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 SNS炎上勢力を実際にせん滅したのは何処なのか――それはどうでもいい。我々に必要なのは、イースポーツとしてのリズムゲームの可能性を示す事だ。それを実現させる為のプロジェクトだから。


 きっかけはグラムともう一人のスタッフである黒騎士ギムレーが、SNS炎上勢力を名指しで批判した事――とされている。


「様々な勢力が自分の正体を探ろうとして、返り討ちにあう。炎上勢力にとっては因果応報だったか」


 様々まとめサイト――ではなく、WEB小説サイトに掲載されたある作品を見ていたのはビスマルクである。


 そこに書かれていた作品は、明らかに今回の事を詳しく書いているようにも見えた。つまり、以前のアレと同じと言える。


「この小説サイトの内容を、今回は再現しているのか?」


 しかし、再現と言うには何かが違う気配がした。今回の小説は明らかにゲームも架空機種、登場人物も微妙に異なる。


 さすがに実在人物を題材にしたら、それは二次創作と判定されてWEB小説サイトでは削除されるだろう。


 その為に、意図して架空名称の小説にした――のかもしれない。作者名には覚えがないので、全くの新人作者の作品が利用されたのか?


「どちらにしても、この小説を炎上させようとしているのかー―」


 ビスマルクは様々な疑問を持ちつつも、まずはニューリズムゲームプロジェクトのある『オケアノス』へと向かう事になった。


 過去にオケアノスへは行った事があるので、迷子にはならないと思うが――他のARゲームのロケテスト状況等も調べる事にする。



 プロデューサーの草加市での仕事も最終日となっていた。スマホのカレンダーは八月十日を表示している。


 彼がやってきたのは例によってオケアノスだ。いつも通りにニューリズムゲームプロジェクトの一角に到着し、ギャラリーの様子を見ている。


 この日はスコアトライアルイベントが開催されているようで、プレイヤーの待ち時間もセンターモニターでは三十分を表示していた。


「翌日以降は別のプロデューサーを派遣すると言うが――」


 特に有名人やプロゲーマーがいない事を確認し、立ち去ろうとも考えたプロデューサーだが、モニターではあるプレイヤーの動画が流れていた。


 いわゆるピックアップ枠で動画が流れているようだが、その動画は雪華せつかツバキのプレイ動画である。


 ツバキのプレイスタイルはディフェンスタイプで、最初の内は予想外のプレイで反響があった。


 最近では数少ないディフェンスタイプを使用するプロゲーマー候補として、SNS上でも有名になっている。


 初心者ならではの想定外なプレイスタイルが特徴だったが――今では、ツバキ自身が高レベルプレイヤーなので、想定外と言えるプレイは少なくなった。


(本当に彼女はプロゲーマーの実力がある人物なのか?)


 プロデューサーは疑問に思う。自分が知るようなリズムゲームでは、ああいうプレイをするプレイヤーは少ない。


 それを踏まえても――何故にこのゲームではツバキのようなプレイが拡散しやすいのか?



 SNS上のサイトを監視していたアーシック・レコード。アーシックと接触したまとめサイト管理人も自滅した。


 原因は分かりやすい一方で、以前に現れた上級まとめサイト管理人を名乗っている様な勢力とはレベルが違う。


 まとめサイトや炎上勢力の民度も下がっていると言うべきだろうか――。こうした炎上ノウハウが廃絶されるのは喜ばしい話だ。


 SNS炎上を核攻撃と同等――そう言及した事もあるアーシックにとっては。別の意味でも手ごたえがなさすぎる。


『私の正体を見せるのも、時間の問題か――』


 天狗のマスコットを思わせる外見がCGノイズのように消えたと同時に姿を見せたのは、魔法少女と思わせる外見の女性だった。


 彼女のいた場所は、いわゆるサーバールームなので周囲に一切の人はいない。正体を見せたとしても、ここでは――。


「後はゲーマー達に任せるべきか、それとも――」


 メガネをかけた魔法少女、その正体とは過去に『ヴァーチャルレインボーファンタジー』でアバターとして姿を見せた人物である。


 彼女の視線は別サイトに表示されていた動画のプレイヤー、その一人に視線が注がれていた。


(ハットリ・シズ――)


 その時に流れているプレイ動画はハットリ・シズの物だった。シズの外見を見ると、どうしてもある人物と被るような気配が――しないでもない。


 これより先は自分達よりも新しい人物が作りだしていくべき、そうとも考えていた。


(しかし、この流れはどうしても何かを引き出そうと――)


 シズをはじめとしたプロゲーマーではなく、ある人物を表に引きずり出す為だけに今回の事件が起きた可能性も考えた。


 まとめサイトがあっさりとせん滅した事も――その一つと考えられる。まるで、打ち切り迫る漫画等で超展開が起こるよう流れだ。


「まさか、彼女を――舞風を引きずり出そうと?」


 彼女が懸念したのは、舞風まいかぜを再び表舞台に出そうと言う計画だったのである。


 本当にそうなのかどうかは別にしても、ここにきて前事件の人物を表舞台に出す必要性があるのか?


 全てが決着をしていない以上、新しい舞台で決着を付けるつもりなのか?


(一体、彼女に何を?)


 あいね=シルフィード、それがアーシック・レコードの正体である。彼女は舞風とも何度か話も聞いた事もある為、無関係ではないがある程度は知っていた。

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