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 レベル6の楽曲、それは周囲のギャラリーにとっては聞き覚えのない曲だったと言う。ジャンルはポップスと言う事だが、ジャンルだけで判断がしらいのは間違いない。


 リズムゲームの場合、ジャンル表記すらなく楽曲名とアーティスト名だけはザラだ。イントロを聞いても覚えがないギャラリーが多かったのは、こうした事情があるのかもしれない。


「このゲーム自体、オリジナル楽曲が多い。その一つでは?」


「アーティスト名を見ても分からない。もしかして新人コンポーザーか?」


「音の使い方は新人とは思えないが、曲調は――」


 様々なギャラリーからは楽曲に対しての注文とも言える声が出ている。それでもそうした声よりもアバターのアクションに対して歓声が上がっている割合が多いので、そうした声は少数なのかもしれない。



 シュテン・ドウジが現れたと同時にあわただしい空気になっていたのは、いつの間にか落ち着いている。


 一部のギャラリーが強制退場になった訳ではなく、自主的に去ったと言うのが正しいか。


(この楽曲は――そう言う事か)


 シュテンは流れている楽曲を聞き、どういう傾向の楽曲があるのかを察する。彼女のメインとするフィールドはリズムゲームなので、楽曲をある程度聞いただけでどういう傾向の作品なのか分かるのだろう。


 いわゆる『利き酒』ならぬ『利きリズムゲーム』の技能があるのかもしれない。


(それに、アバターを操作するようなタイプは既に事例があるのだが――)


 シュテンが周囲を見回し、筺体と思わしき物を発見し、何となく興味がわいてくる。これがリズムゲームをメインフィールドとする彼女の――。


「そう言う事ね。アバターの動きはプレイヤーと連動している訳ではない、か」


 シュテンが何かに気付き、センターモニターの方へと近づく。その際、くのいちのコスプレイヤーと目があった。


 しかし、シュテンは彼女に声をかけるような事もなくセンターモニターのプレイ画面に集中している。


(あのプレイヤーは、確かプロゲーマーのシュテン・ドウジ――って、女性だったの?)


 コスプレイヤーの方は微妙に驚くような表情をしていた。女性だった事に驚いているのかもしれない。それと同時に、SNSの噂は本当ではない――と言う事も知る。

 


 バトルの方は、シュテンが判定するまでもなく――既に決まったような物だった。


「どう考えても、あのレベル1のプレイヤーが有利では?」


「レベル1? どういう風になっているのか分からない以上、強いのかどうかわからん」


「リズムゲームは段位システムがある物も――?」


「どうやら、そう言う事らしいな」


 あるプレイヤーが何かの数値を発見し、レベル1のプレイヤーが実は――と言う事に気付いた。


 もう一方のプレイヤーのレベルは10と表示されている。つまり、RPG等のようにレベルで強化されるようなタイプにも見えたらしい。


【フウマはあっさりと負けるようだな】


【さすがに、あのレベル6はないわ】


【選曲運がなかった】


【相手のレベル1のプレイヤーがラッキーなだけでは?】


【あのアクションはディフェンスでやるものじゃない】


 SNS上でもライブ配信が行われている為、劣勢のフウマに対してコメントで炎上しているのが分かる。


 一方で、レベル1のプレイヤーに関しては事前情報もないので誰なのか判断できない様子。この人物が何者なのかも興味はなく、単純に想定外のアクションだけで評価しているのだろう。

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