第6話

聖眼を殺すなんて絶対にだめだ。私が何としても食い止めないと。


 「どうやって、聖眼をたすければいい?」ヒドラが私に尋ねた。私にだってそんなことわからない。こんなことは今まで一度もなかったんだから。

 「わからない。私が、話しかければ聖眼たちは耳を貸してくれると思う。そしたら、暴れることもないと思うんだけど…。そのあとは…」聖眼が暴れるのを抑えることができたとしてもどこにも、聖眼を連れていく場所が思い当たらなかった。

 「それだけわかれば、十分だ、聖眼たちをどうにかできてからかんがえればいい」そう言ってニクスは身支度を始める。


 「ユキ、車を出して、お願い」

 「言われなくてもそうするわ。私の故郷の人たちの命がかかっているんですもの」そういって立ち上がった。

 「俺たちももちろんついていくからな」とヒドラとニクスは互いに確認するように顔を見合わせながらそういった。


 「カロンも行くだろ」そう言ってニクスはカロンを見つめたが、カロンは黙って首を横に振った。

 「私はここに残るわ。ここにはまだ重要な資料がいっぱい残ってる。まだ、重要なことを見落としているかもしれない。ね、そうでしょう。今までこんなにも知らないことがあったんだから」といった。

 私はてっきりカロンはついてきてくれるものだと思っていたので戸惑ったが、

 「それにこの子たちも連れていけないでしょう」そう言ってカロンが周りにいる子たちを見回す。

 「私がみんなを守りながら、協力して資料を読むことにするわ。この子たちにそれぐらいのことはさせてもいいでしょう? この子たちのほうが、きっと読み慣れているから資料を読むのも早いしね」といって真っすぐ私を見た。

 年上なのもあってか、私はこのまっすぐな目に見つめられると、なんだかついてきてほしいと思ってるのが駄々をこねているように感じられる。

 「わかった。何かここでも異変が起きたらすぐに知らせてね」といってユキ、ニクス、ヒドラとともに隠れ家を後にした。


 「元気で帰ってくるのよ」そう言ってカロンは送り出してくれたが、アスカ、ミレア、アリサ、アンナやほかの子はどこか疲れたようにも見える悲壮感を漂わせていて、目を合わせてはくれなかった。

 私は何のためにここに戻ってきたのだろう。体が一気に重くなったように感じられる。泣きそうになるのをこらえながら車に向かうがなんだかうまく走れない。

 「おい、しっかりしろ」とヒドラが手をつかんで支えてくれる。

 辛くても、走らないと。

 聖眼への気持ちがより一層強くなっているのが感じられて、自分が嫌になる。自分が必要とされていないことを知って、違うものが好きになるなんて、なんだか卑しい奴だな、と笑った。


 「とりあえず、ヴァイスの方向に行くわよ」といいながらユキが車に乗り込んで、

 「ヴァイスにいるかはわからないけど、そっちの方角に行ったことは間違いない」という。私たちもユキに続いて車に乗り込んだ。

 後ろから足音が聞こえて、振り返るとそこにはアリサが立っていた。

 「やっぱり私もついていきたいの。エミリー一人に責任を押し付けるようにして逃げてきたけれど、やっぱりそんなの間違ってる。ここで自分をかえないと。本当のエミリーの友人になれるように…」そう言って戸惑う私たちをよそに強引に車に乗り込んだ。

 「角笛さえあれば、聖眼を操れるし…、それにおいしい料理もつくれるわよ」そういって私たちを許しを請うかのように見た。誰も答えずにいると

 「乗りたければ、乗ればいいじゃない。でも、次、判断に迷っているようなことがあればおいていくから。こっちは急がないといけないのよ」といって思いっきりアクセルをふんだ。首が座席に押し付けられていつかの痛みを思い出す。あれから一日しかたってないのが嘘のように思われた。あの時は明るい光と騒がしい笑い声であふれていたが、今は月が雲に隠れ重々しい緊張感が車内に充満していた。


 道を進んでいくにつれ、車内がだんだんと冷えていく。腕に鳥肌が立ち、手の先が赤くなった。暖かい息を吹きかけたり、さすってみたりしても少ししかあったまらない。

 「ねえ、だんだん寒くなってきたんだけど…。それにこの道路に積もっている白いものは…」

 病になると寒気がすると聞いたことがある。私は心配になって訪ねた。

 「ええ、そうね。雪が降り始めたから。…あなたはヴァイスに来たことがないといっていたから知らないでしょうけど、ここヴァイスは雪国なのよ。

 雪って言っても分からないか…。雪は上空で雨が冷えて固まったものなの。

 だからここら辺は寒いし、良質な水が得られるんだけど…。この国はその水を活かした機械工業が盛んになって栄えたからそんな悪いものじゃないわ。寒くなってきたってことはこの近くにあるはずなんだけど」

 「あるはずってどういうこと?」

 ひとまずこの寒さが病のせいではないと知って安心したものの、はず、なんて不確かな言葉は聞き捨てならない。私の横ではアリサもヒドラもニクスも腕をさすりながらユキを不審な目で見ている。

 「私ってちょっと方向音痴なところがあるのよね。ロートに行くときはカロンがちゃんと案内してくれたんだけど…」となんてことはないとでもいうような口ぶりで言う。

 「お前、どうしてそんなんでロートから出てきたんだよ。そんなこときいてないぞ」とヒドラが言うが

 「君たちが言ったことあるのかと思ってたんだけど…ないの?」とくびをかしげながらいう。

 もっとしっかりした人かとおもっていたのに…。

 「そもそも、ロートに一人で行こうとなんてする人…いないでしょ。宝石屋に届けた宝石を取ったあの時も間違えたのよ」という。ロートに一人で行こうとする人というところで私を見て笑うが、なんでこの状況でわらえるのかが私にはわからないし、私よりユキのほうがおかしな人だと今は思う。

 「なんで今になってそんなことを言うの?」

 「さっきまでは地面に跡があったし、雪が降り始めてからはより顕著に足跡がついていたわ。だからそこをたどっていたのだけれど、こうも雪がつよくなると、足跡が見えなくなってしまうのよ」といった。 

 覆面の彼らは聖眼を連れているので私たちのように車で移動することができないのだ。それなら、そんなにも遠くへは行けてないのかもしれない。私がそんなことを考えていると

 「でも、ヴァイスに行けなかったら、聖眼たちにめちゃくちゃにされてしまうかもしれないのよ。そんなのんきにしていちゃダメでしょ」とさっきまで緊張していたアリサも応戦する。

 「そうね、どうしようかしら」

 ちゃんと考えているのか判然としない声が聞こえた気がした。


 「ねえ、聖眼って鳴き声とかあるの?」とユキが突然聞いた。

 「あるよ、キュイ、みたいな鳴き声とか。場合によって少しずつ違ったりするけど…」と私が答える。アリサは私には聞こえたことがないけど、と不思議そうだ。

 「それはけっこう大きい鳴き声なの? 遠くからでも聞こえるような…」

 「結構大きい鳴き声だよ。聖眼と離れることはあんまりなかったから試したわけじゃないけど」

 「今はきこえないの?」

 「今は…、この車の音が大きくてよくわからない」と私が答えると、ユキが車を止めた。


 キュッ、キュッ…

 なにかが聞こえた気がする。


 突然、毛布のようなものが頭にかぶせられ

 「外に出てみて」とユキが言った。

  

 雪というものの上に降り立った。すくっと埋もれて足ぜんたいが冷える。

 耳を澄ますと聖眼のなきごえが聞こえた。しかし、里で聞いていた時とは様子が違う。里で聞いていた時には、一頭の聖眼が鳴き声を上げるとほかの聖眼がそれにこたえるようにしてないていた。今の鳴き方は…、違う。それぞれが勝手に泣いているだけで、全く鳴き声の意味をなしていない。しかし、その声の聞こえてくる方向は一点に定まっている。

 「こっちのほうから、声が聞こえる」といって私が指をさした方向には一面森が広がっているだけで、雪のせいもあってよく見えなかった。


 私がいった方向へ車で進んでいくとだんだんと雪がなくなってきて代わりに水たまりがいくつも道路に現れるようになった。車内もさっきより暖かくなった気がする。

 だんだんと声が大きくなってきて車内の中からでもその声がはっきりと聞こえるようになってきた。見えてきたヴァイスの要塞の裏手のほうに聖眼の翼がみえる。ヴァイスの要塞はロートよりも小さいように思われたがいくつもの高い塔が立ち、パイプのような構造物がそれらを橋渡ししているような複雑な構造をしていた。

 「私の故郷はこんな姿をしていたのね…」そう言うユキの顔は悲しそうだった。

 「町は壊れていないわ、なんでそんなに悲しそうなのよ。私の故郷はなくなったのよ」そうアンナはいった。きっと彼女なりの慰め方なのだろう。

 「壊れていない…。そうね、あなたにはそう見えるでしょうね。でも、雪がなくなってしまったら、熱暴走を起こした機械たちが全部つかえなくなってしまうわ。対策が取れるのは新しい研究所の数棟だけ…。私の国は機械がなくなってしまったら何もできなくなってしまうほど機械に頼っているの。それに人がのこっているのかもわからないわ。

 あなたにあったったって仕方ないけど…

 わからないでしょうね、あなたには」そう言いながらユキはハンドルを強く握った。


 「でも、聖眼がつかまっているのにあんなにおとなしくしているなんて何かがおかしい。もっと暴れるはずなのに」と私が言うと、

 「あの方向は、国にとって重要な実験を数多く手掛ける実験施設があるところよ。何か聖眼にしたのかもしれない」そう要塞の手前に車を止めながらいった。


要塞の中に入ると人は見当たらなかったが、いたるところで警報アラームの甲高い音が鳴り響いていた。警告ランプがピカピカと光って、今までに見たことがない明るい光に目がくらんだ。

 「人がいないわね」

 「まあ、聖眼が国にいるなら人がいないのも当然だろうな。避難していていなくなっているのならいいけど」とヒドラがあたりを警戒しながら言う。

 「避難場所が決まっていたりはしないの?」と私が訪ねると、

 「人が分散するように、各地に設置されているはずだけど、みんながちゃんと避難していたら、内側からしか開けられないようになっているからもう私たちが入ることはできないわ」といいながら歩きだす。

 「ちょっと、そっちは聖眼のいるほうじゃないでしょ」とアリサが言うが、ユキは構わず進んでいく。ニクスが

 「おい、どこ行くんだ」とおおきなこえで話しかけると

 どうかしたの?とでもいうように振り返った。なかなか、ペースのつかめない人だ。

 「どこに行くんだ」ともう一度ヒドラが聞く。

 「ああ、そっか。皆来たことないんだったね。もし、今ちゃんと動いている研究所があれば、あそこしかないってところに行こうと思ってるの」

 きっとここに来たことがあってもそんなことはわからなかったと思うんだけど、ユキはまた私たちをおいてさっさと行ってしまうので私は周りの状況をさして観察もできないまま、よくわからないところへ連れていかれることとなった。


 「あなたが行くところでは何ができるの? それに、もうちょっと慎重に行ったほうがいいんじゃない?」アリサは周りを見回して、慣れない足場を歩きながらいう。

 「大丈夫よ。もうここならその覆面の人たちには見つからないから。常識が違うってめんどくさいわね。さっきくぐってきたゲートあったでしょ?あれを過ぎたら外からは姿が見えないようになるのよ。ここは本当に重要な実験を扱ってるところだから、きっと暑さ対策も考えられていたはずなの」とユキがいう。そうだったのだろうか、同じような作りが並んでいるように見えるし、色も鉄骨の灰色しかないので言われてもよくわからなかった。

 「ところで、そこに行ってなにをするんだ? そんな実験施設、俺らじゃあつかえないぞ」とニクスが言う。

 「そこは期待してないから大丈夫よ。私がそこに行くのは…、まさかそのままあの聖眼のところにいくつもり?エミリーとアリサはともかくニクスとヒドラは武器がいるでしょう? そのままいったって覆面の人たちに殺されて終わりよ」といってユキはさっさと前を行く足を止めて振り返った。

 彼女の背後には大きな扉がある。

 「ようこそ、私の国、ヴァイスの中心部へ」といいながらその扉を開いた。


 中に入ろうとすると目の前に丸くて白い直径4メートルほどの球体がどこからともなく現れてユキがその中に入っていった。私たちも続いて中に入ると中にはコントロールパネルがついていて、足元が球体の一部ではなく平面になっているだけの何もない空間だった。五人が入るとそれだけでいっぱいになってしまってあまりくつろげるというかんじではない。

 「これは何?」とアリサが聞くと、これはこの施設のなかでのみ使うことのできる移動用の乗り物なのだという。

 ユキがそう説明した瞬間、今まで平面だった床からにょきっと棒が伸びてき先端が広がった。それと同時に今まで閉じていた天井部にぱっくりと裂け目が入り、その裂け目が開くように天井部がスライドした。

 「これが椅子だから。ちょっと揺れるから座っていたほうがいいよ」というユキの言葉におとなしく従って私たちは椅子に腰かけた。

 しかし、なんて不思議な空間なんだろう。開いた天井部はちょうど座った私の方くらいのところまで開くと、そこで止まった。周りの様子がよく見える。改めて周りの様子を見ると、私たちと同じような乗り物に乗っている人たちが見える。

 「よかった。ちゃんと避難できていたんだね」と私が言うと

 「ここは避難場所じゃなくて実験施設よ。さっきもいったでしょう。ここは特に国の中心部だから、うごかしてないといけないの。ここには研究者がいるだけで、避難所のほうが無事かどうかはわからないわ」とユキが答えた。口ではそんなことを言っているがいくらか、安心したようだった。

 「なんで、そんなところにお前が入れるんだ?

とニクスが言う。確かにそうだユキがそんな重要な実験施設に入れるような人には見えない。

 「ここにおじさんがいるのよ。それに私だって研究者としては一流なのよ。まあ、いろいろあって今は研究者としてはやとってもらってないけど」と触れてほしくなさそうにユキが答えた。 

 「じゃあ、この乗り物の説明もできるのか? 今までこんな乗り物はみたことがない」とヒドラが訪ねる。

 「ええ、あたりまえじゃない。これは反重力装置で浮いているの。ここの四次元空間だとこの装置に乗って移動したほうが座標指定で動けるから便利なのよ」

 「あんまり、説明になってないんだけど。反重力装置って、重量を操るとか聞いてるけど、それって実際どういった仕組みなんだ?」 

 「そんなこともしらないの? 信じられない。そんなこと今どき十歳の子供でも理解できるわ。どれだけ文明が遅れてるんだか」 

 後ろのほうで、じゃあ、カーナビくらいつけとけよ、というニクスの声がしたがユキはかまわず、何やらパネルを操作している。こんなもの初めて見たし、そもそもそこに書かれている文字が全く分からない。ロートの文字とは全く違う細かい文字が並んでいた。

 「今から、さっき言ってた私のおじさんに会いに行くわ。きっとこの事態に対処するために聖眼の対策が進んでいるだろうから、話をつけないと。何かしらの武器の研究は進んでるはず…」そう言いながら、ユキは最後のボタンを力強く推した。

 

 ユキがボタンを押したその瞬間、私たちが乗っていた球体の乗り物は左斜め上へと急上昇を始めた。進んでいく先に何人もの人が浮いて何やら話し合いをしているようだったが、私たちの乗り物は構わず突っ切っていく。横切られた人たちののりものに乗っていたコーヒーがこぼれ、乗っていた人がこちらに向かって怒鳴りつけているが、ユキが気にしている様子はない。なんだか、ユキが追い出されている理由がわかった気がして、あんまり深刻な問題じゃなくてよかったと安堵した。 


 やっと乗り物がとまったところには数人の白衣を着た年配の人たちがそれぞれの乗り物を円形に並べて、何やら話し合いをしていた。そのうちの一人が

 「なにやら、君にお客さんのようだよ。なかなか懐かしい顔だね」と正面の人に話しかけた。ユキは話しかけられていた小太りで、大きな眼鏡をかけたおじさんの乗っている乗り物に私たちの乗り物をちかづける。

 「やあ、久しぶりだね、ユキ」そう言って振り返ったおじさんにユキはあいさつすることもなく、間髪入れずに、

 「私の実験施設に入れて、まだ捨ててなんかいないでしょう」といった。おじさんはいやそうな顔をして、

 「わかるだろう、今会議中なんだ。聖眼と呼ばれる竜が来てしまって町はパニックにおちいっているんだから。どうにかして、倒さないと」

 やはりこの人たちも、聖眼を倒そうと考えているのだ。彼らが円形に囲んでいる中心にあるボードには何やら数行の列がみえそのどれもに斜線が引かれていた。パット見ただけでも二十行くらいは並んでいる。

 「やっぱり聖眼を倒そうと考えているのね。でも、この様子じゃ何も解決策が浮かばなくて八方塞がりってとこかしら」 ユキは中央のボードに目を向けながら、

 「どうせあなたのことだから、もうこの場所はあきらめてほかの場所へ移ってしまおうとか言いだしていたんでしょう?」 

 図星だったようで、おじさんは顔をしかめた。周りの人たちもくすくす笑っている。

 分が悪いと思ったのか、おじさんは乗り物ごとこちらに向き直って、背中越しに

 「ちょっと、失礼するよ。君たちで話し合ってみてくれ」と残した人に言いながら私たちについてくるように指示をした。

 

 人気のない空間まで来るとやっと男性は口を開いて

 「あんなところに来てどういうつもりだ」とユキに行った。

 「どうせ、何にも話し合いは進んでなかったんでしょ。別にいいじゃない」

 「逃げるという方向で話はちゃんと進んでいたさ。お前が来なければな」そんなやりとりがきこえる。

 「お前があんな問題行為を繰り返していたから、研究所から追い出されたんだろ」と、ニクスがからかって言うと、

 「あんなこと普通のことよ。ここじゃあんなこといつでも起きるわ」といった。おじさんは、いや?そんなことないよ?ふつうじゃないよ?ユキがおかしいんだよ?としきりにぼそぼそとつぶやいているが、目の焦点があっていないところがこの人の苦労を物語っていて、あわれに感じた。しかし、さっきのような行動で追い出されたわけではないとは一体どういうことなのだろう?


 「ほら、お前の実験施設、ここにうつされたんだよ。誰も触れないようにね」

 髑髏マークの書かれた扉があった。髑髏の下に書かれた文字は読めないが、何やら危険なものであることはすぐにわかった。これがユキが研究所を立ち入り禁止になった理由であることも。

 「お前、なにつくったんだよ?」と笑えずに聞くニクスに

 「いろいろよ」と言いながらユキはその実験施設の中へ走っていった。


 そこには確かにいろいろな発明品が置かれていた。丁寧に、ショーケースにしまわれ、開発された順番に番号もうってある。

 「それで?俺たちが使う武器ってのはどんなんなんだ?」

 「これよ」そう言って取り出したのは鉄砲のようなものだった。

 「これは電撃を発生させる装置よ。だいたい半径五百メートルにいる人だったらこれでやれるわ。遠距離型のスタンガンみたいなものね。わたしたちが巻き込まれないように気を付けていればいいだけ。私がこれを作動させるから、ニクスとヒドラでこれに近づいてくる人を追い払ってほしいの。これが発動するときにはこの機械の後方にいれば被害を受けることはないから大丈夫よ。で、その覆面の人たちを倒したらあなたたちの番」そう言ってユキは私とアリサを見た。

 「あなたたちが聖眼の動きを止めて、もう一度、この国に雪をふらせて」とそういった。

 

 「あれは使わないのか?」ずっと私たちの様子を見ていたおじさんがそう言ってユキを見た。

 「あれは危険でしょう? ちゃんとそんなことはわかっているのよ。あれを使ったら聖眼は確実に死ぬわ」

 そんなものあるはずがない、と私は思ったが、

 「それは何? どんなものなの?」とアリサがきいた。

 「私は、実験をするときどうしてもある鉱石を使う必要があったの。それも大量に。だけど、そんなにその鉱石はとれるものじゃなかったから、ほかの物質から原子レベルで改造してその鉱石を作り出す技術を開発したの」

 「その鉱石が問題なの?」

 「いいえ、その作り方が問題なのよ。原子を組み替えてしまうから、人だろうと、聖眼だろうと分解して違う物質にかえれてしまうの。例えば、価値の高い金とか作り放題、そんなものを開発してしまったものだから私は実験室を追い出されたの。まあ、まだ、実用段階ではなくて実験もうまくいかないことがあるから、聖眼に使うなんて今はまだ、夢の夢だけどね」とそういった。きっと完成していたらあの研究者たちは迷わず、聖眼に対して使用しただろう。私はそっと胸をなでおろした。

 「まだ、できてなかったのか。てっきりできたところを見つかったのかと思っていたんだが…。それをすぐ完成させることはできないのか?」とおじさんは聞く。

 「試作品を作るだけでも一年近くかかるわ。今はほんとうに小さいものだけにしか使えない。聖眼に使おうと思ったら何年かかってしまうかわからないわ。今は、この二人に頼るしかないのよ」とそう答えた。


 「ところでその男二人はゲルプの人間で、そのお嬢さんはロート?の人間か? それにもう一人の銀髪のお嬢さんはいったい…。随分といろんなところへ行ったようだが…。方向音痴のお前がよくここまで帰ってこれたな」

 「この二人は、みての通りゲルプの人間でヒドラとニクス、貿易商に雇われていて主に宝石を扱っていたみたい」とユキが紹介し、ヒドラとニクスはそのおじさんと握手を交わしている。

 「こっちの二人はその赤髪の子がアリサでロートの子、角笛を使って聖眼の制御ができるみたい。で、こっちの銀髪の子がエミリーでこの子は直接、聖眼を操ることができるの。ここの運命はこの二人にかかっているのよ」とユキが説明し、私とアリサはヒドラとニクスの動作に習っておじさんと握手をした。

 おじさんは「私はユキのおじでね、ユキに知識を与えたのも俺なんだが…。思わぬ方向に成長してしまったものだよ。全く。まあ、私が協力できることはほとんどないだろうがよろしく頼む」とあいさつをした。


 ユキがヒドラとニクスに適当な武器を見繕っていく。

 「この銃なら一発で殺せるけど、複数来ちゃうと不安だからなあ」とか

 「これはきっと練習しないと私が巻き込まれちゃうし」といってきれいに整頓されていた床になんだかわからないものが転がっていく。

 「なんだか物騒な物ばかり作ってる人だったのね」とアリサが話しかけてきた。

 「そうね、全然そんな風には見えないのに。人は見かけによらないってきっとこういうことね」と私は答えた。

 「そうね、ところで、あの人たちが覆面の人たちを殺した後、私たちは具体的になにをしたらいいの?」という声にニクスが反応し、

 「そういえば、あの実験施設で聖眼たちは何をされているんだ?」とおじさんのほうを見ながら聞いた。みんなの視線がおじさんに集まる。

 「あそこはもともと人工知能についての研究を主としているところでね私の研究とはかけ離れているものだから、何に使っているのかはよくわからないんだ。よそから来たものがぱっと使えるものではないんだが…」その顔は本当に知らない人のものだった。

 「じゃあ、私たちはみんなに責めてもらっている間、敵が実験施設で聖眼に何をしていたのかを調べに行こう」とアリサに言うとアリサはうん、わかった、とほほ笑んで返した。わたしは、おじさんに向き直って

 「私たちをその実験施設に案内してほしいの。ユキはその間、覆面の男たちにつきっきりだろうから」というと、おじさんは、いやそうな顔をしたがユキがにらみつけたのでわかったよ、と渋々了解してくれた。

 よし、これで聖眼を助けに行くことができる。

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