ニューリズムゲームエピソード

３－４

　ゲームフィールドでは、明らかに速度の違いが出ている対決が展開されていた。これをレース物と考えた場合、明らかに数周の差を付けていると言ってもいいだろう。

「しかし、あれだけの大差が付いているのに――向こうはギブアップしないのか？」

「あくまでもリズムゲームはスコアが決め手だ。さすがにリズムゲームでギブアップと言うのは、あまり聞かない」

「リズムゲームと言うと、楽器の演奏スキルが必要なのか？」

「リアルの楽器スキルがなくても問題はない。むしろ、音楽学校に通っている事が前提のリズムゲームって何だ？」

　ギャラリーの方も顔ぶれが変化していっているが、これはこのゲームの後ろに設置されているゲームに流れているのも理由だろう。

　しかし、本当にそれだけなのか？　ギャラリーの中には、シュテン・ドウジのようなプロゲーマーも姿を見せていると言うのに。

　プロゲーマーと言っても芸能人のような存在ではないので、ゲーマーの方もある程度の理解をしている様である。

　下手に騒いで出入り禁止等に発展すれば、ＳＮＳ炎上は確定だろう。その上にヴァーチャルレインボーファンタジーの件を繰り返した――とまとめサイトが騒ぐのも確定である。

　この一件に関しては、草加市民も警戒している位に神経を使う話題だからだ。

（さすがに草加市も神経を尖らせている様な案件だからな――あの事件は）

　プロデューサーは、周囲から聞こえてきたヴァーチャルレインボーファンタジーの件を知っていた。

　まとめサイト記事の内容レベルではなく、それこそ一部しか知らないような情報も彼は知っている。

　だからこそ、警戒をしているのかもしれない。ＳＮＳ炎上で日本が再び恐怖の日々を歩む様な事を――繰り返してはいけないのだ。

　明らかにスピードが速いアバター、それは雪華（せつか）ツバキのアバターである。しかも、ツバキが使用しているのは重装甲のディフェンスタイプなので、それが高速で移動する光景など予想できるはずがない。

【あのプレイヤー、予想以上の動きだ】

【三倍の速度と言うレベルを超えているぞ】

【ハイスピードのアクションは、扱いづらい事でも有名だ】

【ハイスピード？　普通のリズムゲームならばオプションで設定できるのでは？】

【オプションだとスクロールスピードだったような気がする。どちらにしても、このゲームのハイスピードはアレだ】

【これをＢＰＭ３００とか４００でやったら、目が追いつかないぞ】

　ＳＮＳ上の実況勢も、ハイスピードを想定よりも上手く扱うツバキには驚いている様子。むしろ、レベル１のプレイヤーと言う事も頭の中から飛んでいる位には――言葉に出来ない光景かもしれない。

【逆に、そうした速度でもプレイで来てしまうプロゲーマーもいる。都市伝説の類だと思うがな】

【都市伝説でも、そうしたゲーマーはいると言う事か】

【リズムゲームと言ってもゲーセンにあるような機種、アプリゲーム、ソレに同人ゲームと多彩だ】

【それぞれのジャンルに達人がいる、と】

　実況の方も次第に分かるような人物が見に来ている事に気付くと、ゲーム未プレイのような単純な掛け声等は書き込まれなくなっていく。一種のお約束的な発言でさえ、書き込めば炎上すると警戒しているのか――その辺りは定かではないが。

　楽曲のクラシックアレンジは、もはやじっくり聞いている様なギャラリーはいないだろう。

　むしろ、歓声でかき消されていると言うのが、正しい認識なのかもしれないから。

　騒ぎ過ぎてもまずいのは、あくまでも暴力沙汰などの白熱し過ぎた事によるリアルファイトの部類だ。

　プレイヤーに声援を送るような普通のリズムゲームではあり得ない行為も、このゲームであれば問題視されないようである。

（これがリズムゲームね）

　シュテン・ドウジがスルーしていたくのいち姿の女性、彼女はゲーム自体に興味を持って――その場を立ち去った様子。他にもこのプレイのリザルトが出る前、楽曲が終了した辺りでプロデューサーも別の機種へと移動を始めている。