2. プロローグ-2 異世界案内人
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。自分が住んでいる世界では考えられない世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。どうすればいいのか混乱したが、10日間で元の世界に戻ることができると言われたのでその間だけでも今までと違う世界を味わうことにした。しかし、10日間経っても戻ることができなかった・・・。
この世界に来て特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。この世界で生きるために魔獣を狩り、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファーだ。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
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春のクラスマッチが終わり、まもなく期末考査が始まるために勉強を頑張っていた6月末。お昼休みにお弁当を食べた後、教室で少し休憩していると、突然周りの音がなくなり、視界もなくなってしまった。
「え?なに、これ?」
視界がなくなったのではなく真っ白の霧の中にいるような感じだ。地面はあるのかどうかもよく分からないが、浮遊感があるわけでもない。ただ地面にたっている感じでもない変な感じ。
夢なのか?夕べも結構遅くまで起きていたので寝てしまったのかな?夢にしては・・・ほっぺをつねると痛いような気もする。でも前に夢の中でほっぺをつねって痛かったと認識したが夢だったこともあるので夢かどうかも分からない。
ただこれって最近ネットで読んでいる異世界召喚とかのイメージだよね。勇者召喚?勇者になって魔王を倒せとかやめてよね。奴隷にされて死ぬまで戦わされたりしたらいやだぞ。
しかし、この状態だと何もできないな。
「どうすればいいんだ?」と思っていると突然世界が変わってなにやら見たことのあるような景色になった。
「え?なんだここは?市役所?銀行?」
カウンターがあり、カウンターの奥で机に座って仕事をしている人がいるが、カウンターのこちら側に人の姿はない。こちら側にはソファーやテーブルがいくつか並んでいる。
「ひっ!!」
カウンターの奥をみて息が止まりそうになった。なんだこれ・・・。いろんな人種というか、人間?という様な人(?)もいる。動物というか、宇宙人というか、ほんとにいろいろな感じだ。何なんだここ?なんか声を上げると襲われてしまいそうな感じがして必死に声を抑える。
「他に人間はいないよな・・・?」と思っていると少し離れたところに女の人が現れた。ほんとに突然姿が現れた感じだ。ただ金髪で肌の色も白いし、顔の作りから言っても日本人ではなさそうだけど、人間だ。彼女は周り見回して困惑している感じだ。
とりあえず彼女に声をかけてみようと動き出すと、別の方から声が聞こえてきた。
「うわっ!!」
驚いてこけそうになってしまった。
「はじめまして、私は異次元課のササミと申します。」
「はじめまして、私は異次元課のスイサイと申します。」
声をかけてきたのはスーツのようなものを着た男性と女性が一人ずつだ。どうやら自分と彼女に声をかけてきたようだ。二人とも自分よりは年上の20代くらいで、男性は黒髪の短髪、女性も黒髪のロングなんだが、西洋人っぽい顔立ちをしている。とりあえずこっちも人間の姿だ。
彼女の方もこの言葉を聞いて振り返っていたんだが、なにやらよく分からない言葉をしゃべっている。英語?英語だよな?英語なんてよく分からないので何を言っているのか分からない。
「あの~~、よろしいですか?」
再びササミと名乗った男性が声をかけてきた。「とりあえず、こちらの席にどうぞ」とカウンターの近くにあるボックス席になった椅子を勧めてきたので言われたとおり席に着く。
彼女の方はスイサイと言っていた女性が少し離れた席に誘導していった。スイサイさんのしゃべっている言葉は日本語に聞こえるんだが、彼女がしゃべっているのは英語っぽい。これで会話が成立しているのか?自動翻訳機能でもあるのか?
最近ネット小説で異世界ものの話を読んでいたせいか、思ったよりも驚きは少ない。問題は自分が死んでしまったのか、もとの世界に戻れるか、異世界の場合はどのようなところなのか、能力はどうなのかとかだな。
よくあるのは能力などうまく選ばないと大変なことになってしまう。まあその選択権があるかも重要だけどね。あまり無茶言って何ももらえなくなっても困る。さらに変な召喚で奴隷のように使い潰されても困るもんなあ。
とりあえず召喚されたら周りの状況を見て対応を考えよう。いろいろなパターンの勇者召喚ものを読んで来た今こそ、その知識を役立てるときだ。
いろいろなことを考えていると、彼が話し出した。
「驚いているかと思いますが、まずは状況を説明します。
改めて自己紹介をしますと、私は異次元課に所属しているササミと申しまして、別の世界から別の世界に渡ってしまった人たちを案内する役割を担っています。申し訳ありませんが、あまり動揺しないように少し感情をコントロールさせてもらっています。」
なるほど。それで思ったよりも落ち着いているのか。あまりにも突飛なことが起きたのに冷静だったからなあ。
「まず、現在の状況ですが、あなたは今、別の世界の入口にやってきています。別の世界というのはパラレルワールドというか、あなた方のいる世界とは異なる進化を遂げた世界となります。
別の世界に行くことは確定しており、現在はその移動の途中と言うことですので一定時間が経過した後はその別の世界へと移されます。残念ながらここからもとの世界に戻ることはできません。
またここで何かしようとしても意味はありません。私たちに触れることはできませんし、何かあれば先ほどの何もない世界に戻されてそのあと予定の世界に移動することになります。できるだけ時間内に聞けるだけの情報を得た方がいいと思います。」
「やっぱり戻れないの?」
「最初に言っておきますが、あなたは死んだわけではありませんので生まれ変わるわけではありません。そしてここからは戻れないというだけで、最終的にはもとの世界には戻れます。ただ一度あっちの世界に行ってもらわないと、というか、行かざるを得ないのが大前提なのです。
そのあとこちらで行う送還の手続きが終了しましたらもとの世界へと戻ることができますが、それまでの一定期間をあちらの世界で過ごしてもらわなければならないのです。」
「戻れるのか・・・。ちなみにその期間は?」
「あなた方の世界の時間で言うと10日間となります。10日経過しましたらもとの世界へ強制送還されます。もとの世界に戻るとあちらの世界に関する記憶はほぼ消去されます。」
「10日間って、その間もとの世界では行方不明になってしまうってこと?」
「いえいえ、戻るのはもといた場所、もといた時間となります。服装も体の健康状態もそのときの状態で戻りますので、もとの世界では何もなかったようになります。」
「けがとか死んでしまった場合はどうなるの?死んでしまったらそこで強制送還とか?」
「生きてさえいれば、たとえ怪我をしていたり、瀕死状態になっていたりしていても、すべてが治って戻されますので、とにかく死なないようにしてください。」
「でも全く知らない土地で、普通の高校生が10日間も生き抜くのは大変だと思うんだけど・・・。」
とりあえず最低限の能力などもらわないといけないからな。
「まず、向こうの世界では16歳で成人扱いとなりますので17歳になるあなたは大人として扱われます。ただし、今回あなたの行く世界はもとの世界と大きく異なりますので生活に必要な能力や物資などはお渡しします。よほど無茶なことをしなければ大丈夫だと思います。」
「大きく異なる世界って?」
「今から行く世界はあなた方で言う剣と魔法の世界のようなところです。文明レベルとしてはあなたの世界とそこまで変わらない感じだと思いますが、科学の進歩ではなく魔法の進歩が主となっていますので根本的な世界の理論は異なります。ですが10日間の滞在であればそこまで違和感を覚えないのではないかと思いますよ。」
「剣と魔法ってことはモンスターとかまでいるの?あと、戦争とかの争いは?」
「魔獣と言われるモンスターはいますが、町中にいればまず襲われることはないと思います。町の外には魔獣がいる場合もありますので注意が必要ですが、町の付近にはそれほど強い魔獣がいるわけではありません。
戦争についても今は大きな戦争は起きていませんし、移動する国では戦争は行っていません。細かなことはあとでガイド本を渡しますのでそこで確認してください。」
「生活に必要な能力や物資っていうのは?」
「とりあえず話せないとどうしようもありませんので、今から行く国の言葉と文章は分かるように現地のヤーマン語とその世界の共通語であるライハンドリア公用語は読み書きできるようにしておきます。あとは必要なお金と簡単な装備関係、現地での身分証明などです。
10日間とはいえ、あなたの体の時間とあなたの世界の時間にずれが出ては困りますので、あなたの体の成長は向こうに行っている間、停止します。また向こうの世界で遺伝子を残されても困りますので、子孫を作る能力は止めさせていただきます。
剣と魔法の世界と言っていましたが、これらの特殊な能力スキルを与えることはできません。期間が短いですが、頑張れば最弱クラスの魔法などは習得できると思います。詳細はお渡しするガイド本や現地で確認してください。」
「能力がついたらそれがもとの世界でも発揮されるの?」
「手に入れたレベルの魔法の威力はさすがにほぼ無理ですが、筋力や向こうの世界に関わる記憶以外の知識については維持されます。例えばあなたは目が悪いようですので目を良くする治癒魔法で目を良くすることもできます。
また勉強した記憶などは残りますが、どこまで残るのかは正直私にも分かりかねます。大体が夢ということで片付けられているようです。」
記憶はなくなるってことはせっかくの異世界旅行もその場限りでの楽しみと言うことになるのか。まあ少しは残るかもしれないので死にかけたらトラウマとかになってしまいそうだなあ。
「もらえるお金や装備って?」
「金額は10日間生活するには十分の金額となります。ちなみに現地の金額単位はドール。普通は1日千ドールあれば宿に泊まって食事をしても十分な金額となります。今回お渡しする金額は全部で5万ドールとなりますので存分に異世界を楽しむことができると思います。
装備についてはさすがにその学生服というわけにもいきませんので、現地の服と短剣などの簡単な装備、リュックに着替えや薬関係などをお渡しします。」
「他になにか特別なスキルはもらえないの?」
「申し訳ありません。この能力は私が授けるわけはありませんし、先に言いましたもの以外はお渡しすることができません。もし文句を言われても時間が来たら強制的に移動しますので・・・。」
「なんか何度もあったような感じだけど過去にも同じような人はいたの?さっきいた彼女とか?」
「はい、あなたの世界からと限定されなければそれなりの人数がここにやってこられます。今回行く予定の世界へも他の世界から転移されていますし、あなたの世界にも同じように他の世界から転移された人がいます。今回は同じ世界から同じ世界に同時に2人も移動するのでかなり珍しい例となります。」
結構頻繁に起きていることなのか?まあパラレルワールドの数が半端なく多かったら年間1名としてもすごい数にはなるな。宇宙全体を考えたらしゃれにならないだろうな。担当部署とかがあるのかねえ?
「ちなみに10日間とはいえ、他の世界の知識はかなり有用な場合があり、時の権力者に捕まっていろいろと知識を搾り取られることがありますのであまりおおっぴらにしない方がよいかもしれません。
あなたの世界でもあるときにそれまでとは違う突飛的なものが世の中に出たりすることがあったと思いますが、それは別の世界の方が関係しているかもしれませんよ。
もちろんあなたと見た目の異なる知的生命体の場合もありますが、一般的にはそのような人の存在は詳細には知られてないでしょう?どういうことかは考えたらわかると思います。」
「こわ・・・・。あ、今から行く世界の人の姿は同じ?」
「若干異なる姿の人もいますが、今から行くところはあなたとほぼ同じ姿となりますので大丈夫です。よかったですね。美的感覚などは地域によって異なるのでなんともいえません。」
よかった。いきなり宇宙人みたいな人ばかりの世界に飛ばされたらしゃれにならないしね。
「ちなみに転移した人はちゃんともとの世界に戻っているの?」
「飛ばされた先の状況にもよりますが、やはり現地でなくなる方もいらっしゃいます。統計学的には20%程度がもとの世界に戻れていません。ある程度行き先はこちらで調整することができますので、できるだけ安全なエリアに誘導しています。人間だけでなく動物なども転移されますのでそれぞれに安全と思われるエリアとなります。
人もいない世界や人が生きていけない環境の世界、知的生命体の見た目が全く異なる世界と言うこともありますので、その場合はやはり危険なエリアに転移することもあります。とても生きていけない環境に行く場合の説明はかなり気が重いです。
どういう原理か分かっていないのですが、ある程度近い生命体や環境に送られることの方が多いですけどね。
また環境的には問題なくても無理をしてなくなる方もいらっしゃいます。ちなみに亡くなられた場合は、もとの世界では行方不明者という形で処理されることになります。死体を送るわけにもいきませんので・・・。」
まあ、見た目が全く異なる世界では10日間でも生き抜くのはつらいだろうし、俺つえーとかやって玉砕するパターンとかありそうだしね。今回はまだラッキーなのか?
「今回の手続きの処理が終わりましたら10日後にもとの世界へ転送されます。リュックに入っているガイド本の表紙にあなたの世界の基準で残り時間が表示されますので参考にしてください。」
異世界ものの小説など読んでいたからまだ話が分かりやすかったけど、いきなりこの話があっても頭が追いつかなくて転移される人もいそうだな。10日で戻れるのなら観光気分で楽しめばいいか。記憶はなくなるみたいだけど。
「あ、そういえば一緒にやってきていた女性は一緒の場所に転移されるんですか?」
「いえ、同じ国ではありますが、転移されるのは別の町となります。会うことはできるかもしれませんが、それはお任せします。ほんとは教えるのはいけないことなんですが、場所と名前は・・・。」
他にも時間ぎりぎりまで聞ける内容を聞いておいた。ここでの時間はカウントに入らないようだし、情報はできるだけあった方がいい。
そしてついに転移の時間になった。
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