見的には昔ながらの地球星人が殆ど。

 これは惑星国家それぞれで、同じような状況である。

 ユキがエレカをカブキシティーに到着させると、マコトとターディル氏は周囲を警戒。

「大丈夫。怪しい影は無し」

「こちらもでございます」

 やっぱり、ガードマンらしくない本職の言葉遣いが隠せないターディル氏だ。

 地下駐車場の、国家公務員優先エリアに駐めると、四人は昼の街へと繰り出した。

「わぁ~、ここが銀河でも有名な、カブキロードなのねっ!」

 平日の昼の繁華街は、多くの人々、様々な異星人たちで賑わっている。

 現在でも開発を繰り返す町並みは、周囲を百数フロア級な超高層ビルが立ち並んでいるものの、街の顔となる大通りなどは昔からの外観や雰囲気を、あえて残してもいた。

 華やかで先進的だけど懐かしさも感じる街並みに、レイはキョロキョロと嬉しそうだ。

 喜びを隠さない素直なお嬢様に、案内したユキも嬉しい。

「レイ様、まずは軽く お茶など如何でしょう?」

「オチャ? ああ、もしかしてリョークーチャ? あの緑色の凄そうなドリンクよね! ぜひ味わいたいわ!」

 四人は、三千年以上の歴史を持つ伝統のお茶屋さん「金子屋」へ。

「わあぁ…これが噂に聞くギョクローチャなのね! すんすん…あぁ、なんてみずみずしい、緑の素敵な香りなのかしら…」

 地球産の緑茶は様々な惑星で楽しまれている人気の商品と文化であり、本格的にお茶を楽しむ為だけに来星する異星人たちも多い。

 暖かくて爽やかな緑茶を戴きながら、レイが告げる。

「あ、そうだわ、ユキさんマコトさん。私に様づけは無しでね! それで私アレですっ、地球惑星の伝統的なアレ、ヨタカキモノ? スモウフンドシ? そういうドレス、見てみたいし着てみたいです~っ!」

 お嬢様の呼び方要望と、やや間違った衣服の要望に、ユキは冷静だ。

「そうですね。それではレイ、ショップに向かいましょうか」

「ち、ちょっとユキ…!」

 依頼主を呼び捨てのうえ、夜鷹の恰好や褌姿を披露させるつもりなの?

 と、視線と耳ピクで問うマコトに、ユキはイタズラっぽいウィンクを寄越す。

 代々続く、和服のショップに到着したレイたち。

 お嬢様は、シンプルだけど深さを感じる、平屋づくりな木造の純和風な店構えに、ワクワクが止まらない様子だ。

「こちらの『和装飾 藍』でしたら、レイのご要望にお応えできますわ」

 藍色の大きな暖簾をくぐると、ユキは慣れた様子で若女将にリクエストを伝える。

「承知いたしました。それではお嬢様、どうぞこちらへ」

 丁寧な若女将に連れられて、レイが奥の試着室へと消えてゆく。

 マコトがユキを、静かに問い詰めた。

「こらユキ、何を考えているのさ」

「あら、レイのご要望に お応えして差し上げておりますのよ」

 お姫様の、イタズラっぽくホホホとか笑いそうな笑顔のユキだ。

 十数分の後、試着室から出て来たレイは、美しく豪華な着物の、最上級な花魁衣装を着飾っていた。

「わ…あれって…」

「こ、これは…」

 マコトとターディル氏が、一緒に驚く。

 煌びやかな着物だけでなく、ヘアスタイルも髪飾りも白塗りの化粧も、豪華で上品なスタイルがお嬢様と相まって、まるで異文化の王族の正装のようだ。

 華やかで優雅な和服を着こなし、更に上品でセンスの良い和装によって、レイ自身も輝いて見える。

 鏡に映った自分の姿に、お嬢様もしばし見惚れた。

「私…こんな素敵なドレスは初めてだわ…っ! ターディルさん、写真写真っ!」

 華やかな衣装で美しく着飾って、女性として気分が上がるのだろう。

 持ち込んでいたカメラで、ターディル氏に様々な角度で撮影させながら、ユラりユラりとポーズを変えて、撮影会を楽しんでいる。

 とはいえ、夜の性的な要素も含まれている花魁である。

「ねぇユキ…これ、大丈夫なの?」

「心配いりませんわ。レイは若女将から全てを聞いて、そのうえで レイ自身が選んだ衣装ですもの」

「そぅ…ならいいけど」

 少なくとも、クロスマン主任が恐ろしいと嘆くフリを見せた外交問題には、発展しないだろう。

 しかもレイ自身が納得しているなら、別に良いか。と、マコトも納得をした。

 レイも気に入った様子だ。

「この衣装、素敵だわ! これ買いま~す!」

 更に「女性用 褌下着」もレイは喜んで複数種の柄を購入したものの、さすがに撮影会は、ターディル氏に全力で止められた。

 その後もレイは、人形焼きや、牛皮を使った涼し気な和菓子や、見た目も華やかなスイーツ系などの軽食を楽しみ、アクセサリーや雑貨や最新のサブカルチャーなどを楽しみ、アミューズメントで人生初の体感ゲームやデジタルプリクラなどを満喫。

 ボディーガードのターディル氏が両腕いっぱいに荷物を持たされながら、アウター系な女子会は続いた。

 そしてもちろん、その間ずっと、レイはマコトの腕に縋りっぱなしでもあった。

 陽が沈むころ、四人は予約していたホテルに到着。

 最上百二十階の部屋で、最高級のロイヤルスウィートだ。

「古風なリョカーンが良かったのに~」

「お嬢様の安全を確保するためです。どうかご辛抱ください」

 やっぱりガードマンらしくない口調のターディル氏だ。

 護衛の意味でも、このフロア全てが一室扱いなこのホテルは、選択肢として間違ってはいない。

 室内は純和風な造りで、レイが思い描いていた旅館のそれに近かった。

 百畳敷の畳み部屋は、緑の香りが溢れていて、身体も心も癒される。

 レイは座布団の上にストんと腰を下ろすと、そのまま仰向けに転がった。

「お嬢様、はしたなくございます」

「あ~楽しかった~! 明日はコーベウシを食べにコーベに行きましょう!」

「え、レイ もう食べる計画ですか?」

 昼間にスイーツだのお菓子だのを散々食べて、ホテルでもこれから夕食をたらふく食べるのに、今から明日の食べる予定を組んでいるレイ。

「えへへ~。だって地球の食べ物、何でも美味しいんですもん~!」

 そんな会話を交わしながら、マコトとユキが室内チェックを終了。

 二人もターディル氏も、ようやくホっと一息出来る。

 それを待っていたかのようなタイミングで、レイが二人に提案してきた。

「ねぇねぇ、マコトさんユキさん、一緒にシャワー 浴びましょう!」


              ☆☆☆その③☆☆☆


「「は?」」

 予想していなかった誘いに、二人は同じ反応。

「いやですが…ボクたちには護衛の任務が–」

 と説明をするマコトの言葉を遮って、要求を押し通すレイ。

「護衛だからこそ、お風呂でも護ってください! ほら早く早く~」

 二人の手を取ったお嬢様は、無邪気に笑いながら浴室へと直行。

「あの、レイ–」

 ユキは視線でターディル氏に確認を取ると、氏は申し訳なさそうに頭を垂れていた。

 女子三人で入っても、シャワー室は十分すぎる、畳五十畳ほどの広さがある。

 洗い場よりも湯舟の方が広く、タップリと湯を湛えた湯舟は階段状に深くなっていて、最深部では立ったまま入れる程だ。

 観葉植物も飾られていて、入り口から向かいと左側の壁は、ともに一面がガラス張り。

 左方向には街の明かりが、中央あたりは海岸付近が、右側は太平洋。

 部屋が最上階であり、更にホテルの壁には偏光バリアが張られているので、景色は見えても外から覗かれる心配は、全くなし。

「あら、ロイヤルスイートにしては狭いのね。でもシンプルでセンスが良いわ。やっぱり地球星人のニッポンジンって、噂通り 控えめなのね~」

 よく分からない納得をしているお嬢様は、女性同士なら裸体をタオルで隠したりしない、おおらかな育ち方をしているようだ。

 平均よりも小さな身長に、平均的なバストとウェストとヒップ。

 しかしお嬢様らしい裕福なオーラを太陽のように発散していて、嫌味を全く感じさせない。

 バスタオルを身体に捲いて浴室に入るマコトとユキが、そんなレイに狙われた。

「あ、二人ともマナー違反ですよ! ニッポンのお風呂はタオル禁止じゃないですか!」

 笑顔で言うや否や、二人のバスタオルがレイの手でサっと奪われる。

「いや、そんな事は–あっ!」

「きゃっ–」

 裸体を晒してしまい、反射的に身体を隠す二人。

 しかし、レイ自らが堂々としていたり女性同士という事もあり、早々に身体を隠す事を諦めた。

 平均よりも背が高いマコトのバストは大きく、ウェストは括れ、ヒップも恵まれている。

 身長は平均よりもわずかに小さいユキのバストも、平均より豊かで、ウェストも細く、ヒップも大きく発達。

 二人のボディラインを全身ジックリと観察するレイは、大きな瞳をキラキラと輝かせていた。

「うわぁあ~、ユキさんもマコトさんも、すっごくセクシーで素敵なボディラインだわぁ~」

「そ、そうですか?」

 女性捜査官同士でも、更衣室などで見られる事が多い二人だけど、自分たち以外の、同い年の女子とシャワーに入るなんて、幼稚園以来だ。

 マコトは妙な恥ずかしさを覚え、ユキはもう全く恥ずかしくないらしい。

「ではレイ、シャワーで汗を流しましょう」

 シャワーの前に立つとセンサーが反応して、暖かい湯を流し出す。

 レイを誘ったユキは、シャワーヘッドを手に取ると、お嬢様の背中に湯を流した。

「わあ~、気持ちいい~♪」

「ふふ…レイはマコトに 流してもらいたかったのでは?」

「も~、ユキさんのイジワル」

 言いながら、二人で笑っている。

 隣で身体を流すマコトには、女子会話が理解できない様子だ。

 繊細な湯の粒を浴びながら、楽しそうなお嬢様は、二人の身体に興味津々のご様子。

「二人の身体、羨ましいわ。ちょっと触っても良いですか?」

 自分のバストをソっと持ち上げながら訪ねたレイは、了解を得てから、ユキの巨乳だけではなくマコトの爆乳にも、両掌を充てる。

「ぅわぁあ~、ポヨンポヨン~! 柔らかくて大っきい~♪」

「あ、あの…」

「うふふ」

 触られる事も女性同士ならよくある事だけど、やはりマコトは恥ずかしさを覚えてしまい、ユキは特にそうは感じないらしかった。

「私の胸も、もっと大きくなってくれないかなぁ」

 ジっと自分のバストを見下ろしつつ、レイは切なげに溜息を零す。

「ですがレイ、バストの大きさは問題ではありませんわ。レイもこれから成長されるでしょうけれど、女性のラインで大切なのは、バランスですわ」

「バランス?」

 自信たっぷりに告げるユキに、レイは「?」顔だ。

「レイは、身長とスリーサイズのバランスがとても綺麗ではありませんか。バストも大きすぎず小さすぎず、ウェストも丁度よく細く、ヒップも安産型でシッカリとしておられるようですし」

「そ、そうかしら…? ワタシはやっぱり、もう少し胸が…」

 まだ、爆乳と微爆乳の二人と比して胸を気にするお嬢様に、ユキは優しく告げる。

「胸の大きさは、先ほどレイが購入された和服のシルエットにも影響いたしますわ。先ほどの和装の若女将も、レイのお身体はとても綺麗だと、レイほど和服が似合う異星の方も珍しいと…とても感心しておられました」

「ボクも、レイは今のままが とても素敵だと思いますよ」

 と、マコトも正直な感想を伝えると、お嬢様は頬を染めて嬉しそうだ。

「そ、そうですか? そうですか…それなら、えへへ」

 ご機嫌になったお嬢様と三人で、シャワーの湯を裸身に流しあう。

 マコトのバストがキラキラと濡れて、ユキのウェストが湯に洗われて、レイのお尻が曲面を艶めいて魅せる。

 塗れたネコ耳をマコトがピンっと跳ねさせて、同じくユキも、ウサ耳の雫を掌で優しく流す。

「さ、体もソープで洗ったし、お風呂だわ!」

 室内の大きな湯舟はプールのように広く、三人が横になって浮いても、まだ十人以上が入れそうだった。

「あら、外にもお風呂が…あ、もしかしてあれが、噂の露天風呂ですかっ!?」

「あ、レイ…っ!」

 マコトが止めるよりも早く、レイはガラス面へと駆けてゆく。

 ガラスの壁にはスライドドアが設置されていて、外には広い屋上空間があり、三人が余裕で入れる程の露天風呂があった。

 裸身にタオルを巻く事もなく、レイは扉を開け放って、飛び出す。

「わぁ~、素敵な眺め~!」

 裸のまま慌てて追いかけて来た二人も、お嬢様の前に廻って周囲の安全を確認してから、ホっと一息。

「レイ、ボクたちの了解なく 飛び出さないでください」

「は~い、ごめんなさい~」

 ペロと小さな舌を見せるレイは、まるでイタズラを咎められた妹のようだ。

「ですが、本当に美しい夜景ですわ」

 そんな言葉で、ユキはレイを許していた。

 露天の屋上を囲む、高くクリアな偏光バリア。その向こうには、夜の街の明かりや工事中の港湾や港、黒い海が、高所から見下ろせる。

 陸の遠くには、真っ暗い山並みが、影絵のような姿を見せている。

 夜空には星々が煌めき、ハーフムーンが優しく見守っていた。

 小さな光の粒が輝く街並みには、再開発が進められている地域もある。

 いくつか建設中なビルもあり、夜の時刻でも重低音で工事が進められていて、この都市がまだまだ発展してゆく息遣いを感じさせる。

 街の反対側に見える水平線は、まるでタールのように漆黒で静かだ。

 露天風呂は、近隣のビルよりも更に高所なので地上から覗かれる心配がなく、しかもクリアな偏光バリアは外側から見ると乱反射をして、内部の様子は人工衛星でも伺えない。

 ショートカットの王子様系ガールと、ゆるふわなお姫様系女子と、絶妙なボディラインの妹みたいなお嬢様。

 三人の美少女はその魅惑的な裸を隠す必要もなく、星空の下での開放的な湯を堪能していた。


              ☆☆☆その④☆☆☆


「レイ、そろそろ上がりますか?」

 タップリの湯で温まった頃合いを見計らって、マコトが促す。

「はい。あ、今夜は三人で寝ましょう」

「いえ、さすがに警備がありますので」

「ぶ~。マコトさんの超真面目~」

 レイの文句に、思わず同意して笑ってしまうユキ。

 お互いの裸を見合ったためか、いつしかお嬢様と、同い年らしい距離感が生まれていた。

 ユキ、レイ、マコトの順に、ガラスの扉を通って浴室へ戻り、三人は脱衣室へと向かう。

 警戒を怠っていたわけではないが、油断が無かったと言えば嘘になる。

 重々しいビークル音が、遠くで聞こえ、数舜で接近。

 その音が二人の意識に引っかかる直前。ユキが脱衣室の扉を開けたタイミングで、背後のガラス壁が、外からの圧力で盛大に割られた。

 –ガジャアアアアアアアアアンッ!

「「っ!?」」

「っきゃあっ!」

 マコトとユキが振り向いて、レイが怯えた浴室内に、眩しい照明が照らされる。

 三人が身動きできなくなった一瞬の隙を突いて、ガラスを破った大きなマジックハンドが、高速で突撃してくる。

 ビル建設などに使用される鋼鉄のアームが、裸のレイを正確に丁寧に捕まえて、窓の外へと引きずり出す。

「レイっ!」

「マコトさんっ–きゃああああっ!」

 裸のまま、慌ててレイの両手を掴もうとした二人だけど、夜間作業用の強烈なライトを充てられると、眩し過ぎて救出が遮られてしまった。

「くっ!」

「眩しいですわっ!」

 激しい光を遮り、更にどうしても裸身を隠す二人は、救助どころか身動きすら取れない。

 その間に、レイを掴んだマジックハンドが、夜の空間へと消えてゆく。

 僅か数舜の誘拐劇。

 重々しい謎のビークル音が、遠ざかってゆく。

 ライトの向きが変わったのは、ビークルが向きを変えたからだろう。

 二人が露天風呂まで駆けだすと、夜の上空をビル建設用のエアクレーンが、海に向かって逃げてゆく。

「レーーーーーーイっ!」

 マコトはお嬢様の名前を叫んでいた。

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