葉桜の君に

第３話 葉桜 第二次世界大戦で日本が学んだこと

１　８３９５（は　ざ　く　ら）　先（さき）の大戦（たいせん）で日本（にほん）が学（まな）んだこと

　５年後（ねんご）の2025年（ねん）４月（しがつ）、俺（おれ）は呼（よ）び出（だ）されてそこに来（き）ていた。

　元恋人（もとこいびと）と別（わか）れ、また、事実上（じじつじょう）春川桜子（はるかわ さくらこ）とも別（わか）れたその公園（こうえん）の例（れい）のベンチに。目（め）の前（まえ）には見事（みごと）な葉桜（はざくら）が見（み）えている。

「結局（けっきょく）、春川（はるかわ）だけじゃなく、誰（だれ）ともキスしなかった訳（わけ）か。やっぱり恋人（こいびと）の呪（のろ）いは続（つづ）いてるのかね？」

　向（む）こうから、おーい、と駆（か）けてくる姿（すがた）。つい顔（かお）がニヤけてしまう。いや、ここでニヤけるのおかしい気（き）もするのだが？

　でもニヤけてしまうものは仕方（しかた）がない。俺（おれ）にとって、人生（じんせい）ふたりめの美人（びじん）が俺（おれ）にラブラブアタックを仕掛（しか）けてきたのだから。

「せんせ〜、お待（ま）たせしました〜♪」

「もう、キミの先生（せんせい）ではないだろ、春川桜子（はるかわ さくらこ）」

　俺（おれ）は立（た）ち上（あ）がり両手（りょうて）を広（ひろ）げて出迎（でむか）える。

「約束通（やくそくどお）りチュウさせて頂（いただ）きます！」

　えっ！？　ムードもへったくれもないが、まあ５年前（ねんまえ）に確（たし）かにキスする約束（やくそく）をしたからな。

　桜子（さくらこ）は俺（おれ）に体当（たいあ）たりでもするような勢（いきお）いで駆（か）け寄（よ）ってくると、間近（まぢか）で腰（こし）を落（お）とし体勢（たいせい）を低（ひく）くして……？

「肘激崩（ちゅうげきほう）、はいっ！」

「ぐぼっ💥」

　桜子（さくらこ）の左肘（ひだりひじ）が俺（おれ）のみぞおちに……。

「よくぞここまで技（わざ）を極（きわ）めた。もはやそなたに教（おし）えることはない。ガクッ」

「大師範（だいしはん）様（さま）――っ！！」

――葉太先生（ようたせんせい）、マジで悶絶（もんぜつ）しております。しばらくこのままでお待（ま）ち下（くだ）さい(ＭＭ５（エムエムファイブ）『マジで悶絶（もんぜつ）５分間（ふんかん）』です)――

「せんせー、大丈夫（だいじょうぶ）ですか？　左肘（ひだりひじ）だったから、威力（いりょく）は30％（パーセント）オフだったのですが？」

　あれで30％（パーセント）オフだって？

　右肘（みぎひじ）だったら、救急車（きゅうきゅうしゃ）で運（はこ）ばれてたんじゃないの？　ぞぉーっ💧

「かろうじて、命（いのち）に別状（べつじょう）はない……はず。それよりも、先生（せんせい）はもうよしてくれ」

「え〜、先生（せんせい）は一生（いっしょう）私（わたし）の先生（せんせい）ですよ〜。あっ、ダーリンの方（ほう）がよろしいですか？　そうですね。ふたりは結（むす）ばれるんですから、ダーリンの方（ほう）が適切（てきせつ）ですね💝」

「いや、適切（てきせつ）じゃないし。やっぱり、先生（せんせい）でお願（ねが）いします」

「むうぅー！　まあ、良（い）いです。大学（だいがく）卒業（そつぎょう）祝（いわ）いにご馳走（ちそう）してくれるんでしょ？　超高級（ちょうこうきゅう）レストランで🍴」

「ファミレスじゃダメかな？」

「ダメに決（き）まってるじゃないですか！　ところで先生（せんせい）、今（いま）いくつですか？」

「今（いま）29歳（さい）で、今年（ことし）で30歳（さんじゅっさい）になる」

「もうすぐ魔法使（まほうつか）いですね？　おめでとうございます☆」

「いや、童貞（どうてい）じゃないし！」

「ではホテルのレストランで食（た）べて、そのまま一泊（いっぱく）なんて如何（いかが）ですか？　わたくし、今晩（こんばん）も明日（あした）も予定（よてい）は空（あ）いてますよ？　ガラガラです。夜（よる）の組手（くみて）と参（まい）りますか？　先生（せんせい）の妖刀捌（ようとうさば）き、見（み）てみたいです❤」

「あのな〜、そういうことは……」

「大丈夫（だいじょうぶ）ですよ？　ちゃんと勝負（しょうぶ）下着（したぎ）つけてますって。どんなハードなプレイにも耐（た）える誰得（だれとく）強度（きょうど）仕様（しよう）です❤」

「キミ、性格（せいかく）変（か）わったな〜」

「そうですか？　こっちがホントなんですよ？　お国（くに）のために命（いのち）を捨（す）てる覚悟（かくご）で生（い）きてきたのに、いざその間際（まぎわ）になってもキスもしてくれない鬼畜（きちく）な男（おとこ）がいましてね〜。最後（さいご）のフライトの時（とき）、『生（い）きて帰（かえ）ってきたら、どんな目（め）に合（あ）わせてやろうか』と、そればっかり考（かんが）えていましたよ。肘激崩（ちゅうげきほう）の２、３発（にさんぱつ）でも喰（く）らわせてやろうかと！」

「面目（めんぼく）ない。でももう肘激崩（ちゅうげきほう）はご勘弁（かんべん）下（くだ）さい」

「ふふっ、冗談（じょうだん）ですよ？　でも、自分（じぶん）を殺（ころ）して真面目（まじめ）に生（い）きてても良（い）いことなかったから、自分（じぶん）の気持（きも）ちに正直（しょうじき）に生（い）きることにしたんです。一度（いちど）は死（し）んだ命（いのち）ですから、あとの人生（じんせい）はおまけなんです」

「そういえば、よく生（い）きて帰（かえ）ってこれたな。特攻（とっこう）攻撃機（こうげきき）で飛（と）び立（た）ったというのに？」

「新型（しんがた）桜花（おうか）はですね、葉桜（はざくら）仕様（しよう）だったんですよ？　花（はな）が散（ち）っても葉（は）が出（で）てくる……」

　桜子（さくらこ）の話（はなし）を要約（ようやく）すると。

『特攻（とっこう）兵器（へいき）』→『終戦（しゅうせん）間近（まぢか）に実戦（じっせん）投入（とうにゅう）』→『命（いのち）をムダにしない』

　ということで、脱出（だっしゅつ）装置（そうち）があったり、通信（つうしん）機器（きき）が充実（じゅうじつ）していたり、総（すべ）ての兵器（へいき）を海中（かいちゅう）に投下（とうか）して、とんぼ返（がえ）り出来（でき）たり。

　そう、俺（おれ）たちが情報（じょうほう）を得（え）るよりもいち早（はや）く終戦（しゅうせん）を知（し）った桜子（さくらこ）は、兵装（へいそう）を投下（とうか）して近（ちか）くの飛行（ひこう）基地（きち）を目指（めざ）したのだという。

　ただ、敗戦（はいせん）のごたごたのため、俺（おれ）が桜子（さくらこ）の生存（せいぞん）を知（し）ったのは約（やく）一月後（ひとつきご）だったというわけ。

　桜子（さくらこ）は県外（けんがい）の親戚（しんせき）の家（いえ）で暮（く）らすことになったのだが、大学（だいがく）卒業後（そつぎょうご）に高知（こうち）に戻（もど）ってきて、俺（おれ）に熱烈（ねつれつ）アタック。

　何（なに）せ、攻撃機乗り（アタッカーパイロット）だったからな、躱（かわ）しきれずに今日（きょう）のデートと相成（あいな）ったというわけ。

２　葉桜（はざくら）の桜子（キミ）に　世界一（せかいいち）のくちづけを

　俺（おれ）は今（いま）、桜子（さくらこ）と付（つ）き合（あ）ってみようと決（き）めた。桜子（さくらこ）が生（い）きていたのも、俺（おれ）と再会（さいかい）したのも、桜子（さくらこ）が俺（おれ）のことを未（いま）だに好（す）きでい続（つづ）けてくれてるのも、総（すべ）て元恋人（もとこいびと）の祝福（しゅくふく）があったからだと思（おも）えたからだ。

　いやね、似（に）てるんだよ。今（いま）の桜子（さくらこ）の性格（せいかく）が元恋人（もとこいびと）のそれにね。

　目（め）の前（まえ）の葉桜（はざくら）を見上（みあ）げた。

「葉桜（はざくら）仕様（しよう）ね。同（おな）じ桜（さくら）でもえらい違（ちが）いだな。派手（はで）に散（ち）っていく桜花（おうか）と、花（はな）が散（ち）っても緑（みどり）を増（ふ）やして成長（せいちょう）していく葉桜（はざくら）とではな」

　あの時（とき）、儚（はかな）く散（ち）ってしまいそうだった桜花（おうか）の桜子（さくらこ）は、今（いま）や少々（しょうしょう）のことには動（どう）じない葉桜（はざくら）の桜子（さくらこ）となった。

　もう二度（にど）と戦争（せんそう）に巻（ま）き込（こ）まれないことを祈（いの）りつつ、桜子（さくらこ）とともに歩（ある）いていこう。

　俺（おれ）が公園（こうえん）の出口（でぐち）へと向（む）かおうとすると。

「先生（せんせい）、何（なに）かお忘（わす）れではありませんか？」

　と葉桜（はざくら）の下（もと）で俺（おれ）に向（む）けて右肘（みぎひじ）を突（つ）き出（だ）してみせる桜子（さくらこ）。

　そっちの肘（チュウ）はご勘弁（かんべん）だったので、歩（あゆ）み寄（よ）って顎（あご）に手（て）を当（あ）てて、上（うえ）を向（む）かせる。

「葉桜（はざくら）の桜子（キミ）に、世界一（せかいいち）のくちづけを」

　さっきの肘激崩（ちゅうげきほう）の仕返（しかえ）しとばかりに、キスを激（はげ）しく崩（くず）れる程（ほど）にしてやった。

　おしまい

　あとがき

♪あ〜　いつの日（ひ）か　時（とき）を

　飛（と）び越（こ）えて　届（とど）けに行（ゆ）こう

　あ〜　抱（だ）き寄（よ）せて世界一（せかいいち）の　くちづけを

　あ〜　眠（ねむ）れない　キミの

　幻（まぼろし）を　断（た）ち切（き）るため

　あ〜　震（ふる）えが止（と）まらぬよな　くちづけを♪

　次回（じかい）は『あとがきに変（か）えて――葉太先生（ようたせんせい）と桜子（さくらこ）ちゃんの初（はじ）めての一夜（いちや）の構想（こうそう）――

(性描写（せいびょうしゃ）有（あ）りのレイティングは必要（ひつよう）ないと思（おも）ってるけれど、エロース苦手（にがて）な方（かた）は読（よ）まなくて良（よ）いです)』です。

　あとがきを読（よ）まないあなたとは、ここでお別（わか）れね？　ここまで付（つ）き合（あ）ってくれて、ありがとう♪

　愛（あい）してるわ、私（わたし）の愛（いと）しいリトルデーモン★

　チュッ💕