6-4

(やはり、重視されるのはメーカーの資本力か)


 オケアノスに設置されている機種を見定める男性、彼はどちらかと言うとスタッフではない。


 どちらかと言うと一般客と変わりがないのだ。唯一の違いは、背広が嫌いな部類――と言える位に服はカジュアルすぎる所か。


「所詮は大手企業が関与している以上、そうなるか」


 彼のつぶやきは、どちらかと言うとまとめサイト等に向けられているような物ではない。


 だからと言って目の前にあるゲーム機のラインナップに対し、文句を言っている様なニュアンスもないだろう。


 発言力もない彼は、ゲーマーではあるがプロの領域ではないし、草加市などで知られている顔でもなかった。


 両目がオッドアイという特徴もあるようだが――コスプレイヤーやVRアバターもいるような草加市では珍しい特徴ではない。


(それに、オケアノスのラインナップも特定メーカーに依存はしていない。大手で固まっているように見えるが――)


 彼はどちらかと言うと、まとめサイト勢力等とは違う意味で裏事情に詳しかった。

このようなラインナップになっているのには、七月に起きた『ヴァーチャルレインボーファンタジー』が理由だからである。


(あの人物、まさか――?)


 プロデューサーが遠目で男性を見ているのだが、ストーカーと言う訳でもない。あくまで、気になっているレベルだ。


 オケアノス内に入っているメーカーであれば、見覚えはあるだろう。しかし、彼を数日中に遭遇した覚えがないのである。


(どちらにしても、気のせいか)


 彼が見ているゲーム機がニューリズムゲームプロジェクトと言う事もあり、それに関係した人物とも考えた。


 ロケテスト後の筺体をチェックするメーカーも存在し、正式サービス後もアフターサービスとしてスタッフが出向く事はある。


(なるほど。他メーカーも偵察に来ているのか)


 彼はプロデューサーが遠くにいる事を把握していた。スマホ等の位置特定ツールなどを使っている訳ではない。


 いわゆる勘が鋭いと言う部類なのだろう。プロデューサー以外にも複数メーカーが既にニューリズムゲームプロジェクトを偵察している。


 それを踏まえると、ライバル会社がアイディアを使う事も否定できない。そう言う事なのだろう――と彼は考える。



 上空は晴れており、屋外用のARゲームも稼働している『オケアノス』の屋外ARゲームコーナー、そこで観戦していたのは――。


「屋外のゲームも、安全性は考慮されているけど――何か違うかな」


 その女性は青髪に見えるが、いわゆるウィッグ。見る人が見ればソレは分かるだろう。


 私服のセンスは良く見えるのだが、フード付きのパーカーを初めとして何かを意識した服装だ。


「ARゲームが安全を確保出来ないと稼働できない――知らないではないだろう」


 気になる発言をした女性に声をかけた男性、それはフウマである。


「確かに、ARゲームはある程度知っているけど無知ではないつもりよ」


 フウマの発言を受けての反応も、本当に知っているのが疑わしい。それに、彼女からは型物なイメージも見え隠れしているのがフウマには何となく分かる。


「自分はリズムゲームを探しているのよ。それも、SNSで噂の――」


「お前、まさかバズり勢力や――」


 彼女がSNSと言う単語を出したと同時に、フウマは何となくここで発言するべきではない単語を出してしまう。


「自分はSNS炎上させてアピールしたがる連中とは違う。ああいうモブ連中と一緒にしないで」


(日本経済すら崩壊させようとする勢力と一緒にされるなんて、それこそ――)


 あからさまに機嫌が悪くなっている所を見ると、彼女にとっての地雷を踏んだと言うべきか。


 フウマは無言で謝罪し、その場を後にする。どう考えても、あの人物にリベンジしようとも考えていたのだが、日を改める事にした。


(あの方角って、リズムゲームの一角?)


 彼女の名はユキムラ、プロではないがゲーマーである。フウマの発言に対して、未だに後を引きずる訳ではないが――心の中では激怒しているのは言うまでもないだろう。


 それを表に出さない彼女は、あの時にも下手をすれば手を出していた可能性がある。何故、彼女は炎上勢力に対して敵意をむき出しにするような事を――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る