葉桜の君に

第１話 特攻攻撃機・新型『桜花』

１　美人薄命（びじんはくめい）

「間（ま）に合（あ）わなかったか……」

　俺（おれ）、秋田葉太（あきた ようた）は、悲痛（ひつう）な想（おも）いで出撃（しゅつげき）を見守（みまも）っていた。教（おし）え子（ご）であった春川桜子（はるかわ さくらこ）が特攻（とっこう）攻撃機（こうげきき）『桜花（おうか）』で飛（と）び立（た）っていく姿（すがた）を。

２　第三次（だいさんじ）世界大戦（せかいたいせん）勃発（ぼっぱつ）

　2018年（ねん）２月（がつ）、世界（せかい）を二分（にぶん）する戦争（せんそう）が始（はじ）まった。

　日本（にほん）はまたも、枢軸国（すうじくこく）と呼（よ）ばれる側（がわ）に与（くみ）した。なお枢軸国（すうじくこく）、連合国（れんごうこく）とも第二次（だいにじ）世界大戦（せかいたいせん）の時（とき）とは大（おお）きく異（こと）なっているが、詳細（しょうさい）は割愛（かつあい）する。

　大戦（たいせん）突入（とつにゅう）前（まえ）の日本（にほん）は迷走（めいそう）していた。いや、世界中（せかいじゅう）が迷走（めいそう）していたのであろう。

　核兵器（かくへいき）こそ使用（しよう）されることはなかったが、第二次（だいにじ）世界大戦（せかいたいせん）の頃（ころ）とは兵器（へいき）の威力（いりょく）が全（まった）く異（こと）なっていた。

　短期間（たんきかん）のうちに多（おお）くの人命（じんめい）が失（うしな）われ、2019年（ねん）には十代（じゅうだい）後半（こうはん）の若者（わかもの）までが召集（しょうしゅう）される事態（じたい）となった。

３　春川桜子（はるかわ さくらこ）とあのひと

　春川桜子（はるかわ さくらこ）は、大戦（たいせん）が始（はじ）まった直後（ちょくご）の４月（しがつ）に吾（わ）が校（こう）に入学（にゅうがく）してきた。

　初（はじ）めてのホームルーム、自己紹介（じこしょうかい）していく生徒（せいと）たちを見守（みまも）っていたのだが、春川桜子（はるかわ さくらこ）の番（ばん）となったときに目（め）が釘付（くぎづ）けになった。

　秀麗（しゅうれい）な容姿（ようし）もさることながら、凛（りん）とした立（た）ち居（い）振（ふ）る舞（ま）い、所作（しょさ）、言葉使（ことばつか）いなど、俺（おれ）がかつて付（つ）き合（あ）っていた女性（じょせい）を彷彿（ほうふつ）させたのだ。

　俺（おれ）にはもったいないような素晴（すば）らしい女性（じょせい）だった。

　よく『美人（びじん）』という言葉（ことば）を単（たん）に顔（かお）の美（うつく）しさだけで語（かた）る人間（にんげん）がいるが、俺（おれ）はそうは思（おも）わない。

　見（み）た目（め）だけではなく、内面（ないめん）の美（うつく）しさも備（そな）わっていなければ、『美人（びじん）』と表現（ひょうげん）するに値（あたい）しない。俺（おれ）が昔（むかし）付（つ）き合（あ）っていた女性（じょせい）は、

『美人（びじん）』というに相応（ふさわ）しいひとだった。

　きっと生涯（しょうがい）でただひとりの『美人（びじん）』。ただ俺（おれ）は、自分（じぶん）と彼女（かのじょ）が釣（つ）り合（あ）っているとは到底（とうてい）思（おも）えず……、やがて、こちらから身（み）を引（ひ）いた。

「そう。あなたに振（ふ）られる訳（わけ）ね。残念（ざんねん）だわ」

　淡々（たんたん）とした口調（くちょう）。それほど残念（ざんねん）がっているようにも見（み）えなかった。

「そうじゃない！　キミと俺（おれ）では釣（つ）り合（あ）わない。だから、キミはもっと良（い）い人（ひと）と幸（しあわ）せになって欲（ほ）しい！」

　俺（おれ）は彼女（かのじょ）のために身（み）を引（ひ）いた。これで良（よ）かったんだ、と考（かんが）えていた。

　数年後（すうねんご）、彼女（かのじょ）と仲（なか）の良（よ）かった高校時代（こうこうじだい）のクラスメイトの女子（じょし）から、彼女（かのじょ）が亡（な）くなったと知（し）らされた。死因（しいん）は聞（き）けなかった。

　その女子（じょし）が言（い）うには、彼女（かのじょ）は俺（おれ）と別（わか）れて以降（いこう）誰（だれ）とも付（つ）き合（あ）わなかったという。

「どうして別（わか）れたの？　きっとあの子（こ）、あんたのこと好（す）きだったと思（おも）うよ」

　責（せ）めている風（ふう）ではなかったが、疑問（ぎもん）だといった感（かん）じだった。

　俺（おれ）は自分（じぶん）の自信（じしん）のなさが、自己（じこ）評価（ひょうか）の低（ひく）さが、彼女（かのじょ）を死（し）に追（お）いやったのではないかと感（かん）じてしまった。

４　公園（こうえん）にて想（おも）いを馳（は）せる　

　2020年（ねん）４月（しがつ）の半（なか）ば過（す）ぎ、俺（おれ）はあの公園に来（き）ていた。

　四阿（あずまや）のベンチに腰掛（こしか）け桜（さくら）の木（き）を見上（みあ）げながら、(あの時（とき）は彼女（かのじょ）と一緒（いっしょ）に桜（さくら）を見（み）ていたな)などと回想（かいそう）に耽（ふけ）っていた。

　戦争（せんそう）は日（ひ）に日（ひ）に激（はげ）しさを増（ま）し、この高知（こうち）の空（そら）にも時折（ときおり）、ステルス爆撃機（ばくげきき）が飛来（ひらい）する。

　しかし、兵器（へいき）の進化（しんか）としては、ステルス爆撃機（ばくげきき）よりも地対空（ちたいくう）ミサイルの方（ほう）が著（いちじる）しく、日本（にほん）本土（ほんど）が火（ひ）の海（うみ）になるというケースは稀（まれ）だった。

　だがそれは同時（どうじ）に、日本（にほん）の航空（こうくう）戦力（せんりょく）も相手国（あいてこく）に、有効打（ゆうこうだ）を与（あた）えられないことを意味（いみ）する。

　第二次（だいにじ）大戦後（たいせんご）、航空（こうくう）戦力（せんりょく）優位（ゆうい）の時代（じだい）が続（つづ）き、『制空権（けいくうけん）』を取（と）ることが勝利（しょうり）の方程式（ほうていしき）であった。地対空（ちたいくう）ミサイルの命中率（めいちゅうりつ）はすこぶる低（ひく）く、100発（ひゃっぱつ）撃（う）って１発（いっぱつ）当（あ）たれば儲（もう）けものといった有様（ありさま）だったようだ。

　しかし今（いま）や、ピット器官（きかん）を備（そな）えたガラガラヘビよろしく、ミサイルは赤外線（せきがいせん）追尾（ついび）で航空機（こうくうき）に迫（せま）っていく。百発（ひゃっぱつ）百中（ひゃくちゅう）とはいわないまでも、かなりの確率（かくりつ）で命中（めいちゅう）する🎯

　航空機（こうくうき）受難（じゅなん）の時代（じだい）であった。

　かといって海上（かいじょう）に戦艦（せんかん）を並（なら）べてドンパチする時代（じだい）でもない。それは、時代（じだい）錯誤（さくご）も甚（はなは）だしい、第一次（だいいちじ）世界大戦（せかいたいせん）の戦術（せんじゅつ）である。今（いま）や、現役（げんえき）の『戦艦（せんかん）』なる艦種（かんしゅ）は世界（せかい）に一艦（いっかん）たりとも存在（そんざい）しない。

　空母（くうぼ）とイージス艦（かん）を中心（ちゅうしん）とした敵（てき）艦隊（かんたい）に対（たい）して、戦闘機（せんとうき）の護衛（ごえい）をつけた攻撃機（こうげきき）で迫（せま）る。

　しかし、対艦（たいかん）ミサイルの有効（ゆうこう）射程（しゃてい）に入（はい）る前（まえ）にイージスシステムによる対空（たいくう）砲火（ほうか）と邀撃機（ようげきき）や戦闘機（せんとうき）によって撃（う）ち落（お）とされていく。

　日本側（にほんがわ）の航空（こうくう）戦力（せんりょく）が有効打（ゆうこうだ）を与（あた）えられないまま、海上（かいじょう）打撃（だげき）部隊（ぶたい）が削（けず）られていく。海上（かいじょう）前線（ぜんせん）は少（すこ）しずつ日本（にほん）に近付（ちかづ）き、そう遠（とお）くない将来（しょうらい）日本（にほん）本土（ほんど）にも火（ひ）の手（て）が上（あ）がることだろう。

　第二次（だいにじ）大戦（たいせん）の教訓（きょうくん）を生（い）かし、早急（そうきゅう）に降伏（こうふく）してもらいたいものだが。

「先生（せんせい）？　秋田先生（あきたせんせい）？」

　その声（こえ）に吾（われ）に帰（かえ）ると、春川桜子（はるかわ さくらこ）だった。

　つづく

　次回予告（じかいよこく）

　筆致（ひっち）？　何（なに）それおいしいの？

　と言（い）わんばかりにガン無視（むし）していく。

　筆致（ひっち）が残念（ざんねん）なのは自覚（じかく）しているので、あんまりいじめないで！　ボク、悪（わる）いスライムじゃないよ。

　アイディアだけが命（いのち）の本作（ほんさく）。

　桜（さくら）といったら人間爆弾（にんげんばくだん）『桜花（おうか）』を思（おも）い浮（う）かべるのは、私（わたし）だけなのだろうか？

　確（たし）かに日本（にほん）の黒歴史（くろれきし）ともいえるけれど、ガン無視（むし）するのも可哀想（かわいそう）。

　アメリカを震（ふる）え上（あ）がらせた必殺（ひっさつ）の兵器（へいき）。アメリカは、対桜花（たいおうか）対策（たいさく）に万全（ばんぜん）を期（き）したそうですよ？

　使（つか）いたかったけれど使（つか）えなかった言葉（ことば）をここでご紹介（しょうかい）。

『空母（くうぼ）機動（きどう）部隊（ぶたい）』『水雷（すいらい）戦隊（せんたい）』『回天（かいてん）』

『急降下（きゅうこうか）爆撃（ばくげき）』『甲標的（こうひょうてき）』『潜水艦狩り（ハンターキラー）』

『反跳爆撃（スキップボミング）(はんちょうばくげき)』

『電波欺瞞紙（チ　　ャ　　フ）(でんぱぎまんし)』

『露払（つゆはら）い』『ＩＣＢＭ（大陸間弾道ミサイル）』

　艦隊（かんたい）これくしょん『艦（かん）これ』関連（かんれん）が多（おお）い？

　ただ、第二次（だいにじ）大戦（たいせん）の戦術（せんじゅつ）やなんかは、現代（げんだい）が舞台（ぶたい）だと、ほとんど使（つか）い物（もの）にならないですね。

　零戦（ぜろせん）→機銃（きじゅう）

　現代（げんだい）の戦闘機（せんとうき）→空対空（くうたいくう）ミサイル(赤外線（せきがいせん）追尾（ついび）機能付（きのうつ）き)

　なんですか、キラークイーンの第二（だいに）の爆弾（ばくだん）ですか？　シアーハートアタック(温度（おんど）感知型（かんちがた）自動（じどう）追跡（ついせき）爆弾（ばくだん）)？

　なお、レーダー追尾（ついび）などの場合（ばあい）もあるらしい。詳（くわ）しくはウィキって下（くだ）さい〔魔女（まじょ）っ子（こ）★はウィキペディア派（は）です〕

　さーて、次回（じかい）は皆（みな）さんお待（ま）ちかねのバンカーバスター登場（とうじょう）です☆(いや、待（ま）っちゃいねえ！)

　タイトルは『先生（せんせい）が来（き）て下（くだ）さらなかったら、キスも未経験（みけいけん）のまま、飛（と）び立（た）たねばなりませんでした』の巻（まき）です。

　『キス』と『バンカーバスター』と『舞（ま）い散（ち）る桜（さくら）』の決（けっ）して混（ま）じり合（あ）わない闇鍋感（やみなべかん）を是非（ぜひ）ご賞味（しょうみ）下（くだ）さいませ🍲