小説を書く練習 題名 二人三脚

赤星

病室で

私が中学校二年生に上がった日、おばあちゃんが家で倒れた。

お母さんがすぐに気づいて病院に連絡し、

おばあちゃんは入院する事となった。


お医者さんに話を聞いて来たお父さんとお母さんは、

おばあちゃんは病気になってしまったから

病気が治るまで、入院しないといけないんだと私に言った。


おばあちゃんが入院してから1ヶ月。

おばあちゃんっ子の申し子(自称)こと

東雲しののめ 彩花あやかは、

学校から帰って来た後に

おばあちゃんのお見舞いに行くのが

日課となっていた。


『おばあちゃん。彩花が来たよー。』


取っ手のついた白いドアを横に引いて病室に入ると、

窓際のベッドで寝ているおばあちゃんが

上半身をゆっくりと起こしてこちらに顔を向けた。


『あら、いらっしゃい。彩ちゃん。』


おばあちゃんは笑顔になって、私を迎えてくれた。

私も同じように笑みを返し、ベッドの横の壁に立て掛けてある

折りたたみ式の椅子を組み立てて座る。


『おばあちゃん、リンゴ持って来たんだ。食べる?』


『あら、嬉しい。せっかくだから頂くわ。ありがとう、彩ちゃん。』


おばあちゃんの意思を確認し了承を得た私は、

椅子の横に置いていた茶色のショルダーバッグの中から

透明のタッパーを取り出した。

中には既に形良く切ってあるリンゴが入っている。


『おばあちゃん。はい、口開けて。』


一緒に持って来た爪楊枝でリンゴを刺し、

おばあちゃんの縦に開いた口の中目掛けて手を前へと押し出す。


『甘くて美味しいわ。ありがとうねぇ、彩ちゃん。』


リンゴを飲み込んだ後、おばあちゃんは笑んだ顔でそう言った。


『ふふっ!それは良かった。』


おばあちゃんはどんな時でもニコニコしている人だ。

今だって病気で苦しんでいて辛いはずなのに、

毎日お見舞いに来ている私は、おばあちゃんが笑顔でいる

ところしか見たことが無かった。

私はそんなおばあちゃんのことが大好きだった。


『もう体育祭の練習は始まったの?』


唐突に振られた質問に私は素早くレスポンスをした。


『団体種目はまだだけど百メートル走とかはもう練習してるよ。

明日の学活でリレーの順番とかを決めるから、そしたらもっと本格的に

練習して行くと思う。』


『そうなの。なら体力つけないとだわね。

お母さんにいっぱいご飯を作ってもらって、いっぱい食べるのよ?』


『うん!任せて!』


私は元気に頷いた。


『おばあちゃん、今年は体育祭見に行けないけど、

ここから沢山応援するからね。頑張るのよ、彩ちゃん。』


『ありがとう、おばあちゃん。私、頑張るよ。』


小さい頃からずっと、おばあちゃんは運動会、体育祭、

と応援に来てくれていた。

けれど、今年の体育祭は病気のせいでおばあちゃんは来られない。

分かってはいたけど、やっぱり寂しい。


『おばあちゃん、あのね。私、今年の体育祭でやりたい事があるんだ。』


私はそんなくらい感情を吹き飛ばすかのように

明るく弾けた調子で言った。


『あら、そうなの?それはどんなこと?』


『それはね。金メダルを取ること!』


私の中学の体育祭では、

一位になった人に金メダルが与えられるシステムがある。

それが適応される種目は二つ。

一つはクラス対抗の個人走で、

もう一つは同じくクラス対抗の二人三脚だ。


金色に塗ってあるだけのおもちゃのメダルなので、

正直ちゃちな出来だ。

しかし、病気と闘っているおばあちゃんのために、

何かしてあげたかった。


そこで私は体育祭の金メダルをプレゼントする事を思いついたのだ。

これには戦いに勝った証を贈る事で

おばあちゃんにも病気に打ち勝ってほしいというメッセージが込められている。


『あら、珍しい。今までメダルを獲りたいなんて言ったことなかったのに。』


おばあちゃんはほんの少しだけ驚いた様子で言った。


『今年はなんかメダルを獲りたい気分になったの。』


私は理由を明確にはせず、話を返した。

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