57. 異世界248日目 目的地付近に行ってみる
朝食を早々に済ませてから1時前に港の事務所に到着すると、係の人がやってきて今日案内をしてくれるという人を紹介してくれる。
「ガバナンだ。今日はよろしくな。」
「初めまして、アースというパーティーのジュンイチ、彼女はジェニファーと言います。今日はよろしくお願いします。」
「丁寧な言葉はいいが、ちょっと調子が狂うな。」
このあとどの辺りに行くのかを地図で確認する。とりあえず候補となる領海を大雑把に回ってもらう予定だ。候補のエリアだけでも10以上の島がありそうなので結構時間がかかるかもしれない。
ほとんどの船がすでに漁に出ているのか停泊している船は少ない。あちこちに木の箱や網などが散乱しており、港の雰囲気は地球とあまり変わらない感じだなあ。少し歩いたところで「あの船だ!」と指さされる。
船はいかにも漁船という感じのもので、長さ15キヤルドくらいか?テレビで見た大間のマグロ漁船みたいな感じだ。普通のサイズの魔獣であればこれでも十分対応できるようだ。ただ外洋に出ると大型の魔獣が出るのでこのサイズだとひとたまりもないらしい。
行こうとしているエリアまで陸から距離はあるが、小さな島が点在しており、そこまで水深も深くないので大型の魔獣はまず出てこないらしい。まあ出会ったら運が悪いと諦めろと言われる。実際、この辺りでも年に数回は魔獣に襲われることがあるみたいだからね。
準備ができたところで出発して目的のエリアへと船を走らせる。この辺りには島が数百あるので正直普通に見ても島の位置が分からない。とりあえず書き取りした地図を頼りに行ってもらうしかないだろう。
ガイド本の地図を確認して位置を絞っていく。計算上だと緯度と経度で1違うと40mくらいずれるくらいだが、拠点となっていたことを考えると島はそこそこ大きいはずなので一つに絞れると思うんだがどうだろう。
地図に現在地が表示されればいいんだが、そこまでの機能はないので更新された地図と景色を見ながら判断していくしかない。まあ初めての場合は地図が更新されるのでわかるんだけどね。レベルが上がったら表示してくれるのかな?
しばらくして目的のエリアと思われる島の目星が付いたんだが、なんかすごい断崖絶壁なんだけど・・・。
島の周りを一周回ってもらうが、そこそこ大きいので他の島と言うことはなさそうだ。位置は島の中の方になるので少々ずれていたとしても同じ島になる。おそらくこの島で間違いなさそうだが、どこにも船を着ける場所がないのが問題だ。海賊のアジトとなっているのなら港がないといけないのにそんな場所は見つからない。どこか見えないところがあるんだろうか?
そのすぐ近くに少し小さめの島があり、こちらも周りを回ってもらうとこっちは船をつけられそうな場所もあった。島との距離は200mくらいなのでこっちに船を着けて向こうに移動していたとか言うことはあるのか?それでも小舟を着けるにもつらそうだしなあ。
ジェンと二人でどう判断するか悩んでいると、「飯の準備ができたぞ。とりあえず飯を食ってから考えろ。」と言われて食事にすることになった。
用意してくれたのはご飯に魚の切り身をだしに漬けたものをのせてお湯をかけて食べるといういかにも漁師飯という感じのものだった。用意してくれた食事をしていると、先ほど釣り上げたという魚を裁きだした。
「これは俺用のやつでな。ちょっと特殊な食べ方をするから見たくないなら向こうに行って食べるから言ってくれ。」
「特殊な食べ方?」
「いや、魚を生で食べるから、結構嫌がる客も多いんだ。」
「もしかして刺身?!それ自分にもください!!」
「・・・おまえ、魚を生で食べられるのか?」
「大丈夫です。なんだったら浄化魔法もかけられますよ。」
そういうとガバナンさんは喜んでいた。どうやらガバナンさん達漁師は生魚を食べる人が多いが、漁師以外ではなかなか理解してくれる人がいないようだ。そしてなんと醤油だけでなく、わさびらしきものを持っていた。
「もしかしてそれはわさび!?」
「わさび?その名前は知らんが、”ワルナ”というちょっと刺激のある調味料の一種だ。この町では売っているんだが、一般的にはあまり出回っていないんだ。」
魚を綺麗に捌いてお皿に盛り付けてくれた。
「それじゃあ、ちょっともらいますね。」
ワルナを少し刺身にのせて醤油をつけて食べてみる。うん、間違いなくわさびだ。こっちの町では普通に売っているのか。
「なんだ、前にも食べたことがあるのか?こだわって食べるやつと同じ食べ方をしているな。初めてでそんな食べ方をするやつはまずいないぞ。おれは醤油に溶いて食べる派だけどな。」
結局鯛のような魚とハマチのような魚をさばいてもらって刺身を堪能する。やっぱり取れたてだと鮮度が違うねえ。水魔法で血抜きをしたので血抜きも完璧だ。ガバナンさんもかなり喜んでいた。
地球にいた時は漁港付近の店の刺身とか買ってきて食べていたからなあ。港に戻ったらワルナは絶対買っておかないといけないな。
食事の後、もしずれていたことを考えて他のエリアにも船を走らせてもらってから港に戻るとすでに5時前になっていた。目的と思われる島までは大体1時間くらいかな?
ジェンといろいろと話したんだが、地図をベースに考えるとやはりあの断崖の島になるのであの島に渡ってみることになった。明日は一日島に渡る準備をするとして、明後日に船を出してもらえるか確認してみると、日程は大丈夫みたいだった。
費用を確認すると、1往復で2000ドールと言われるが、相場も分からないので納得するしかない。まあ船の燃料費とかを考えても結構かかってしまうだろうしね。
まずは島に渡って15日後に迎えに来てもらうことにして、もしそれで待ち合わせ場所に来ていなかったらさらに5日おきにきてもらう形で対応してもらうことにした。このため前払いで10000ドール渡しておくが、15日で戻ってきた場合は8000ドール返金と言うことにした。もしそれでも戻ってこない場合、ついでの時でもいいので確認してほしいとお願いしておく。
ちなみに島の魔獣はどのくらいの強さなのか聞いてみると、魔素の強弱と島の環境によって変わるらしい。魔獣も生き物なので、生活環境が整っていなければ死んでしまう。このため特に水場がない島だと魔獣は少ないようだ。
環境が整った場所になると魔獣の中で淘汰が行われるため、徐々に魔獣が強くなっていくらしい。ただ飛行タイプの魔獣にやられることもあるし、他の島に移動することもあるので、絶対ではないようだ。
冒険者の中には船を所有して島や海の魔獣をメインに狩っている人たちもいるし、また年に1回程度であるが、強力な魔獣が育っていないかの調査が行われ、強力な魔獣がいる場合は冒険者に討伐依頼が出るようだ。
ただ完璧な調査でもないので強い魔獣がいることもあるらしいので気をつけるように言われる。
そこそこ強い魔獣がいるが、自然淘汰される島には死んでしまった魔獣の魔獣石が結構落ちているらしいので、定期的に魔獣石の回収をしてまわる人たちもいるらしい。
夕食は町に戻って食べようと思っていたんだが、昼に刺身を食べたことが伝わったのか、「最高の刺身を食べさせてやるぜ!!」と漁師達が集まってきて宴会となった。
マグロみたいなものやブリみたいなものの刺身やいろいろな魚料理が堪能できてかなり満足できた。せっかくなので鰹っぽいもののたたきや鯛の湯引きなども作ってみるとかなり好評だった。ポン酢みたいなものもあったのでちょうどよかったよ。さすがにあまり遅いとまずいので7時には撤収したけどね。ごちそうさまでした。
~ガバナンSide~
今日は最近時々ある冒険者からの依頼で島巡りをすることになった。どうも海賊の宝を探す依頼が出ているらしく、その調査を行うらしい。一回目の費用は依頼者が出してくれるというので依頼を受けた奴らは一度は依頼をしてくる。
1日の費用は5000ドールほどかかるんだが、冒険者の奴らは高いと値切ってくるので面倒だ。こっちとしては船の燃料費の他、漁をしない分の保証を考えてのギリギリの値段なんだが、そこがわかっていない。
このため今では漁業組合に値段の交渉を丸投げしている。俺たちが値段交渉をすると足下を見られるのでかなり助かっている。それでも直接値切ってくる奴らもいるが、そんなのは無視だ。
今回の依頼者はえらく若い男女だった。ジュンイチとジェニファーと言ってえらく丁寧な言葉でちょっと調子が狂ってしまう。年上に敬意を払うのは当たり前だと言ってるんだが、大体の奴らはこっちが雇っているんだと上から目線だからな。
途中でお昼となったので食べられるならと準備をしてやると喜んでいた。俺の飯用に途中で釣った魚を捌いているとえらく興味を持ってきた。生魚というと「さしみ!!」といってかなり食いついてくる。しかもワルナのことまで知っていた。名前は違っていたがな。
食べさせてくれと言うのでやるとえらく通な食べ方をして驚いた。ワルナを引き立てるにはこの食べ方が一番いいという奴らがやっている食べ方だ。
このあとなぜみんな生魚を食べないんだと言うことで話が盛り上がってしまった。刺身の食べ方で生だけでなく色々と説明してきた。火で表面だけあぶって食べる方法とか、皮の方だけ湯通しして食べる方法とか俺たちも知らない方法を色々と知っているのには驚いた。
港に戻ってから事務へ打ち合わせに行ったので、その間に漁師仲間のところに行った。この依頼があったときにだいたい依頼者の悪口で盛り上がるんだが、今回はかなりのあたりだったと話をすると興味を引いたみたいだった。
せっかくなので二人を夕食に招待すると喜んでやってきた。さらに昼に話した調理方法について実演をやってもらったところ、かなり美味しくて驚いた。食べ方にこだわっている奴らはちょっと悔しがっていたのが面白かった。
かなり気の荒い連中なので大丈夫か気になったんだが、二人ともかなり打ち解けて楽しそうにしていたのでよかった。さすがに宿まで時間がかかるので7時頃には戻っていったが、他の奴らも「若いけどえらく気のいい二人だったな。」と喜んでいた。
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