58. 異世界249日目 島に渡る準備

 やはり船で一日移動していると思ったよりも疲れがたまってしまうようで、かなりぐっすり眠っていた。まあ昨日の宴会でお酒も飲まされたのも大きいかもしれないけどね。ちょっと遅めに起きてから島に渡る準備に取りかかる。



 今回は期間も長くなるため、土魔法で拠点を作るつもりなのでテントは持っていかない。他にも着替えなど必要分以外はまとめて有料の荷物預かりにお願いしておくことにした。荷物が多い場合は部屋を借りている方がいいけど、リュック一個分くらいなら荷物預かりの方が断然お得だ。一日200ドールだしね。

 予定の日数を過ぎると処分される(売り払われるらしい)ので、とりあえず60日分を先払いしておく。これも日数が短ければ返却してくれるので問題はない。


 魔法はあるのでなくてもいいんだが、いざというときのためにライトやロープなど必要なものをそろえていく。寝るのは寝袋なんだが、下に敷くマットも購入してみた。軽い素材なので容積は大きいが、おそらく収納バッグの占有率は低いはずだ。あとは魔獣よけの魔道具なども買っておかないといけない。




 いろいろ揃っているカサス商会で買い物をしていたらステファーさんに見つかってしまい、そのまま店長室に連れて行かれてしまう。


「何かいいものでもできてないかい?」


 なんか期待に満ちた目で見られてしまうが、まだ試作段階のものしかない。「まだ試作品なのですが・・・」と断りを入れてから今検討している魔符核について説明する。


「今の段階で売り物になりそうなものは重量軽減の魔符核くらいです。まだ魔素供給の接続まではしていませんが、従来よりも消費魔素も少なくて軽減率も上がると思います。」


 ステファーさんも付与魔法についてはある程度知識があるようで、刻印を見ている。


「これが聞いていた発動に使っている文字なんだね。見たことがない文字だけど、これで効果が出るのかね?」


「はい、この内容で重量を軽くすることができます。ただ補助の術式をどうすればいいのか悩んでいるところです。とりあえず補助の術式を入れていないものを渡しますので検討してくれませんか?」


「何枚わたしてくれるんだい?」


「とりあえず10枚しかありません。100ヤルドのサイズの中心に自分のできる範囲で刻印していますので、本体を小さくするなり、補助の術式を刻むなりしてみてください。ちなみにそのままでもある程度の軽減機能はあります。」


「これだけでも効果が出るのかい!?これだけでも十分な感じでもあるね。」


 かなり驚いているが、今のもののレベルがわからないからねえ。


「効果をどこまで求めるかで変わってくると思うんですよ。魔素を使ってもいいから軽くしたいという人と魔素をできるだけ使わずにある程度効果を出したいということになると、どう補助の刻印を入れればいいのかわからなくて・・・。」


「わかった。これはこちらで試させてもらうが、お金は後払いでいいのかい?」


「元手も人件費以外はそれほどかかっていませんので大丈夫です。ただ使えるものとなったとしてもそんなにいっぱいは納められないかもしれませんのでその点はご考慮願います。」



 話を終わってお店を出るが、購入しようとしたものは「サービスだよ。」と言ってタダにしてもらえたのはありがたかった。


 これが売れるようなら時間があるときに作っておけば固定収入を得られるようになるんだが、どうなるかなあ・・・。「重力CUT」とか日本語と英語のミックスだからおそらくこっちの世界の人には複製できないだろうからね。

 これを作るには言語を知るだけでなく、重力という概念が必要なのでこの世界の人には簡単ではないだろうなあ。発動の術式だけを自分がやる感じでいけばなんとかなるかな?



 続いていったお店はトイレや浴槽などを専門に扱っているお店である。今回拠点を作るに当たって問題となるのがトイレだった。

 今までは日帰りが基本だったので狩りの間は薬を使うことで問題なかったし、野営の場合は簡易トイレを設置して対応していた。同じ場所に拠点を決めた場合、トイレを移動させるのが難しいという問題が出るのである。そこで話になったのはちゃんとしたトイレを購入すると言うことだ。


 一般的に普及しているトイレは普通でいう水洗トイレなんだが、魔道具を使ったトイレもあるのだ。これだと便器部分で分解処理をしてくれるため、臭いの問題も排泄物の問題もほとんど解決するらしい。


 お店に入って説明を聞くと、トイレ本体に魔道具が組み込まれており、排泄後に浄化魔法と治癒魔法と水魔法と土魔法で便器の消毒、排泄物の分解を行うようになっているらしい。水分はすべて蒸発してしまうようだ。このため野外でも少し穴を掘っておけばかなりの期間使うことができるらしい。

 基本的に自分たちがやっている浄化魔法の様な感じだが、こっちの人は浄化魔法での洗い流しと、治癒魔法での殺菌、土魔法と水魔法での分解、乾燥のイメージで魔道具を作っているみたいだ。正直自分たちだと余計な考えが邪魔して作れない魔道具なのかもしれないなあ。


 問題は価格なんだが、付与している機能で値段も変わるが、安いものでも10万ドールという額なのである。でもトイレは重要なものなので、自分もだけど、特にジェンは絶対にほしいと言っている。


 携帯用のものもあるので、大きさ、機能などを考えて、結局18万ドールのものを購入することにした。使用する魔素は1回辺り20ドールくらいとなっているが、その辺りはしょうがないかな。一応1000ドールの魔獣石までがセットできるようになっている。


 便器に関しては宿に運んでもらうように手配しておいた。さすがに収納バッグで持って帰るのはちょっとまずそうだしね。

 買うことが決まってジェンはかなり嬉しそうにしていた。まあ女性は特に気になるだろうね。



 続いて食料なんだが、こういうときは収納バッグの存在がありがたい。食べ物はできあがったものを20日分持って行くことにしたが、現地で調達できるかもしれないので、調味料関係は少し多めにもっていくことにする。もちろんワルナも忘れないで購入しておく。

 できたての熱いまま保存できれば一番いいんだけど、そればかりはしょうがないな。電子レンジみたいなものが作れればまだいいんだけどねえ。


 島には一定おきに迎えにきてもらうので、もし調査に時間がかかりそうならいったん戻ってしまえばいいので飢え死にすることはいだろう。まあ水は魔法で入手できるのでそれだけでもかなり楽だ。



 一通りの準備を整えてから収納バッグに荷物を入れていくと、大体のものは十分収納できた。残りの容量を確認してみたところ、残りの容量は10%くらいとなっていた。結構ギリギリだけど、まあ入ったからよしとするか。


 このあと夕食を食べて今日は早めに寝ることにした。明日からはどこまでちゃんと寝られるかわからないからね。




~ステファーSide~

 お店でジュンイチとジェニファーという二人を見つけたので部屋に来てもらって話を聞いてみた。ちゃんと距離感を持って接するようにと言われてはいるが、まあこのくらいなら大丈夫だろう。


 なにかいいものでもないかと話してみたところ、魔符核を出してきた。発動の術式のみ刻まれたもので、まだ刻印のレベルは低いんだが、問題は書かれている文字だ。これまでいろいろな魔符核を見てきたが、見たことのない文字だった。

 驚いたのはこれだけでも重量の軽減効果があるということだ。今の重量軽減の魔符核は効果増強の補助の術式を組み込んでやっと軽減の効果として認められるレベルなのにこれだけで軽減効果があるというのは驚きである。



 二人を見送った後、早速試してみて驚いた。当たり前だ。発動の術式だけで20%ちかくの重量削減の機能があるなんて普通は考えられない。いま流通している魔道具は効果増強の術式を入れて20%の軽減しかできない。それも1日で魔素を100以上使うのが前提だ。


 おそらく付与の術式なしで小さくすれば同レベルの効果で魔獣石の消費は10以下になるし、同じサイズにしたら重量軽減の機能が大幅に上げられるだろう。おそらくだが50%くらいは削減できるかもしれない。


 付与魔法は習い始めたばかりと聞いていたし、できばえを見てもまだ経験があまりないことがわかる。もっと経験を積んでいけばさらに効果が期待できると言うことだ。


 コーラン坊が認めるわけだ。


 この文字と効果についてはもっと知りたいところだけど、そこまで欲張るのは危険だろうね。あとこのことはできるだけ秘密にしておかないと、へたに情報が漏れると強硬手段に出てくる輩もいそうだ。本人達もまだどのくらいのものなのか分かっていないようだから、次に来たときには釘を刺しておいたほうが良さそうだね。


 とりあえず試作品は研究所に送ることにしよう。コーラン坊にも連絡しておかないとね。

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