4. 異世界1日目 まずは現状を把握しよう
やはり転移されたのは公園のようなところだったみたいで、公園の横に道路があり、建物が連なっていた。道路は石を加工されたような感じでかなりきれいに整備されている。アスファルトやコンクリートではなさそうだが、滑りにくくなっているのでかなり歩きやすい。
特に注目を集めているわけではないようなので、この格好や自分の見た目はそんなに変わっているようには思われていないのだろう。
車(?)も走っているが、魔法で動いているのか、かなり静かだ。エンジン音と言うよりタイヤの音の方がうるさい感じ。なので止まっているときはほとんど音がしない。
ガソリンとかで動いているわけではないみたいなので魔道具と言われるものがエンジンの代わりなのかもしれないね。そのせいか、空気はかなり綺麗な感じだ。
道路は歩道が車道の両脇に分かれているのではなく、車道と歩道のレーンが隣り合ってある感じだ。車道と歩道で地面の色が違うのでわかりやすい。車は大きな道しか走ってはいけないみたいで、そのほかは人が歩くためだけの道路のようだ。
車の大きさも結構いろいろあるんだが、形は現代の車と言うよりはクラシックな車というか馬車と言った方がいいかもしれない。トラックみたいな形のものもあるんだけどね。バスのようなものも走っているので、町の中の移動はこれを使うのかもしれない。
ただ、車は時々見かけるくらいで走っている絶対数はかなり低い。値段が高いのか、生産が厳しいのかどちらかだろう。車が少ないせいもあり、町の中の車は一方通行が基本みたいなので車道は1台の車の幅しかなかった。
歩いている人は髪や肌の色などバラバラで黒髪、金髪、白髪が多いが、赤や緑などもいる。肌の色はどちらかというと白人っぽいか?黄色人種のような人もいるが、黒人のような人はいない。肌の色はもとの世界と大きな差はなさそうだ。青とか緑とかはいないからね。
どのような人が美人というのかよくわからないが、自分の感覚からして美形率が高いというわけではないようだ。顔の作りは南方系のような感じの人が多いかな?でも結構いろいろと混じっている感じだ。
ファンタジーの定番ようなエルフやドワーフ、獣人などは見当たらない。この町にいないのか、この世界にいないのかは分からない。ササミさんに聞いても教えてくれなかったし、ガイド本にもそのあたりのことは触れられていなかった。ただ“ほぼ同じ姿”と言っていたから若干違う姿の人もいると言うことだと思われる。
このあたりは住居エリアなのか洗濯物が干してあったりする建物がほとんどだ。建物は2~5階建てになっており、石造りが基本らしい。一軒家という感じの建物はないのはエリアが違うからかな?このあたりは集合住宅ばかりだ。
しばらく歩くと商店がちらほらと見えてきた。武器などを売っているお店が普通にあるのがファンタジーっぽいな。お店には看板が掲げられており、書かれている文字も読むことができる。自動翻訳というわけではなく、別の文字で書かれていることが理解できるという具合だ。夜にならないとわからないが、ネオンとかはないんだろうな。それとも魔法で光ったりしているんだろうか?
このあたりは3階建ての石造りの建物が基本なのか、道路に沿って同じような高さの建物が連なっている。ヨーロッパの町並みという感じだな。建物の1階は商店になっているところが多く、2階以上は住居のようだ。宿の看板も出ていたので、とりあえず見た目よさそうな感じの宿り木という宿に入ってみることにした。
最近の宿泊はネット予約ばかりだが、父が若い頃はよく宿に飛び込みで行ったらしい。飛び込みの場合は部屋が開いていれば食事なしならなんとかしてくれたものだと話していたなあ。
建物に入ると少し広めのロビーになっており、正面に受付はあるが、人はいない。まあ昼間だしね。観葉植物なども置いており、落ち着いた雰囲気のところだ。ここだけ見たら異世界とは思えないだろう。カウンターに置いてあった呼び鈴を押すと残念ながらケモミミとかではなく、普通の男性が出てきた。
「すみません、今日泊まりたいのですが、部屋は開いていますか?」
「はい、大丈夫ですよ。シングルの部屋でいいですか?」
「はい、それでお願いします。」
「一泊550ドールですが、朝夕の食事をつけると割引が入って600ドールとなります。ただこの場合は食事のメニューは決まったものになります。基本的にスープとサラダ、メインが1皿となります。ボリューム的には十分だと思いますよ。自由に頼みたい場合は食堂で直接注文していただければ対応できます。ただ、この場合の割引はありません。」
建物の状態も悪くなさそうだし、掃除も行き届いている感じ。宿の人の対応も悪くないようなのでとりあえずはここに決めてから散策するか?
「2食付きでお願いします。」
治安についてもよくわかっていないから、ぎりぎりになって宿がないというのは勘弁してほしいからね。日本の田舎とか安全なところだったら何とでもなるが、不安があるならまずは宿を取るのが最優先とよく言われたからな。
「それではこちらに名前の記入をお願いします。あと身分証明証の確認をさせていただきますので提示をお願いします。」
渡されたのはマジックのようなものだった。ボールペンや鉛筆とかはこの世界にはあるのかねえ?宿帳に名前を記載してから身分証明証を渡す。文字は普通に書けるし、日本語でもないことは認識できるのでやはり言語補正で翻訳しているわけではなさそうだ。
こっちの文字はローマ字のような感じで、子音と母音を組み合わせた表記で英語と同じく左から右に横書きされるのが普通みたい。わざわざヤーマン語となっているので国によって言葉や文字は変わってくると思う。漢字のようなものもあるのかな?
「はい、問題ありません。まだ職業がないようですが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、職業ですね。ずっと田舎の方にいてこの町に来てから職に就こうかと思っていたんです。」
「ああ、そうだったんですね。この町だったらいい職が見つかると思いますよ。」
とりあえずは職がなくても大丈夫みたいだ。
「支払いは先払いとなりますが、現金でしょうか?カードでしょうか?」
カードもあるのか?まあ10日間だったら特に気にしなくてもいいだろう。
「現金でお願いします。」
そういって1000ドール硬貨を渡すとおつりに赤黒い少し小さめの硬貨を4枚もらう。
ガイド本の説明にあったように硬貨は10単位で上の硬貨に切り替わっているようなので、この赤黒い硬貨が100ドール硬貨なんだろう。やっぱり数字とか書いていないから硬貨は直接見てみないと比較できないなあ。
国が違っても使っている硬貨は同じみたいだからその点は便利だね。宿が食事付きで600ドールということは感じ的には100ドール=1000円というイメージでいいかもしれない。まあ他のものを買ってみないとわからないけど、ざっくりでもお金の感覚をつかんでおかないといけないのでとりあえずはそう考えておこう。考えやすいしね。
基準を考えるときは前にコ○コーラの値段を基準にすればいいとか聞いたことがあるなあ。水だと国によって違うからだけど、こっちでは何を基準にすればいいのだろう。とりあえず食事とかをしていけばなんとなくわかってくれると思う。
「部屋には入れるのは5時以降となりますので、そのときに部屋の鍵を渡します。その時間からシャワーを使うことができますので自由に使ってください。時間は8時までですが、15分以内に済ませるようにお願いします。
あと夕食は6時から提供が可能となりますが、7時半までに注文をしてください。それまでに注文されない場合はキャンセルとなりますが、食事代の返却はできませんのでご了承ください。
明日の朝は1時半までに鍵の返却をお願いします。もし連泊する場合は朝の1時までに連絡をしてください。予約が入っていなければ大丈夫ですが、できるだけ早めに言ってもらった方がよいです。連泊の場合は部屋に荷物を置いていってもらってかまいません。よろしくお願いします。」
部屋に入れるのは5時かららしいが、おそらく夕方くらいだろう。ロビーに置いている時計はいま4時くらいなので適当に町中をうろついてみることにしよう。
時計はもとの世界と同じような感じで、版には数字で1から12までの文字が書かれている。数字はアラビア数字のようなものだ。
短針と長針があるので原理としては差がなさそうだが、ガイド本によると平均的な朝日の時間が0時で1日が12時間らしいので慣れるまでわかりにくいかもしれない。とりあえず朝の6時くらいが0時で国によって基準の0時が違うようだけど、今はそのあたりは気にしないでいいだろう。あとは時間軸が同じかどうかだな。1日が24時間前後だったらいいけど、大分ずれていたら大変だよなあ・・・。
町の簡単な地図はないのか聞いてみたが、宿には置いていないようだ。簡単なものなら役場で、細かいものなら本屋で売っているらしいが、今日くらいは適当にうろついてみるか。
まずは近くにあった鍛冶屋をのぞいていてみると、いろいろと心くすぐるものが置いていた。剣や杖や槍や弓、鎧のようなものから盾や兜と博物館のようなところでしか見ないようなものが所狭しと並んでいる。
お店にはレジカウンターのようなところがあり、ここで精算をするのだろう。店員はいるんだが、特にこちらに話しかけている雰囲気はないのでゆっくり見ることができて助かる。
値段は1000ドールからあるが、高いものはきりがなさそうだ。魔獣狩りをするのなら何か買わないといけないだろうね。お店の人にざっくりで値段を聞いてみると、初心者レベルで一通りそろえるなら2万ドール、最低でも1万ドールくらいは必要だと言われる。やっぱり高いねえ。
続いていったのはスーパーのような食料店だ。お店の形態はもとの世界とあまり変わらなくて、商品をかごに入れていき、精算する感じだ。もちろんバーコードのようなものはないみたいで値段表が貼り付けられている。
野菜や加工品が売られているが、肉については取り扱いが別なのかここでは売られていない。野菜や果物は見たようなものもあるし、見たこともないようなものもある。味までは分からないが、甘いとか酸っぱいとか○○料理に最適など広告のようなものが書かれているのでなんとなくイメージはできる。
食品の種類も多く、入れ物も紙や袋やガラス瓶やプラスチック(?)のような入れ物に入っている。袋とかはもとの世界とはちょっと質感が違うんだが、どうやって作っているのか不明だ。魔法を使うのかな?
ただこういうところまでこれらの容器が使われていると言うことはそこまで希少なものではないと言うことだろう。
香辛料などの調味料も結構豊富みたいで、塩や砂糖や胡椒みたいなものからマヨネーズやトマトケチャップみたいなものもある。さらに味噌のようなものから醤油やソース関係もいろいろそろっている。調味料がここまで豊富にそろえられていることからも料理は期待できるかな?
値段を見ても日本よりはちょっと高い印象だけど、それでもそれほど高いというわけではないので流通や生産は結構盛んだと思われる。胡椒が黄金と同じ値段とかいう時代ではないみたいだな。
保存食としていろいろな缶詰や瓶詰め、パスタなどの麺類などもある。量は少ないが米みたいなものも売られているし、いろいろな粉ものも売られている。これだけ食材が発展していると言うことは食事についてはやはり問題ないと言うことだろう。まあ食事に関しては知識チートできないと言うことなんだけどね。
すぐ近くに肉屋もあったので少しのぞいてみると、奥の方でなにやら解体作業も行っていた。魔獣(?)の名前と買い取り価格も書かれているので、肉はここで買い取りするのだろうか?
肉の種類がかなりいっぱい書かれているが、商品自体はほとんど並んでいない。買うときは肉の名前を言って出してもらう感じのようだ。
続いて寄ったのは魔道具屋だが、普通でいう電化製品のお店みたいな感じである。エアコンや扇風機、冷蔵庫など普通の電化製品と同じような機能のものが売られている。
車関係もここで取り扱っているみたいでいくつかの車が展示されていた。ある意味電気自動車のような感じなのか?車は注文生産のようで、注文後の納期などが書かれている。全体的に値段はやはり高めでなので普及率は低いかもしれない。1台100万ドール以上なんだもんなあ。
テレビなどはなさそうだったが、電話の機能のようなものは売られていた。小型のものもあるので携帯電話のような感じかな?
まあ便利さをもとめて自動でできる物を開発すればどれも似通ってくるものだろう。ただこの世界では魔法があるのでモーターなどもなくてかなり作りは簡単な感じだ。もちろん魔法を付与するための術式がいるんだろうけどね。
しかし魔法の世界と言っても摩擦や重力とか自然現象はあるので、魔法があるから科学は進歩しないというのも違和感があるんだよなあ。
普通になぜ?と思うことがあれば証明しようとする人も出てきそうだし、火とかも普通に使っているし、発酵などの化学変化なども普通に起きていると思うから科学的な発展はあってもいいと思うんだけどね。まあ、科学知識がなくても使えるし、経験だけでもうまくいくんだけどね。
猫型ロボットの魔法の話の映画でも「科学って迷信を信じているの?」ってくだりは違和感があったんだよなあ。
火魔法が使えれば水の中でも火が出るのか試してみたいところだなあ。他にも魔法で何かを生み出す場合にどういう風になっているのか気になるところだ。
せっかくなので教会にも寄っていくことにした。さすがに看板は出ていなかったんだが、大きな扉が開いていて自由に中に入っていいみたいだったのでのぞいてみると神様らしき像があったので教会と分かった。まあ他の建物とは形が違っているし、このエリアでは目地らしく独立した建物だったからね。
教会は家族でいった旅行の時にちょっと寄ったくらいなのでどのくらいの大きさが普通なのか分からないが、あまり大きいという印象ではない。
他にも中に入っている人がいたので自分も同じように中に進む。正面に神様らしき像が奉られていた。教会の人がいたので話を聞いてみる。
「ここはどういう神様を祀っているのでしょうか?」
「ここの教会は神の5柱すべてを祀っています。おのおのの分野でそれぞれ担当は分けられていますが、やはり5神がそろってこそ全体の調和がとれていると考えています。もちろん1神のみを信仰することも悪いことでは無いと思っていますが、それは各人の考え方ですので否定するつもりはありません。」
「そうなんですね。田舎で人もあまりいないところだったせいで、神様についての教えをあまり聞いたことがなかったので少しだけでも教えていただくことはできますか?」
「そうなのですね。簡単にですがお話ししましょう。」
自分たちの世界と違って実際に神様が現れることもあり、この世界に神は5柱しかいないことも宣言されているため、世界にはこの5神を奉る教会しかない。主神という感じの神様はいなくて、一柱一柱がそれぞれの分野を導いてくれるようだ。
悪いことをしたからと言って天罰が下ると言うことはほとんどないらしいが、ゼロではないというのが怖いところだな。実際に天罰を受けてなくなったという人もいるらしいが、どこまで本当なのかは謎である。普通に雷に打たれたとしても天罰と言われることがあるだろうからね。
ちなみにその分野に貢献があった場合にはそれぞれの神様からの祝福をもらうことがあり、能力に補正がかかるらしい。祝福には耐性効果やその分野の成長速度を速める効果があるようだ。
「ありがとうございました。」
今回の転移の時に説明してきたササミさんはやはり神様ではないのだろうな。神様の上位の人にしては権限がないとかいっていたし、各世界の管理事務所のスタッフという感じか?どういうくくりなのかは分からないが、異世界というものがあるのなら、そういう存在があってもおかしくないのか?
まあこの世界では神様もいることだし、ガイド本という訳の分からないものもあるくらいだし、正直なところ理解の範疇を超えているよ。
一通りの説明を聞いてから教会を後にする。結構いろいろと歩き回ったせいでもう6時過ぎになっていたので宿に戻ることにした。
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