6-5

 ユキムラが向かっていたのは、オケアノスの屋内エリア――ニューリズムゲームプロジェクトが設置されている場所だ。


 丁度、フウマが向かおうとしていたのが偶然にもそこだった、と言うのもあるかもしれないが。


(アレが噂の――)


 歩いて数分程度、そこに設置されていたのはリズムゲームの筺体とは思えないような形状の機種だった。


 初見でリズムゲームと分かる人は少ないだろう。それ位に様々なゲーム筺体を見比べていないと、ジャンルを判別するのは難しい。


 体育館の広さ位のフィールドには、アバターが表示されており、そのアバターがコースを回っているようにも見える。


 一見すると、レースゲームにも見えなくないが――ジャンル分けとしてはリズムゲームなのだ。


(アバターがコースを走るようなリズムゲームは実際にあるし、それをARゲームのシステムで運用している――と言う事かな)


 ユキムラはデモ映像を確認しなくても、実際にアバターが走る様子を見て何となく把握していた。


 様々なリズムゲームを見てきた彼女には、他のプレイヤーよりは理解度が早いと言う事かもしれない。



 中央のセンターモニターを注視するユキムラだったが、特に待機プレイヤーがいる訳でもないのは分かった。


 実際、画面にも【現在、待機中のプレイヤーはいません】と表示されており、現在プレイ中の二名だけ――なのだろう。


(問題がないようであれば――)


 空席となっているのは、三番と四番の筺体である。それを確認したユキムラは三番の筺体へと向かった。そして、筺体の内部を見て驚いたのは言うまでもなく――。


(なるほど。これは確かに普通のリズムゲームとは比較できないか)


 ハンドコンピュータは他のゲームで言うコントローラ等に該当するだろう。どちらの腕に取り付けるかは個人の自由だが、取りつけないとゲームを進める事は出来ない。


 タブレットのように持ち歩くような状態でプレイは不可、と言う事だろう。万が一、落としてしまっては弁償だけではすまない。


 一歩間違えれば出入り禁止と言われるし、SNS上では炎上不可避――さすがに、そこまでリズムゲームの民度が低い訳ではないと思うが。


(タイプ? どれでも問題はないのかな――)


 ユキムラはチュートリアルを飛ばしていたので、アーマーのタイプと言われてもピンとこない。


 それに、彼女はある程度の文章は読み飛ばしており、直感でディフェンスタイプを選ぶ事になった。


 一番選ばれていないと言う事も選択する理由の一つかもしれないが――理由は特にないだろう。



 一通りプレイが終わったユキムラは、一時的に筺体を離れる。その頃には、他のプレイヤーも予約を始めていたからだ。既に二人待ちの表示がモニターに出ている。


(あのプレイヤーの名前って――?)


 センターモニターでは、現在プレイ中のプレイヤーのスコア等も表示されており、その中には有名プロゲーマーの名前も出ていた。


 しかし、彼女が気になった名前は雪華せつかツバキである。彼女にとって、プロゲーマーよりもツバキの方が重要なのか?


(なるほどね。あのプレイヤーが――)


 SNS上でディフェンスタイプを使って、高度なテクニックを披露しているプレイヤーがいる話があった。


 まとめサイト等では、どう考えてもフェイクが混ぜてあったりする事が多く、信用出来るソースを探すほうが苦労するだろう。


 実際に足を運んで事実だと分かった彼女は、ツバキのプレイを終わるまで観戦していた。



 ツバキのプレイ終了後、次の瞬間には一気に三人のプレイヤーが筺体から出てきた。


 このゲームは対戦格闘のように負けるとゲーム終了なのだろうか? 実際は既定プレイ回数が終わった為なのだが――。


(空席になったから、今ならば大丈夫かな)


 ユキムラは他のプレイヤーが出てきたばかりの三番筺体へと向かう。そして、プレイの準備を終えた際に――ある表示がバイザーに出ていた事にユキムラは気付かなかった。


【マッチングが成立しました】


 このメッセージにユキムラは若干動揺するが、その一方でツバキは何時も通りで息を吸って呼吸を整える。


 選んだ楽曲はお互いにレベル3で難しいレベルではない。その一方で、ユキムラの方は何かを見落としていた。

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