3. 異世界1日目 異世界へやってきた

 一瞬まぶしさを感じて目を閉じたんだが、目を開けるとまた違う世界が広がっていた。


 目に飛び込んできたのは緑の葉の茂った木々だった。木々が多いのでまさか森の中かと思ったが、森にしては木々の間隔も広いし、その向こうに建物も見えるので公園みたいなところなのかもしれない。地面は芝生のようなものが植わっていて、その上に転移されたという感じだ。とりあえず森の中に転送されていきなり何かに襲われると言うことはなさそうでほっとする。

 気温はちょっと寒いと感じるくらいで、基本的な気候が違うかもしれないし、季節があるのか分からないが、日本の感覚で言うと春か秋くらいの感じだ。広葉樹っぽい葉の状態からすると春なのかな?世界が違うと言っても全く異世界という雰囲気ではないのでちょっと安心だ。

 呼吸をした感じも違和感がないし、ちょっとしゃべった感じでもおかしなところはなさそうだ。空気の組成はあまり変わらないと考えていいのかもしれない。



 木々の間を抜けると石畳の歩道のようなところがあり、散歩している人たちの姿も見えるので、とりあえず見える範囲では平和そうだ。治安とかが悪ければこんなにのんびりはしていないだろう。公園のようなところがあると言うことは文明としてもある程度成熟していると考えていいかもしれない。


 せっかくの異世界といっても分からないことだらけだからまずは慎重に行動しないといけないよね。よく分からなくて動き回ってトラブルに巻き込まれるとかしたくないし。とりあえず近くにあったベンチのようなところに座って今の状況を確認してみる。



 服は木綿か何かで作られものみたいなので着心地にあまり違和感はない。装備を兼ねているのか、厚手のシャツも上に着ている。下着も現地の物になっているんだが、これにはゴムのようなものも使われているのでそれほど大きな違和感は見当たらない。下着はトランクスが普通なのかな?ブリーフがあるのか分からないけど。


 腰の革のようなベルトには短剣が下がっているが、銃刀法違反とかはないよね?あとは厚手の布で作られたようなリュックの中に着替えやコンタクト関係(洗浄液の入れ物は現地のものに変わっている感じ)と眼鏡ケース、携帯食らしき食べ物、水筒、巾着のような財布の中にお金が少々。細かいところは宿とかとって部屋で見た方がいいだろう。さすがにすべての荷物をここで広げるわけにもいかない。

 とりあえず眼鏡がこの世界で一般的なのか分からないのでコンタクトに変えておく。とりあえずは2週間用が10枚あるので十分だろう。洗浄液も十分あるので大丈夫だと思いたい。


 お金・・・は、なんなんだろう?財布に入っているのでこれがお金だと思うんだが・・・。赤い500円硬貨くらいのものなんだが、何も描かれていない。5万ドールと言っていたからこれが50枚あるので1枚が1000ドールってことか?区別はどうやってするんだろうか?


 それと身分証明のようなプラスチックのようなカードが一枚。名前とかが書かれているので何かの時にはこれを見せればいいのかな?


 あとは事前に聞いていた手帳サイズのガイド本で、最初のページには残りの滞在時間が記載されている。頭から年、日、時間、分、秒かな?もとの世界の時間で記載されているので、こっちの時間とずれがあるのか確認しやすいな。とりあえずざっくりと読んでみよう。ちなみに書かれているのは日本語だ。


 ガイド本は本人しか読むことができないらしく、他の人には差し障りのない内容が書かれているただの本という認識になるようだ。本はかなり薄いんだが、中のページは見た目以上のページとなっている不思議仕様だ。タブレットでページをめくるような感じと言った方がいいかもしれない。

 正直これの原理については説明しようがないな。異世界に転移させられたときのためにササミさんがいたあの世界で作られたものなのだろう。こればかりは正直理解することは不可能だ。



 地図の項を見るといくつかの手法で書かれた世界地図のようなものと国名が記載されていた。世界地図の形状から考えると平たい大地があるのではなく、地球と同じような感じみたい。

 ただこれがここでどのように認識されているかはまだ分からない。天動説や地動説もよく分からないし、場合によっては異端者扱いされる可能性もある。はっきりとわかるまではこの話題はしない方がいいだろう。


 天体の名前はライハンドリアとなっている。大陸はイメージで言うと、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸という感じだ。

 自分がいるのはそのうちのユーラシア大陸にあたるホクサイ大陸の中国のあたりにあたるヤーマンという国だ。現在いるのはこの国の首都であるサクラではないが、首都の南西にある大きな町のアーマトというところのようだ。


 各大陸に大小複数の国が存在しており、過去に統一されたことはないようだ。統治機構は国王を中心とした君主制や支配者層の議会制、市民を含めて民主制など国によっていろいろあるようだが、君主制の国の方が多い感じだ。戦争に対する備えもあると思うが、魔獣に対抗するためにどこの国もそれなりの兵力を有しているようだ。


 ヤーマン国は国王がいるが、国王が治めている地域を含めて5つの州に分かれており、国王が絶対権力を持っているわけではなく、5つの領主のリーダーという立ち位置のようである。それぞれの領地でさらに細分化されてそれぞれ行政官が管理をしているようだ。

 支配者層との身分差はそれほど大きくないらしいのでまだ大丈夫かもしれない。正直貴族とかいたらどのような態度をとればいいのか分からないよ。不敬罪とかで死刑になったらしゃれにならない。

 このあたりは簡単な概略しか書いていないのでこれ以上はわからないが、10日間だったらそこまで意識することはないだろう。



 食べ物についてみてみると、米やパンや麺類もあり、食にこだわっているようなことも書かれているので食事については心配なさそうである。異世界もの小説で食べ物が美味しくないというのは定番だが、その心配はなさそうだ。これについてはお店に行って確認した方がいいかな。



 あとは科学的な機器ではないが、魔法で動く機器があってそれで代用されているみたい。乗り物に関しても魔法の乗り物が出回っているようだが、列車や飛行機などの大量輸送向けは魔獣のせいでほとんど普及していないようだ。とりあえず異世界ものでよくある中世ヨーロッパが舞台の馬車という感じではないようだな。

 確かに説明されたように文明のレベルはもとの世界とあまり差がないような気もする。大量輸送向けの規模のものがないだけで飛行機のように空を飛ぶための魔道具もあるみたいだしね。



 魔法について読んでみると、世界には魔素と言われるものが漂っており、この魔素が魔法の基本となるらしい。

 また魔獣と言われる生き物はある程度の時間がたつと魔素が固まり生まれてくるらしい。なんかゲームのポップアップみたいだな。一度形になった魔獣は同族と子供を作ることもできるようなので、最初の生まれ方は違うけど動物と同じような感じだな。魔素が濃ければ濃いほど強い魔獣が生まれるようだ。

 その魔獣を倒すと得られる魔素の固まった魔獣石がお金に使っている硬貨である。・・・って、お金って作っていなくて魔獣が落としたものを使っているの?

 この魔獣石を持っているものが魔獣と言われる生き物で、魔獣ではない普通の動物もいるらしい。ただ大体が魔獣の餌になってしまうようだが・・・。魔獣石を持っている生き物はどちらかというと好戦的なようである。



 魔獣の討伐に関しての統制を行っているところがあるみたいなのでとりあえず情報を収集してから見てみるのもありかもしれない。まあ今あるお金だけで10日間は生活できそうだけど、せっかくだから異世界らしいことも味わってみたいからね。一番はやっぱり魔法か?



 能力についての記載を見ると、ゲームのようなレベルという概念はないようだ。レベルを上げて身体能力を上げると言うことはできないため、普通に訓練とか勉強で能力を高めていくしかないようである。

 武器や魔法などの扱いに慣れたり、知識を得たりするとスキルを取得することができ、さらに複数のスキルを伸ばしていくことでそのスキルにあったクラスといわれる職業が与えられるようだ。クラスがもらえるとそのクラスにあった身体能力に補正がかかるみたいだ。身体能力の上昇は自分で普通に鍛える他はこのクラスの取得くらいのようだ。


 所詮10日しかいない世界なのであまり詳しく知ってもしょうがないからまあこんなものか。そこまで危険はなさそうだし、まずは町の中を散策してみるかな?



~備考~

 あくまで現地の言葉の表記を日本語に読み替えているという前提ですので、単語の意味はジュンイチの主観での翻訳と言うことで理解してください。日本語と同じく、同じものでも複数の書き方で記載されているものもありますが、下のように表記は統一しています。

 鍛冶製作所、武器防具屋、装備販売所 → 鍛冶屋

 集合宿泊所、宿屋、宿泊施設、ホテル → 宿屋

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