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 筺体の調整を行っていたグラムは、自分の行動が独断に当たるのは百も承知だった。


 しかし、SNS上ではギムレーの発表した調整案に対して批判が多いのも事実。それに加えて、楽曲に関しても追加が決定したが――。


【これでは他社ゲームと同じラインナップになるのでは?】


【超有名アイドルの楽曲がないのは、唯一の救いだろう。あまりプレイされずに削除されるのが目に見えている】


【楽曲使用料だけ支払って、無駄に終わるのは分かっているのか? おそらく、あのラインナップは運営が決めたのだろう】


【明らかにニューリズムゲームプロジェクトの需要が理解できていない】


【あのプロジェクトはオリジナル楽曲で成り立っている――と言っても過言ではないだろう】


 SNS上では、今回の楽曲は他社のゲームで収録されている楽曲を便乗収録しようというのが見え見えだった。


 それをグラムにも見破られ、今回の独断行動を許したと言っても過言ではない。当然、黒騎士ギムレーも反対意見は出したのだろう。


 しかし、それが通る事はなかった。向こうは利益を上げないとサービス終了という決断をしないといけないのである。


 本当にあの楽曲ラインナップを通すべきなのか? オリジナル楽曲に加え、様々な要素もあってのオケアノス最上階エリアの使用許可だったのではないのか?


 あの最上階エリアは、大手ゲームメーカーでも作品によっては使用する事が出来ない。様々な基準をクリアしなければ、最上階エリアは使えないのだ。


 オケアノスの例のエリアをゲームテストで使えるのは、ある種の話題にもなる。それだけでトレンドワード上位に並ぶ作品があったほど。


 トレンドには入っても『ヴァーチャルレインボーファンタジー』ではあのエリアは使えなかった。あの作品は商業作品由来ではなかった、と言うのも理由の一つだが。


「最上階エリア、あのエリアでロケテストは出来ないが――ゲーム開発やテストは可能だ」


「あのエリアを使用出来るのは、一種のステータスと言ってもいい」


「しかし、運営側のゴリ押しもあって、取り下げ危機になっている噂がSNS上で浮上している」


「ゴリ押し? 独断専行の間違いでは?」


「それこそ、まとめサイト勢力の陰謀でしょう」


「まとめサイトの管理及び制裁はガーディアンの仕事。我々の出る幕ではない」


「他のガーディアンがや他社のスパイに気付かれると、これは危険な案件でしょう」


 四階にあるメーカーの会議室エリア、そこではギムレーの処遇を含めた対策会議が行われていた。


 しかし、会議と言っても司会進行以外は会議室にはいない。いわゆる別の支部等からのリモートで会議に参加していると言ってもいいだろう。


「噂では、ゲーム会社のスタッフを題材にした夢小説も拡散しているとか?」


「それこそフェイクニュースに惑わされている。実際は歌い手や実況者の部分を差し替えただけの、低レベルなフェイク――」


「ああいう低レベルのニュースにまどわされれば、それこそコンテンツの質は落ちる。まとめサイトの規制こそが、行うべき行動――」


「それこそゲームメーカーが行う様な事ではない。アキバガーディアン等に任せればいいだろう」


 会議の方は徐々にヒートアップしていき、遂には草加市所属とは違うガーディアンまでワードとして飛び出す始末だ。


 その状況で、一人の人物が会議として成立しないとして、リモートを切ったのだが――。



「まさか、アキバガーディアンまでワードが出てくるとは」


 会議室ではなく、オケアノスの四階にある別会社の一室から会議を見ていた人物、それは何と――あいね=シルフィードだった。


 あいねは一種のバーチャルアバターであり、実体がない。事実上、この一室はあいね以外には誰もいないのだ。


『他社の会議をのぞくなんて、ある意味で悪趣味ね』


 この人物の隣と言うか、隣に置かれたノートパソコン経由でこの人物の話を聞いているのはビスマルクだった。


 あいねは、あくまでもアーシック・レコードとして会議を見学していたのだが――途中でリモートを切って退席したのである。


 アーシックの正体を現段階で知るのは――もしかすると、読者しかいないだろう。


「逆に言えば、悪趣味ではあるが――動向を知るにはこれしかないと言える」


『まるで、神の視点だな。今のあいねは』


 ビスマルクの若干皮肉混じりな発言に対し、乾いた笑いなどでスルーせず、真剣な表情で受け止める。


「まとめサイト等が今回の元凶ではなかった以上、敵は別にいる」


『敵? まさか、アルストロメリアのような――』


「そこまではいかない。彼女はイレギュラーだったから」


『イレギュラー?』


「ヴァーチャルレインボーファンタジーの事件は、まとめサイト勢力の仕業になっているけど、全ては蒼流の騎士の暴走による物」


『蒼流の騎士も、確かまとめサイトの一人って――』


「それも本当はカバーストーリーだったら?」


 やり取りをしていく内に、あいねから飛びだした発言は――ある意味でもビスマルクの言葉が詰まる程の物だった。


 あの事件さえも一種のカバーストーリーで偽装されていたとしたら? それこそ、信じられるソースが存在しないとしたら――。

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