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 センターモニターに表示されたアクション、それはまさかとも言える物だった。名称はハイスピード、楽曲のスピードが2倍になると言う物である。厳密には、譜面のスクロール速度が2倍になる物だが。


 それでも慣れているプレイヤーではないと、譜面速度を把握できずに更なるミスを誘発する。リズムゲームでは、一瞬の速度変化でも命取りな場合が多い。


 リズムゲームでは、速度が変化する楽曲をソフランと言う。それはあくまでも楽曲にBPMが変化する地帯があって、それを刺したワードなのだ。


 さすがに自分でスピードを変えるようなソフランがあるだろうか? まるでレースゲームでニトロやブースターユニットを使ったような感覚と似ているのだろう。


(あの曲の速度は150で200はないだろうが――)


 まさかのハイスピードと言う展開に対し、プロデューサーは驚きを隠せない。リズムゲームで譜面速度を変えるのは、中級者から上級者向けの技術だろう。中には譜面速度を変えられない作品もあるが――。


【ハイスピード? ああいうスキルもあるのか】


【あのゲームには特定のアクションでスコアが上昇すると言う話がある】


【理論値が一千万と言われているが、その領域に到達した者はいない】


【フルコンボのパーフェクト判定が理論値ではないのか】


【そうなるだろうな。ある程度のスコアに補正が入ると言う話だ】


【このゲームには今までのリズムゲームの常識は通じないのだろう】


 SNS上でもマッチングの実況を行っている一連のスレが驚きで制圧されそうな気配だった。それ程に、あのゲームに今までのリズムゲームの常識は通じないのである。



 順調にスコアを獲得しているフウマは、アクションの存在はもちろん知っていた。しかし、その上でアクションを使わないのである。アクションを使わない場合のボーナスもあるし、失敗の反動が怖い。


 下手にアクションを失敗して向こうにチャンスを与えるよりは――と言う事だろう。


(アクションと言っても、オーバーアクションをすれば判定次第ではペナルティもある)


 フウマは逆に向こうがペナルティで自滅してくれる事を祈っていた。慎重になり過ぎた事による考えなのかは定かではないが、今は自分の事で手いっぱいだろう。



 一方の雪華せつかツバキは、これに賭ける事にする。ハイスピードを使ったとしても、そこまで速度が変化する訳ではない――という判断もあるのだろう。


「これに全てを賭ける!」


 ツバキのハイスピードモードが始動し、被っているメットの色も青主体に変化する。ハンドコンピュータの方も色が変化しているのだが、手元を見ている余裕が彼女にはない。


 その体感速度は、時速5キロが10キロに変化したような物であり――ジェットコースターに乗っている気分でもある。


(この速度で、行けるのかな――)


 ツバキのアバターの速度が変化したのは、メインフィールドのアバターにも反映されていた。その為、フウマのアバターよりも速いスピードで動くツバキのアバターにギャラリーから驚きの声が上がる。


 あくまでもこのゲームはリズムゲームの演奏がメインであり、相手のアバターを抜いたとしてもトップにはならない。スコアでトップにならなければ、マッチングではトップとは言えないのだ。

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