8-4
ゲームの筺体前に到着したハットリ・シズは、ふと何か思った。あまり混雑している様な様子はなく、一時期の閑散としていた時期を連想する。
(一体、何の為に?)
ここまで閑散としていると、むしろメンテ中と言う可能性もあった。リズムゲームと言えば、機種によってはボタンが効かなくなる事も稀にある。
しかし、ハンドコンピュータの構造を踏まえると、簡単に原因が特定できそうなメンテではないと思う。
センターモニターがどうなっているか確認すると――確かにメンテ中とは表示されていた。
【ただいま4番台はメンテナンス中です】
メンテをしているのは、端に設置されている4番台だったのである。メンテの理由は不明だが、そこまで大がかりなメンテを行っている様子がない。
中でメンテをしているスタッフはハンドコンピュータではなく、周囲のモニター類をチェックしてからである。
(なるほど――そう言う事か)
モニター類のメンテを行っていた人物、それは私服姿のグラムだった。彼は元々この作品のスタッフなので、直接出向いての調整と言う事になる。
ハンドコンピュータは、部品類を分解して修理する訳にもいかないので、新しいハンドコンピュータに取り換えればいい。
しかし、それが出来ないのはモニターである。モニターの構造は、ARゲームのモニターと同じシステムだが――。
(困ったな。ギムレーの一件もあって、下手にシステムを変更すれば――)
グラムもギムレーがバージョンアップ告知をした一件は知っている。これが原因で炎上した事も――。
炎上させたのは一部のまとめサイトやガーディアンが摘発したバズり目的のユーザー、それが大半なのは間違いない。
一方で、炎上関与はしていないが一部プレイヤーが操作関係も修正すると言う事に対し、不満を持っているのは知っていた。
(それでもプレイヤー視線で見れば、あのシステムでは分かりづらいと感じるプレイヤーはいるはず)
モニターの挙動を見て、グラムは思う部分もあるのだが――それをギムレーに伝えて調整してもらえるのかは定かではない。
向こうもメーカーの指示でゲームを開発していた事もあり、ああいう炎上案件に巻き込まれたと言えるのだが。
他の台はと言うと、空席状態になっていた。プレイ不能であれば、メンテナンスのメッセージ表示で予約などは出来ない。
それでもギャラリーが閑散としているのと、メンテナンスが関係しているのではないか――とシズは思う。
しかし、周囲を見てもそう言う印象はない。待機列は背後に設置されているゲームの方だ。
(特に問題がないのであれば――)
コイン投入は普通にできる為、シズはプレイをする事にしたが――4番台は選択できない様子。
特に番号にこだわりはない為、2番台でプレイする事にした。そして、モニターが調整されているのをプレイ前に知ったのである。
(あのスタッフが調整をしているのか。それにしても光の加減などが変化しているようにも――)
他のプレイヤーがどう思うかは不明だが、微妙にモニターの光の加減が調整されているように見える。
こうしたオプション設定は筺体で設定する部類であり、プレイヤーが手を出せない。
中には店員に報告すれば対応してくれるだろうが、してもらえるかどうかは店員による所が多いだろう。
「それにしても、あの人物は一体――?」
しばらくすると、4番台からグラムが出てきた。時間にして10分弱と言う具合か?
もしくは、あの台だけ細かく調整していた可能性もある。2番台には人の手が入ったような気配がなかったからだ。
グラムが独自にオケアノスで筺体の調整を行っていた事は、黒騎士ギムレーの方にも耳に入っていた。
しかし、彼の方はデスクワークが忙しいという理由で動けないのが現状だったのである。
SNS上ではSFのヒーローを思わせるアバターで姿を見せた彼の正体、それは普通のスタッフの一人だったと言うオチが付いた。
「向こうも動いている以上、下手に騒ぎを広げては欲しくはないのだが――」
ノートパソコンに表示されているのは、他社の新作ゲームの映像である。ジャンルとしてはパルクールアクションと言うべきだろうか。しかし、ゲーセン等での稼働予定はないと発表されていた。
一体、どういった分野で発表をするのか――その全貌は見えてこない。突発的なゲリラロケテを行っている可能性もあるし、もしくはアプリでの配信開始と言う事もあるだろう。
「だが、こちらの発表したアップデートを変更すると言うのは――」
メーカー側の意見を元にアップデート内容を発表したのに、まさかの批判の嵐にはギムレーも驚きはした。
それでも一部の炎上勢力等が煽りを主導していたとしてガーディアンが摘発したはず。それなのに、グラムは独断でアップデート内容を修正していたのである。何故、そのような行動を取ったのか?
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