１　偶然（ぐうぜん）ではなくて必然（ひつぜん）だろう

「おおっ、春川（はるかわ）か？　すまない。ちょっと考（かんが）えごとをしていた」

「戦時中（せんじちゅう）に公園（こうえん）でぼうっとしてるなんて、危機（きき）意識（いしき）が足（た）りませんよ？」

　そう言（い）って笑（わら）う桜子（さくらこ）だったが、心（こころ）なしか顔（かお）が青（あお）ざめているように感（かん）じた。

「どうした？　気分（きぶん）でも悪（わる）いのか？」

　俺（おれ）の言葉（ことば）に桜子（さくらこ）は少（すこ）し考（かんが）える仕草（しぐさ）を見（み）せたが、

「少（すこ）しお話（はな）ししてもよろしいでしょうか？」

と訊（たず）ねてきた。

「おう、もちろんだとも。まあ、ここに座（すわ）りなさい」

　俺（おれ）の言葉（ことば）に、

「失礼（しつれい）します」

と素直（すなお）に従（したが）う桜子（さくらこ）。

　さて、なんと言（い）って切（き）り出（だ）したものかな。

　そう思（おも）っていたのだが。

「桜（さくら）の花（はな）が綺麗（きれい）ですね」

　桜子（さくらこ）の言葉（ことば）に正面（しょうめん）の桜（さくら）を見上（みあ）げる。

　風（かぜ）が吹（ふ）いて花弁（はなびら）が舞（ま）い散（ち）る。あの時（とき）と似（に）ていると思（おも）った。

　付（つ）き合（あ）っていた彼女（かのじょ）に別（わか）れを告（つ）げる直前（ちょくぜん）に見（み）た桜（さくら）。同（おな）じ木（き）を同（おな）じように眺（なが）めている。

　何故（なぜ）なら、俺（おれ）が同（おな）じベンチに腰掛（こしか）けたからだ。

　その場所（ばしょ）で、彼女（かのじょ）を彷彿（ほうふつ）とさせる美少女（びしょうじょ）と並（なら）んで桜（さくら）を見（み）ている。きっとこれは偶然（ぐうぜん）ではないのだろうな。

　運命（うんめい）なんてものを信（しん）じている訳（わけ）じゃないが、舞台（ぶたい）が整（ととの）い過（す）ぎている気（き）がする。ひょっとすると、彼女（かのじょ）の意思（いし）が俺（おれ）と桜子（さくらこ）をここで引（ひ）き合（あ）わせたのかも、なんてな。

「秋田先生（あきたせんせい）、『桜花（おうか）』について、どう思（おも）いますか？」

　『桜花（おうか）』という言葉（ことば）にはいくつかの種類（しゅるい）があると思（おも）うが、今（いま）の時代（じだい）背景（はいけい）から考（かんが）えると、おそらく……。

「それは、新型（しんがた）？　それとも……」

　俺（おれ）は桜子（さくらこ）の方（ほう）を見（み）た。美（うつく）しい横顔（よこがお）だ。俺（おれ）に見（み）られているのを感（かん）じとったのか、桜子（さくらこ）が俺（おれ）の方（ほう）を見（み）た。先程（さきほど）は青（あお）ざめて見（み）えたが、今（いま）は落（お）ち着（つ）いているように見（み）える。

「どちらもですけれど。では、旧型（きゅうがた）から」

「そうだな……」

２　ＭＸＹー７桜花（おうか）

　ＭＸＹー７桜花（おうか）――旧字体（きゅうじたい）だと櫻花（おうか）となる――は、日本（にほん）海軍（かいぐん）が太平洋（たいへいよう）戦争中（せんそうちゅう）に開発（かいはつ）した特殊（とくしゅ）滑空機（かっくうき）。特攻（とっこう）兵器（へいき）として開発（かいはつ）され、実戦（じっせん）に投入（とうにゅう）された。

　機首部（きしゅぶ）に1200ｋｇ（キログラム）の徹甲（てっこう）爆弾（ばくだん）を備（そな）え、母機（ぼき）に吊（つ）るされて目標（もくひょう）に近付（ちかづ）いたあと分離（ぶんり）されて発射（はっしゃ）される。その後（ご）は搭乗員（とうじょういん）が誘導（ゆうどう）して体当（たいあ）たりさせる。脱出（だっしゅつ）装置等（そうちとう）はついておらず、搭乗員（とうじょういん）は100％（パーセント）死（し）ぬ。

　そのため『人間（にんげん）爆弾（ばくだん）』と呼（よ）ばれた。

　当時（とうじ）の連合国側（れんごうこくがわ）からは、自殺（じさつ）(攻撃（こうげき）)を行（おこな）う『愚（おろ）か者（もの）』の機体（きたい）との意味合（いみあ）いで、日本語（にほんご）の『馬鹿（ばか）』にちなんだＢａｋａ（バ　　　カ）Ｂｏｍｂ（ボ　　　ム）というコードネームで呼（よ）ばれていた。

　命中（めいちゅう）すれば、戦艦（せんかん）や空母（くうぼ）をも一撃（いちげき）で沈（しず）めるほどの破壊力（はかいりょく）を秘（ひ）めていたが、その重（おも）さで母機（ぼき）の飛行（ひこう）能力（のうりょく）を大幅（おおはば）に妨（さまた）げ、敵空母（てきくうぼ）に辿（たど）り着（つ）くことは一度（いちど）としてなかった。

　アメリカは、この兵器（へいき）を蔑（さげす）みつつも、侮（あなど）ることはなく、艦船（かんせん）に対（たい）する最大（さいだい）の脅威（きょうい）と捉（とら）えていた。

　人（ひと）の命（いのち）を軽視（けいし）する愚（おろ）かな兵器（へいき）であることは間違（まちが）いない。

　人間（にんげん）の命（いのち）を徒花（あだばな）とするなど、決（けっ）して許（ゆる）されることではないだろう。しかし……。

３　特攻（とっこう）攻撃機（こうげきき）ＭＸＹー８３９５桜花（おうか）

　俺（おれ）は桜子（さくらこ）に対（たい）して、思（おも）ったことを率直（そっちょく）に話（はな）した。

「では続（つづ）けて新型（しんがた）『桜花（おうか）』についてお聞（き）かせ願（ねが）えますか？」

　新型（しんがた）『桜花（おうか）』は、第三次（だいさんじ）世界（せかい）大戦（たいせん）を見越（みこ）して開発（かいはつ）された特攻（とっこう）攻撃機（こうげきき）で、他（ほか）の攻撃機（こうげきき）の数倍（すうばい）の対艦（たいかん）ミサイルを備（そな）えたほか、自機（じき）にも爆弾（ばくだん）が据（す）えられ、敵艦（てきかん）に特攻（とっこう）攻撃（こうげき）を仕掛（しか）けることも可能（かのう）。機銃（きじゅう）などの対空（たいくう）兵器（へいき）を一切（いっさい）備（そな）えず、また燃料（ねんりょう）タンクも小（ちい）さく、『いってらっしゃい、帰（かえ）ってくるな』と言（い）わんばかりの設計（せっけい）だと聞（き）く。

　対空（たいくう）兵器（へいき）は備（そな）えていないが、今日日（きょうび）敵（てき）戦闘機（せんとうき）の空対空（くうたいくう）ミサイル相手（あいて）に機銃（きじゅう）では勝負（しょうぶ）にならないので仕方（しかた）ないであろう。

　元（もと）より、桜花（おうか）一機（いっき）に対（たい）して数機（すうき）の護衛（ごえい）戦闘機（せんとうき）をつけての運用（うんよう）だとされている。

　特攻（とっこう）攻撃機（こうげきき）の名（な）が示（しめ）す通（とお）り、ミサイルを撃（う）ち尽（つ）くしたら敵艦（てきかん）に突（つ）っ込（こ）んで道連（みちづ）れを狙（ねら）えという思想（しそう）の兵器（へいき）である。

　連合国（れんごうこく）側（がわ）には人的（じんてき）被害（ひがい）を減（へ）らすことを考（かんが）えた無人（むじん）兵器（へいき）がある一方（いっぽう）で、こちら側（がわ）は人（ひと）の犠牲（ぎせき）を前提（ぜんてい）とした野蛮（やばん）な兵器（へいき）が作（つく）られている。

　これでは戦（たたか）う前（まえ）から勝負（しょうぶ）は決（けっ）していると言（い）わざるを得（え）ない。

４　キスしてもらっても良（よ）いですか？

　俺（おれ）は、新型（しんがた）に対（たい）しても思（おも）うところを述（の）べた。日本（にほん）という国（くに）は、先（さき）の大戦（たいせん）で尊（とうと）い犠牲（ぎせい）の上（うえ）に得（え）た教訓（きょうくん）を生（い）かせなかったのだろうか？

　だとしたら、戦後（せんご）の70年（ねん）以上（いじょう）はなんだったのであろう？

「秋田（あきた）先生（せんせい）、ありがとうございます。実（じつ）は私（わたし）のところにも今日（きょう）、召集（しょうしゅう）令状（れいじょう）が来（き）ました」

「そうか……」

　おそらく、そうなのではないかと思（おも）っていた。俺（おれ）が受（う）け持（も）つクラスでも、既（すで）に召集（しょうしゅう）を受（う）けた生徒（せいと）が数名（すうめい）いたからだ、

　新聞（しんぶん）やテレビの報道（ほうどう）では、日本（にほん）が劣勢（れっせい）だとは聞（き）いていた。けれども、先（さき）の大戦（たいせん）の例（れい）でもわかるように、真実（しんじつ）が報道（ほうどう）されているとは限（かぎ）らない。もはや敗勢（はいせい）に陥（おちい）っているのではないか？

　いや、むしろ敗勢（はいせい）に陥（おちい）っていてほしいとさえ思（おも）う。勝機（しょうき）のない戦（いくさ）に若者（わかもの）の命（いのち）を注（つ）ぎ込（こ）むようなことなどしてくれるな。

　重苦（おもくる）しい空気（くうき）が流（なが）れる。

「私（わたし）には時間（じかん）がないから言（い）いますね？　私（わたし）、先生（せんせい）のこと、良（い）いなって思（おも）っていました。ひとつお願（ねが）いがあるんです。キスしてもらっても良（よ）いですか？」

「えっ？」

　頭（あたま）の中（なか）が真（ま）っ白（しろ）になった。

「一週間後（いっしゅうかんご）、この場所（ばしょ）で待（ま）っています」

　桜子（さくらこ）はそう言（い）うと、返事（へんじ）も聞（き）かずに走（はし）り去（さ）ってしまった。

　昔（むかし）の恋人（こいびと）と別（わか）れた場所（ばしょ）、別（わか）れた季節（きせつ）に、別（わか）れた恋人（こいびと）に似（に）た少女（しょうじょ）からキスを求（もと）められ、しかし、少女（しょうじょ）はまもなく戦争（せんそう）へと駆（か）り出（だ）されてしまう。

　これは呪（のろ）いなのだろうか？　結果的（けっかてき）に俺（おれ）に振（ふ）られたことになった恋人（こいびと）の怨念（おんねん）が、俺（おれ）を苦（くる）しめるために招（まね）いたのではないか？　つい、そんな風（ふう）に考（かんが）えてしまう。

５　世界一（せかいいち）のくちづけを

　本土（ほんど）への空襲（くうしゅう）が本格化（ほんかくか）してきた。

　そんな中（なか）でも、衝撃的（しょうげきてき）な事件（じけん）が起（お）きた。

　ある地域（ちいき）の地下（ちか）施設（しせつ）が、地中貫通爆弾（バンカーバスター）の餌食（えじき）となったのだ。

　そこは日本（にほん）の切（き）り札（ふだ）とされる施設（しせつ）で、報道（ほうどう）管制（かんせい）が敷（し）かれ詳細（しょうさい）は伝（つた）わっていなかった。

　連合国（れんごうこく）側（がわ）はその施設（しせつ）をピンポイントで叩（たた）いてきたのだ。地中貫通爆弾（バンカーバスター）――粘土層（ねんどそう）を30ｍ（メートル）、鉄筋（てっきん）コンクリート壁（へき）を６ｍ（メートル）以上（いじょう）貫通（かんつう）し、その後（あと）で爆発（ばくはつ）する。核兵器（かくへいき）を除（のぞ）く通常（つうじょう）兵器（へいき）としては最強（さいきょう）クラスの破壊力（はかいりょく）を持（も）つ――という最強（さいきょう）の矛（ほこ）をもって。

　桜子（さくらこ）の言（い）った一週間後（いっしゅうかんご）がやってきた。この間（かん）、毎日（まいにち）のようにステルス爆撃機（ばくげきき）が飛（と）んできて授業（じゅぎょう）どころではなかった。

　新聞（しんぶん）やテレビの報道（ほうどう）は、敗色（はいしょく）濃厚（のうこう）でこれ以上（いじょう）の防戦（ぼうせん）は無用（むよう）といった論調（ろんちょう）に変（か）わってきた。

　新兵器（しんへいき）である『神（かみ）の杖（つえ）』や『超電磁砲（レ　ー　ル　ガ　ン）』といった次世代（じせだい）型（がた）兵器（へいき）の実戦（じっせん）投入（とうにゅう）の可能性（かのうせい）にも触（ふ）れている。正直（しょうじき）、一日（いちにち）も早（はや）い降伏（こうふく）をお願（ねが）いしたいものだ。

　一週間前（いっしゅうかんまえ）と同（おな）じくらいの時間（じかん）に桜子（さくらこ）はやってきた。

　桜子（さくらこ）は『キスしてもらっても良（よ）いですか？』と訊（たず）ねてきた。もちろん通常（つうじょう）ならば、こんなお願（ねが）いは突（つ）っぱねる。だが、桜子（さくらこ）には時間（じかん）がないのだ。

　日本（にほん）がいつ降伏（こうふく）するのか？　ある評論家（ひょうろんか）は『３ヶ月（かげつ）以内（いない）』と言（い）った。何故（なぜ）３ヶ月（かげつ）も掛（か）かるんだ？　勝（か）ち目（め）がないんだったら、今日（きょう）降伏（こうふく）すべきじゃないのか？　一日（いちにち）遅（おく）れたら、何百（なんびゃく）、何千（なんぜん）、何万（なんまん）といった人（ひと）が死（し）ぬのだ。

　桜子（さくらこ）がすぐ近（ちか）くまでやってきた。俺（おれ）は立（た）ち上（あ）がって彼女（かのじょ）を迎（むか）える。

「秋田先生（あきたせんせい）、今日（きょう）はお越（こ）し頂（いただ）いてありがとうございます。先生（せんせい）が来（き）て下（くだ）さらなかったら、キスも未経験（みけいけん）のまま、飛（と）び立（た）たねばなりませんでした」

　表情（ひょうじょう）は固（かた）いながらも、桜子（さくらこ）はそう言（い）って笑（え）みを見（み）せた。

「それではさっそく……」

　桜子（さくらこ）は俺（おれ）を見上（みあ）げながら目（め）を閉（と）じ、そっとくちびるを付（つ）き出（だ）してきた。

　俺（おれ）は桜子（さくらこ）の両肩（りょうかた）に手（て）を当（あ）てると口（くち）を開（ひら）いた。

「春川（はるかわ）。悪（わる）いが俺（おれ）はキスをしてやることは出来（でき）ない。そのくちびるは、本当（ほんとう）に大切（たいせつ）なひとが出来（でき）たときのためにとっておくんだ」

　桜子（さくらこ）が目（め）を見開（みひら）いた。両肩（りょうかた）が震（ふる）えている。

「どういうことですか？　先生（せんせい）は私（わたし）みたいな子（こ）どもとは、キス出来（でき）ないって言（い）うんですか？　それとも私（わたし）は、キスするのも嫌（いや）な存在（そんざい）なんでしょうか？」

「違（ちが）う、そうじゃない。キミは十二分（じゅうにぶん）に魅力的（みりょくてき）だ。けれども……。いや、わかった。キスしよう。但（ただ）し、ひとつだけ条件（じょうけん）をつけさせてくれ。それが飲（の）めないのであれば……」

「飲（の）めない条件（じょうけん）なんてありません。私（わたし）はもう死（し）にゆく身（み）です。先生（せんせい）にキスしてもらうためならばなんでも……」

「生（い）きて帰（かえ）ってこい、春川桜子（はるかわさくらこ）。戦争（せんそう）が終（お）わって俺（おれ）の前（まえ）に現（あらわ）れたとき、キミが望（のぞ）むならキスをしてやる」

「それは無理（むり）です。私（わたし）の練習機（れんしゅうき）ご存（ぞん）じですよね？　桜花（おうか）ですよ？　私（わたし）は中学生（ちゅうがくせい）の時（とき）から、桜花（おうか）での訓練（くんれん）を積（つ）み重（かさ）ねてきました。あの機（き）は、搭乗員（とうじょういん）が100％（パーセント）死（し）ぬように作（つく）られています。私（わたし）は、最後（さいご）の飛行（ひこう）、先生（せんせい）の思（おも）い出（で）とともに逝（い）きたいのです」

　俺（おれ）は溢（あふ）れる涙（なみだ）を堪（こら）えられなかった。この国（くに）は、先（さき）の大戦（たいせん）で何（なに）を学（まな）んだのだろう？

　俺（おれ）の生徒（せいと）たちは皆（みな）、桜花（おうか）での訓練（くんれん）を受（う）けていた。戦争（せんそう）なのだから、死（し）ぬことはあるだろう。だが、桜花（おうか）は100％（パーセント）死（し）ぬことが定（さだ）められた兵器（へいき）なのだ。

　死（し）にゆく生徒（せいと）の希望（きぼう）であれば叶（かな）えてやりたい。けれども。

「生（い）きろ！　生（い）きて帰（かえ）ってきてくれ。お願（ねが）いだから……」

　俺（おれ）は慟哭（どうこく）した。桜子（さくらこ）の顔（かお）も、もはや涙（なみだ）でくしゃくしゃだった。

「生（い）きろって言（い）うんだったら、戦争（せんそう）を終（お）わらせて下（くだ）さいよ。私（わたし）が飛（と）び立（た）つ前（まえ）に戦争（せんそう）を終結（しゅうけつ）させて下（くだ）さい……」

　俺（おれ）は桜子（さくらこ）をきつく抱（だ）き締（し）めた。それが、俺（おれ）に出来（でき）る精一杯（せいいっぱい）だったから。

６　2020年（ねん）夏（なつ）

　桜子（さくらこ）が桜花（おうか）で飛（と）び立（た）って２時間後（じかんご）、臨時（りんじ）ニュースが流（なが）れ、日本（にほん）が降伏（こうふく）したことを知（し）った。1945年（ねん）以来（いらい）となる玉音（ぎょくおん）放送（ほうそう）だった。

　このタイミングの悪（わる）さ、元恋人（もとこいびと）の呪（のろ）いに違（ちが）いない。

　降伏（こうふく）が１日（にち）、いや２時間（じかん）早（はや）ければ、春川桜子（はるかわさくらこ）は死（し）なずに済（す）んだのであろうに。

　俺（おれ）の受（う）け持（も）ちの生徒（せいと）で、実際（じっさい）に桜花（おうか）で飛（と）び立（た）ったのは、桜子（さくらこ）ひとりだった。

　桜子（さくらこ）は桜花（おうか）操縦（そうじゅう）の練度（れんど）が高（たか）かったから、出撃（しゅつげき）が早（はや）まったのだ。真面目（まじめ）に訓練（くんれん）に取（と）り組（く）んだがために死（し）を早（はや）めたとは、なんと皮肉（ひにく）なことなのか。

　俺（おれ）が桜子（さくらこ）にキスをしなかったのは正（ただ）しかったのだろうか？　何故（なぜ）最後（さいご）のお願（ねが）いを聞（き）いてあげられなかったのか。

　俺（おれ）は、元（もと）カノの呪（のろ）いを恐（おそ）れていたのかもしれない。もしキスをしていたら、元（もと）カノが嫉妬（しっと）して桜子（さくらこ）をあの世（よ）に引（ひ）き摺（ず）り込（こ）むのではないかと思（おも）ったのだ。

　だが結果（けっか）はどうだ？　桜子（さくらこ）はキスを知（し）らないまま死（し）んだ。桜子（さくらこ）の所属（しょぞく）は、『女子（じょし）飛行（ひこう）桜花隊（おうかたい）』で教官（きょうかん）も含（ふく）めて、女性（じょせい）しかいなかったから、そういうことになるのだろう。

　女性（じょせい）同士（どうし）でのキスの可能性（かのうせい）はゼロではないだろうが。

　つづく

　次回予告（じかいよこく）

　これは、元恋人（もとこいびと）の呪（のろ）いに違（ちが）いありませんね。間違（まちが）いないです。

　って、この元恋人（もとこいびと）さん、生（い）きてるんですけれどね。本編（ほんぺん）では出（で）てこないのですが。

「私（わたし）は県外（けんがい）に出（で）ていくので、葉太（ようた）さんに会（あ）うことがあれば死（し）んだとお伝（つた）え下（くだ）さい」

という訳（わけ）。もちろん葉太（ようた）先生（せんせい）のことを恨（うら）んでなどいません。

　ん？　じゃあ誰（だれ）が桜子（さくらこ）ちゃんを殺（ころ）したのか？

　犯人（はんにん）はこの中（なか）にいます。

　犯人（はんにん）は、ビシッ👉　葉太先生（ようたせんせい）！

　あなたですね？

　次回（じかい）、密室殺人（みっしつさつじん）のトリックが明（あ）かされます。……ってミステリーではありませぬ💦

　実（じつ）は桜子（さくらこ）ちゃんも生（い）きています。爆発（ばくはつ）によってばらばらになった桜子（さくらこ）ちゃんの身体（からだ）はタヒチ島（とう）へと流（なが）れつき、ショッカーの改造（かいぞう）手術（しゅじゅつ）を受（う）けて『さくらんじゅ(ｂｙＤＱ８)』として再生（さいせい）するのです(→わかる人（ひと）だけ突（つ）っ込（こ）んで下（くだ）さい💧)。