最悪のペア

次の日。

学活の時間。

今はリレーの走る順番を決めている最中。

昨日おばあちゃんにメダルを取る。

と言ったけど

私の足は、どちらかといえば遅い方だった。

正直なところ練習したとしても、

個人走で一番を取るのは難しいだろう。


だから私はもう一つの種目に賭けることにした。

二人三脚だ。

この種目でも一番になった人はメダルがもらえる。


二人三脚において最も大切なのは息を合わせることだ。

そのうえでさらに、自分よりも速い人と組むことができれば、

相対的に私の走る速さも僅かだが、上がる。


それに二人三脚は本気で一位を目指すというよりは

余興のようなものに近い。

そういう意味でも個人走よりは遥かに一番になれる確率が高いと思っていた。


しかし一つ問題があった。それは二人三脚のペアを決める方法。


『よーし。二人三脚のペアを決めるぞー。明星から蛇順にクジ取りに来い。』


いつの間にかリレーの順番決めは終わっていて二人三脚のペア決めに

移行していた。


そう、問題とはこれ。なぜかペアはクジで決まるのである。


先生が教室全体に聞こえるように大きな声で指示を出すと

教室の左側の一番前に座っている男の子が立ち上がりクジを取りに行く。


そこから順番に後ろの人が取りに行き、

その列の最後まできたら、今度はその隣の人から前に向かって

順番にクジを引きに行く。


つまり蛇みたいにうねうねした順繰りで進むのだ。


そして私の番が回ってきた。

クジは全部で30枚、そしてクジの番号は15番までだ。

クラスは全員で30人なので、余りは出ない。

同じ数字同士の人がペアになるという仕組みだった。

私は…12番か。


全員がクジを引いた後、先生が号令をかける。


『よし。それじゃあ、ペア確認だ。教室の左から番号順に並んでけー。』


お願い。速い人と組ませて!私はそう祈りながら、教室の右側の方に向かった。


『げっ!女子とかよ…。最悪。』


そう悪態をついたのは如月きさらぎ 隼人はやとくん。

短めのツンツンとした頭を持つ彼は、面倒くさがりで有名だった。

授業中は大体寝ているし、体育でもダラダラと行動している。


しかし、私は覚えている。

去年、五年生の体育の時間。

この日は50メートル走のタイムを測る授業だった。

いつも真面目にやらない如月くんに、

先生が、たまには本気でやってみろ。

と怒ったら、珍しく彼が『わかった。』と答えた。


結果は6.5秒。


中学2年生の全国平均を大幅に上回る記録らしい。

あの場にいた人はみんな驚いていた。

私もその一人で彼の足の速さにただ感心していた。

あの時のクラスのざわつきは今でも記憶に残っている。


だから目標の一つである、足の速い人とペアを組むというのは達成出来た。

けれど人生そんなに上手くはいかないもので、

ペアは如月くんになってしまった。


彼は恐ろしいまでのめんどくさがり屋で、

それがたとえ体育祭であっても変わることは無い。


そんな彼をやる気にさせた上で息を合わせていかなければならない。

私は今後のことを考え、彼とは違う意味で『最悪。』

と心の中で呟いた。

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