253. 異世界2275日目 親友たちの結婚式へ

 調査や転移魔法の実験などで島を出るときにはすでに20日ほど経っていた。まあ生活環境も良かったし、いろいろとやることも多かったからなあ。

 一応確認できることはすべて終わったので、次にここに戻ってくるのはいつになるか分からないよな。もし転移がかなり気軽に使えるものなら拠点として使うことが出来るけど、手軽に使えないものだったらそうそう戻ってこれないからきっちりと封印しておいた方がいいだろう。換気はしているようなのでドアは閉めていた方が風化が進まないだろう。


 港の出入り口から外に出て、ここから飛翔魔法で沖へと向かう。海底の深さを確認したところで船を出してから乗り込んで出発。


「ねえ、折角だから少しくらい寄り道していきましょうよ。」


 ジェンが折角いろいろと設備の付いている船が手に入ったんだからどっかによっていこうと言ってきた。


「まあ、折角の船旅だし、この辺りだったら危ない魔獣もいないようだからそうするか。」


 特に観光地となっているような島はないが、一つだけ船の拠点となっている島があったので、そこの港を拠点に2泊ほどゆっくりすることにした。停泊にはもちろんお金はかかるが、魔獣の監視も付いているので他に泊まるよりは安全だ。

 夜はこの港に泊まり、昼間は船で近くの島巡りをした。もちろん魔獣がいる島もあったが、砂浜が綺麗なところもあってゆっくりするにはいいところだった。でも人がいないからと言って裸になるのはどうかと思う・・・。


 船の設備はさすがにお金をかけているだけあってかなり快適だった。どのような原理か分からないけど、船内は船の揺れにあまり連動しないようになっていたからね。しかも置いてある家具もかなり豪華なものだし。


 十分にリフレッシュしてからルイサレムに戻る。船を収納した後、ショウバンさんに挨拶をしてから出発する。




 一気に走ってサクラまで戻って来たんだが、町に入るのにも時間がかかるし、特に寄らなければならない用事も無いので今回は素通りでいいだろう。ただこのあたりに転移ポイントを作っていくことにしよう。


 さすがに町中に作るわけにはいかないので、サクラから少し離れたところにある岩山の上の方に転移ポイントを設置することにした。ここだったら木が生えてしまう可能性も低いだろうし、開発されるにしてもすぐというわけでもないだろう。この付近は魔獣もほとんどいないし、いても事前に備えていれば十分対応できるはずだ。


 転移ポイントを設定し、今回は山を越えてアーマトに向かうが、さすがに山越えの時は交代で見張りをした。いくら治安が良くなってきているとは言え、前に襲われたこともあるところだからね。今回は特に何事もなく山越えし、ルイサレムを出発してから25日ほどかかってアーマトに到着できた。


 まずはいつも泊まっている宿屋カイランに行くが、受付には知らない男性が立っていた。新しい人を雇ったのかな?


「いらっしゃいませ!あ、ジュンイチさんとジェニファーさんじゃないですか。お久しぶりです。」


「え・・・まさか、カイン・・・なのか?」


 確かに少し面影はあるけど、背は自分より高くなっているし、声も変わっているぞ。


「そうですよ~~。いやだなあ。忘れたんですか?」


「いや、最後に会ったときから変わりすぎだろ。分からなかったよ。」


「そうですか?たしかにここ最近一気に背が伸びたかもしれない。僕も来年にはもう成人しますからね。」


 初めて会ったときはまだまだ子供だったのに、もう15歳になるのか。まああれから6年も経つからおかしくはないよなあ。


「ジュンイチさんとジェニファーさんはほとんど変わりませんね。」


「家系的にそうみたいなんだよね。いずれ見た目が逆転してしまうかもなあ。」


 しばらくカインと話をした後、カイドルンとランミル夫妻にも挨拶をしてから外に出る。


「まさかカインがあんなに大きくなっているとは思わなかったなあ。ちょっとびっくり。」


「確かにそうね。でもそろそろ年をとらないことに違和感をもたれるようになってきたわね。まあ年をとりにくい種族の血が入っていると言うことでまだなんとかごまかせるけど、気をつけないといけないわね。」


 続いて役場に行くと、カイルさんが受付をしていた。


「あら~~、久しぶりね。元気にしてたのかしら~~?」


 カイルさんは相変わらずという感じだ。少し話した後、ここで待ち合わせをしていた風の翼やクラーエルのメンバーと合流する。


「みなさんお久しぶりです。」


「久しぶりだな。いろいろな国を回っていたと聞いたが、あとで聞かせてくれよな。今日はおまえ達のことを聞いて参加したいという二人がいるんだがいいか?」


 そう言われて陰から出てきたのはユータとカナだった。


「ユータとカナじゃないか。久しぶり。こっちに戻ってきていたのか?」


「久しぶり。ずっとトルイサでやっていたんだけどね。ちょっと気分を変えようと言うことでちょっといろいろと回っているところなんだ。途中でここに寄ったら二人のことを聞いたのでちょっと滞在期間を延ばしていたんだよ。あのときは本当にありがとう。譲ってもらった重量軽減バッグはほんとに助かったよ。」


「役に立ったのなら良かった。二人とも元気そうでなにより。」


 結局かなりの人数となったので食堂の個室をとってもらうことにした。店にはすでに奥さん達もやって来ていた。



 風の翼の3人はすでに結婚しており、奥さん達は冒険者ではないため今も3人で活動しているみたい。今も護衛の仕事などがあるので長期の遠征となったりすることもあるようだが、事前にそのことについては話していたので奥さん達も不満はないようだ。

 「時々離れていた方が新鮮さが無くならなくていいもんだぞ。」と言っているけど、本当はいつも一緒にいたいとこっそり漏らしていたらしいけどね。

 前は宿屋暮らしだったが、今はそれぞれ別々にアパートを借りて生活しているようだ。同じ建物らしいので、3人がいないときは奥さんだけで集まったりしているようだ。


 クラーエルの2人は冒険者は引退して奥さんのやっていた仕事を手伝っているようだが、まだ近くの上階位までの魔獣の狩りには行っているらしい。ちょっとした小遣い稼ぎにもなるからね。ただもう無茶はしないと決めているらしく、休みの日の気分転換というレベルのようだ。


 ユータとカナは上階位になったらしく、今は良階位に向けて実績ポイントをためているようだ。まだ護衛依頼は受けたことがなく、実績ポイントが入らないので結構大変らしい。自分たちはいろいろと運が良かったからなあ・・・。

 二人からは結婚祝いとしてタオルをもらった。こっちの風習でタオルを送ることは聞いていたのでありがたく受け取った。自分たちをイメージして刺繍を選んだらしく、鷹のような鳥のつがいが刺繍されていた。




 翌日は折角だからと役場の訓練場で手合わせしてみたが、自分たちの実力にかなり驚いていた。


「おいおい、もう優階位のレベルがあるんじゃないのか?実力は一気に追い抜かれてしまったなあ。」


「初めて会ったときは自分たちとほとんど変わらない実力だったのになあ。」


「これで魔法とかも使えるんだから正直かなわんな。」


 思ったよりも実力は上がっていたようだ。周りが強いと自分たちがどのくらい強くなったのかわかりにくいからねえ。


 結局いろいろな人と会ったせいでアーマトでは4泊もしていくことになってしまった。まあ自分が最初に住んだ町なので知り合いも多いからね。



~ユータSide~

 トルイサの町で活動をしてからすでに5年以上経っていた。今では上階位の魔獣を狩ることも出来るようになって収入も増えたし、カナの治癒魔法のレベルも上がってきたおかげで支出も抑えられて生活は大分楽になってきた。

 上階位に上がり、良階位を目指して実績を貯めているところだが、魔獣狩りだけだとなかなか実績がたまらなくてなかなか難しそうだ。ただ無茶をして高階位の魔獣を狙って怪我をしては意味が無いので慎重にやっていくしかない。


 無理をしないと言うことは両親からも強く言われたし、ジュンイチとジェニファーからも言われたことだ。

 冒険者仲間には強い魔獣に挑んでこそ冒険者だという人もいる。ただそう言っていた冒険者の多くは亡くなったり、大きな怪我を負ったりしているのを何度も見てきた。高階位の冒険者ほど慎重にやっていくべきだと言う人が多いように思う。

 無理をして怪我をしてしまっては結局無駄な時間を費やすだけだし、そのときは気分的にはいいかもしれないが、それは一時的な感情でしかない。


 トルイサの町は冒険者にはいい町なんだが、やはりいろいろと見聞を広げることも大事だろうと言うことで町を出ることにした。ある程度お金も貯まっているし、とりあえず季候の良い間に北の方まで足を伸ばすことにした。



 場所によって魔獣の種類も変わるし、個体の性質も若干異なっているので苦労することもあったが、いろいろな経験を積むことが出来た。行ったことのない土地でいろいろな話を聞き、多くの冒険者とも交流を持つことでいろいろと知識も増えていった。

 途中でアーマトに寄ったときに、クラーエルの二人からジュンイチとジェニファーがやってくるという話を聞いた。少し滞在していくらしいので折角だからとこの町での滞在期間を延ばして待つことにした。以前二人が結婚するという連絡はもらっていたのだが、お祝いには行けなかったのでこの機会にお祝いをしようと思ったからだ。

 しばらく滞在するというので両親も喜んでいたけど、「子供はまだか?」と言われてちょっと困ってしまったよ。



 久しぶりに二人を見ると、初めて会った頃と見た目がほとんど変わっていないことに驚いた。ただ装備などは以前よりもさらに良くなっているみたいで良階位になっていることを聞いて驚いた。

 挨拶をすると、当時と同じように話してくれた。良階位になると今までと態度が変わる人もいるが、彼らは出会ったときと同じ風に話をしてくれるのがうれしかった。


 このあと食事となり、いろいろな話を聞くことが出来た。結婚式にはクラーエルと風の翼のメンバーは行ったらしく、話を聞いて驚いた。この話は秘密にしてくれとは言われたけど、他で言っても信じてもらえないだろうな。

 二人の結婚祝いとして準備はしていたんだけど、渡すかどうか悩んでしまった。カナからは「二人だったらきっと喜んでくれるわよ。」といわれて用意していたタオルのセットを渡すことにした。


 冒険者はあまりかさばるものをもらっても困ることが多く、お祝いを贈る場合は通常はほしいものを聞いてから買うというのが一般的だ。ただそれが無理な場合はタオルなどを送ることが多い。もちろん実用的なものだが、ちょっとした刺繍の入ったタオルに二人の名前を入れて送るのだ。タオルの品質や刺繍によって値段がかなり違ってくるが、がんばってそこそこいい物を用意したつもりだった。

 二人に渡すと、すぐに箱を開けて見てくれた。それを見た二人はとても喜んでくれた。「だけどイメージがこの鳥なの?」と言っていたけどね。刺繍されている鳥は魔獣ではないが、魔獣を襲って捕らえることも出来る魔鷹に似た鳥で、強さの象徴でもある。


 このあと二人がナンホウ大陸やハクセンやアルモニアに行って訓練をした話を聞いた。サビオニアでは革命にも巻き込まれそうになったらしく大変だったみたい。いろいろと話をしているとすぐに時間が経ってしまい、お開きとなった。



 翌日に訓練場で手合わせしてもらったけど、まったく刃が立たなかった。同じ頃に冒険者になったのにここまで強くなれるんだと驚いた。風の翼のメンバーもかなわないくらいになっていたからね。これで魔法の方が得意というのだから驚きだ。しかも治癒魔法まで使えるのだからすごいことだ。

 そのあとも何回か会って魔法のことなどもいろいろと教えてもらったりして、数日後に二人を見送った。見送った後でカナがつぶやいた。


「あんな風な二人になれるといいわね。」


「ああ、夫婦としても、冒険者としても目標になるよね。」


 カナも思ったことは同じだったようだ。

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