254. 異世界2308日目 親友たちの結婚式

 アーマトを出発し、拠点に泊まりながらオカニウムにやってきた。


「オカニウムが見えてきたわ!!磯の香りがする!!はやく、はやく!!」


 ジェンがかなりはしゃいでいるなあ。まあしょうが無いけどね。



 受付をしてから町に入り、まずはメイルミの宿に顔を出す。


「メイサン!!ルミナ!!ただいま!!!」


「ジェン!やっとやって来たわね。いつ来るかと指折り待っていたわよ。もう! 元気にしてた?」


「ええ。元気、元気!ルミナの方こそ大丈夫?」


「うちらも元気にしているわよ。まだまだ働かないとね。今回はマルラ達の結婚式に来たんでしょ?それまではうちに泊まっていくのよね?」


「ええ、もちろん。時間があるときはまた手伝うからね。」


「それはありがたいわね。ジェンのことを知ったらお客が増えそうだしね。結婚してるって分かっていても鼻の下を伸ばしてくる奴らが多いからね。」


 なんか実家に帰ってきたような感じだな。こっちの世界に来たときに二人には本当にお世話になったみたいだからね。メイサンもやって来てしばらく話した後、部屋の予約をしてから出かける。




 まずは役場の受付に行って冒険者の登録をするが、前にいたマーニさんの姿がなかった。話を聞くと結婚して他の町に移ったらしい。少し資料を見てからカサス商会へと向かう。


 商会に着くと、すぐにフラールさんとマラルさんがやって来た。


「ジェン!久しぶり!」


「久しぶり!結婚するって聞いたときは驚いたわよ。アキラも一緒って言うから余計にね。」


「最後にジェンに会ったときはまだ友人という感じだったんだけどね。ふふふ。

 そのあといろいろあって結婚する話になったんだけど、アキラも同じくらいにプロポーズされたみたいなのよ。それで一緒にって話になったの。

 だけどごめんね。わざわざこっちまでやって来てくれるなんてうれしいわ。」


「当たり前じゃない!!もし呼ばれなかったら一生恨むわよ。」


 しばらく二人が挨拶するのを待ってから結婚式の話を聞く。結婚式は10日後に行われるのは予定通りだが、もちろんカサス商会が売り込んでいる結婚式のスタイルで行うようだ。まだ検討中のイベントも試験的にやってみるらしく、盛りだくさんな内容になりそうだ。

 イベントの内容を聞くと、地球でもすでに行われていた内容もあったので、聞いたことのある範囲で助言しておいた。なにか手伝うことが無いかと思っていたんだが、あらかた形が決まっているので特に出番がなさそうだ。


 入場行進の曲は自分たちが使ったメンデルスゾーンの結婚行進曲が定番となっているらしく、ジェンがお願いした演奏家と契約して録音させてもらったものを使うみたい。ちゃっかりしているね。

 音楽の権利についてはジェンが演奏するのは問題が無いことになっているので、当日は録音されたものではなく、ジェンが演奏することになった。式場にはちゃんと演奏用に楽器もおいているので大丈夫らしい。あとは披露宴の余興についてもお願いされたので引き受けることにした。




 この日の夜はマラルさんとアキラさんの相手の二人を交えて食事をすることになった。彼らには冒険者をやっている二人で以前はこの町に住んでいたこともあると話をしているらしい。


「初めまして、冒険者をやっているジュンイチと言います。」


「同じくジェニファーと言います。以前この町に住んでいたときにアキラとマラルに出会ったんです。」


「初めまして。カサス商会に勤めていますトオルといいます。二人のことはマラルからも良く聞いていますよ。お二人の結婚式が衝撃だったみたいで今回はそれにあやかってやってもらうことになりました。」


「クニオと言います。アキラと同じ港の事務所に勤めています。アキラからも二人のことは聞いていまして、サクラに行ったときの話はもう何度も聞かされましたよ。」


 どうやらいわゆる職場結婚というやつだな。まあこっちでは結構そういうのが多いみたいだけどね。


「冒険者を始めた頃にマラルとアキラの二人と一緒に魔獣を狩ったりしていたんですよ。悩んでいたときに二人に悩みを聞いてもらったりしてとってもお世話になったんです。二人のことをよろしくお願いしますね。」


 このあと食事をとりながら二人のなれそめや今の仕事のことなど話をする。自分たちは外国を回ってきたことを話したんだが、やはりあまり聞かない異国のことなのでかなり興味を引いていた。

 特にマラルさんやトオルさんはカサス商会で出世するには他の国にも行った方がいいと言われているらしく、いろいろと他の国のことを聞かれた。


「トウセイ大陸にはまだ行ったことがないので分かりませんが、ハクセンとアルモニア、タイガならそこまで雰囲気は変わりませんね。ただヤーマンよりも貴族の権威が強いのでそこがちょっと異なるところですね。

 ナンホウ大陸は以前よりはだいぶ良くなってきていますが、貴族の権限がさらに強いので苦労するかもしれません。モクニク国の支店長がちょっと愚痴っていましたしね。サビオニアはいろいろと状況が変わっているので何とも言えないですね。ただまだ支店を出してから日が浅いのでそういう面で苦労するかもしれませんね。」


「やっぱりアルモニアやハクセンを希望したほうがいいかな?」


 他の店員からもいろいろと話は聞いているみたいで、他の国に行くならその二つの人気が高いらしい。一番人気が低かったのはナンホウ大陸だったようだが、今はだいぶ情勢が変わってきているので悩ましいところだ。

 いろいろと話をしていたらかなり遅い時間になったので慌ててお開きとなってしまったが、ジェンは久しぶりに二人と話しが出来てとても楽しそうだった。




 結婚式までは宿の手伝いをしたり、訓練をしたり、鍛冶をしたりと基本的に町の中で過ごすことにした。一回だけオカニウムに来るための転移場所を探すために出かけたくらいだ。

 サクラと同じように、車で少し走ったところにある岩山の上に転移場所を作ったが、もし魔獣がいたとしても並階位レベルなので問題ないだろう。



 訓練場では知った顔も結構いたんだけど、自分たちの技量がかなり上がっていることに驚いていた。まあ6年前は初心者講習に出るレベルだったからなあ。


 さすがにメインの武具を装備するわけにもいかないので予備として持っていたものを装備をしているが、それでもかなりいい装備になるのでちょっとうらやましがられてしまったよ。

 普通は良階位になってもなかなかミスリルの装備なんてそろえられないからね。オリハルコンなんてもってのほかだ。だいたいが鋼レベルのものが多いくらいだし、品質も高階位くらいだからね。




 結婚式当日は晴天というわけではなかったが、雨は降りそうになくて良かった。今回は以前ハクセンで作った正装を着ることにした。この格好であれば基本的に問題は無いらしい。

 二人が着ているドレスは自分たちの結婚式の時に渡したドレスを少しアレンジしたものだった。思い出のものだし、気に入っているので仕立て直して使うことにしたようだ。元は同じドレスなんだが、それぞれが気に入った形にアレンジしているのでオリジナルよりも二人に似合っている。


 ファーストルックというものはせず、教会式から始まるものだったが、ジェンの演奏に合わせて4人と親戚の女の子二人が花びらを巻きながら入ってきた。

 壇上に上がった後、指輪交換をしてから結婚の宣誓を行う。宣誓の時、自分たちと同じように前に並んでいる5柱の神のカムヒ様の像が光ったので祝福をくれたようだ。鑑定してみると祝福が付いていたから間違いない。神父に祝福のことを言われて4人はかなり喜んでいた。

 自分たちも祝福はもらったんだが、100組に1組あればいい方と言っていたのでかなりの確率だろう。


 一通りの式が終わってからブーケトスとなるが、二人の友人の未婚の女性が結構な人数参加していた。特に説明もなく行われていたので、大分このイベントについて認識されてきているのだろう。

 花嫁だけでなく、花婿からも同じようなイベントがあり、未婚の男性が参加するというものだ。投げるのはそれ用に準備されたような花で作ったボールだった。


 そして最後に既婚者への幸せのお裾分けとして既婚者女性のみの参加するイベントもあった。いろいろと考えているんだなあ。

 ジェンは参加して花のボールを奪っていた。だけど、そこで魔法を使うのは卑怯だと思うよ。しかも突撃のスキルとか重量軽減魔法とかも使って回り込んでいたよね。ほとんどの人は気がついていなかったけど、ジェンの動きを見て引きつっていた人が数名いたよ。

 ちなみにこの花のボールはこのままつり下げて飾ることが出来るようになっているみたいで、持ち運び用のケースも準備されていた。劣化防止の魔法もかかっているようなのでかなり長持ちするらしい。


 披露宴はクリスさんのお店で行うみたいで、すぐ近くにあるので歩いて移動となった。新郎新婦は車に乗っての移動だけどね。車には一面に花が飾られていてかなり目立つ仕様だ。今回実験的にやっているものらしい。


 会場で席に着いてしばらくすると二組の新郎新婦が入場してきた。このときの伴奏はジェンが演奏していた。

 披露宴は自分たちがやったような感じなんだが、ファーストバイトではそれぞれの両親にも挑戦してもらっていた。これはフラールさんにも内緒にしていたことで、いきなりふられて驚いていたが、照れながらも両親全員がやってくれていた。

 途中でお色直しをしたり、キャンドルサービスではろうそくが変わった形になっていたり、ケーキカットのケーキがかなり豪華になっていたりといろいろと工夫を凝らしている。

 ジェンは披露宴でバイオリンのようなもので演奏を披露していた。あとはジェンと二人で練習した魔法を使った隠し芸だ。魔力操作が上がって細かく魔法が制御できるようになったのが大きい。ジョニーファンさんやラクマニアさんが披露してくれた内容をアレンジしたものだが、結構うけたので良かった。


 結婚式から披露宴まで2時間近くかかって終了となったが、参加した人たちは目新しいことも多くてかなり満足していたようだ。

 だけどこういうことはやり出すとどんどん派手になっていくんだよなあ・・・。聞いた話だとゴンドラとかに乗って登場とかもあったらしいしね。うちの両親はバイクで入場したらしいけどね。両親の友人達の中では同じようなことをする人が多かったらしい。




 結婚式が終わったあと、結婚式のイベントについていろいろと話をした。当事者と参加者の目線からいろいろと改善すべき点があったからだ。


 少ししてから4人と食事会をして改めて結婚祝いを渡すことにした。こっちでは結婚祝いには事前に新郎新婦に聞いてから何人かのグループでまとめて送ったりするらしく、送るものは家具だったり、食器だったりと長く使えるものが一般的のようだ。冒険者はタオルという風習はあるけど、それは冒険者特有のものだ。

 それで何か希望がないか聞いてみたんだが、あらかたのものはすでに友人達にお願いしたみたいですぐに浮かぶものがなかった。そこでいろいろ話した結果、錬金術のスキルがあるのでアクセサリー関係を送ることになった。


 デザインはジェンが考えたもので、金とミスリルを使ってネックレスを作成した。よくある二つをあわせることの出来るネックレスで、事前に聞いたお互いへの思いを中に刻みこんでいる。

 折角なので付与魔法で新郎には「筋力向上」、新婦には「魔力強化」を付けている。がんばってやった甲斐があり、レベルは2になったのでそこそこの性能だろう。


「改めて結婚おめでとうございます。前に言っていたネックレスですが、なんとか完成したのでお渡ししますね。」


「「「「ありがとうございます。」」」」


 それぞれに間違えないように渡して、デザインと付与魔法の説明をする。


「あの、それって買ったらかなりの金額になるのでは・・・?」


「どうなんだろう?材料も持っていたものを自分たちで加工したものだし、アクセサリーとしては並レベルなのでそこまで高いものではないと思いますよ。あまり気にしなくていいので、普段使いにしてください。折角の付与魔法の効果がもったいないですから。」


 このあと結婚式の話やこの後住む場所についての話などでこの日も夜遅くまで盛り上がってしまった。ジェンが持っていたお酒も出していたからね。トオルさんもクニオさんもお酒はそれほど詳しくないみたいで「お酒がそんなに好きではないですが、かなりおいしいですね。」と結構飲んでいた。



~アキラSide~

 久しぶりにジェンとジュンイチさんに会った。初めて会ったときからほとんど変わらない容姿にちょっと驚いたけど、そういう人たちもいるという話は聞いたことがあるし、そんなことはたいした問題じゃないわ。


 この日は私たちの結婚相手を紹介するということでマラル達も一緒に食事をすることになった。食事の場所は私たちの結婚式会場にもなるお店のレストランだ。

 カサス商会と提携しているので結婚式の場合は普通に使用できるけど、高級店なので特別な時じゃないと簡単に使うようなところじゃない。

 なかなか予約も取れないところらしいけど、ジュンイチさんがオーナーのクリストフ王爵の親友と言うことだから大丈夫なんだろうね。クニオもトオルさんもちょっと緊張しているみたい。


 今回は個室を予約してくれていたみたいで、部屋に案内されたけど、正直場違いなところに来てしまった感覚に襲われる。ジェン達は普通にしているんだけどね。



 最初は緊張していたけど、話しているうちにやっと慣れてきたわ。クニオもお酒を少し飲んでからはいつもの調子が戻ってきたみたい。

 マラルが他の国のお店に行くかもしれないという話から外国の話になったんだけど、やっぱり行ったことのある人の話を直接聞くとおもしろいわね。でもやっぱり結構大変なこともあったみたいだし、貴族の権威が強いところは出来るだけ避けた方がいいと言われてしまった。爵位相当を持っている二人が言うのだから余計に実感してしまう。


 食事の後、マラルにこっそりと「何かあったら言ってくれれば助けてもらうように伝えるわよ。」と言っていたが、助けてもらう相手ってちょっと怖いわよね。

 あとでマラルにも聞いたらさすがに恐れ多すぎて頼めないと言っていた。たぶんあの二人の結婚式に来ていた人たちだもんね。

 あとサビオニアにも伝手があると言われて驚いたわ。新しい国の政府の関係者だからと言っていたけど、正直なところどのくらいの人なのか怖いわよね。二人の知り合いってかなりの人たちだからね。



 結婚式はジェンの結婚式の時にもらった衣装を手直ししたものを使うことになった。その話をしたとき、マラルも同じ事を考えていたみたいでお互いに好きにアレンジしようと言うことになった。もちろんジェンにもちゃんと確認はとったわ。

 結婚式ではジェンが演奏してくれてうれしかったわ。披露宴での余興もすごかったしね。ジュンイチさんと二人の魔法はみんな驚いていたわ。



 結婚式の後で二人から結婚祝いとしてネックレスをもらったのだけど、あまりの出来にちょっと驚いたわ。ジェンがデザインしてジュンイチさんが作ったみたいなんだけど、そこら辺で売っているものよりもできがいい物だった。しかも付与魔法まで付けてくれたみたい。

 マラルが後で少し調べたみたいなんだけど、結婚祝いで送ってもらう金額のものではなかったみたい。ただそういう手間を度外視して二人のために作ってくれたものなのでありがたく受け取っておきなさいと言われたらしい。

 本当にジェンに出会えてよかったわ。ジェンに出会えたおかげでいろいろな人と出会えたし、いろいろな経験をすることが出来た。そしてこんな私を親友と呼んで慕ってくれるなんてね。

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