缶詰太郎

それは昔、いやつい最近?それとも未来かもしれないところに、坂田時子という女子高生がいました。ある日、大会に向けて河川敷でダンスの練習をしていると、多摩川の川上からどんぶらこっこどんぶらこ、と大きな桃が流れてきました。それを思わずTwi〇terにあげたところ、バズってお前有名人じゃんっていう、夢を見ました。

そのせいで桃が食べたくなったので、学校帰りに桃の缶詰を購入しました。帰宅後、すぐにキッチンで缶をあけるとあら不思議!小指の爪ほどの元気な男の子の赤ちゃんが出てきました。

時子は驚きのあまり

「ぁタシの桃がぁ…食べちゃったのぉ~?!」

と泣き出してしまいました。

でもまぁ泣いてはいられない。だって女子高生だもん。とりあえず食パンをちぎって牛乳に浸したものをあげてみることにしました。赤ちゃんは嘘のように泣き止み、嬉しそうに食べ始めました。

「母性が目覚めざるをえないね」

得意気に鼻をならす彼女は末っ子なので、子分というか弟ができた喜びで多幸感に浸っていました。

「今日から君はキャン太郎だょ」

あわれなキャン太郎。桃缶から生まれてしまった為に、絶望的にひどいネーミングセンスの毒牙にかかってしまった。

「これTwi〇terで報告すればバズるね」

そう思い付いた時子は、スマホのカメラをキャン太郎に近づけて、ふと気づいた。

生まれたときよりも、明らかにキャン太郎が大きくなっている。

「ふわぁぁ食べれば食べるほど大きくなってるよぉぉ」

キャン太郎が、パンを食べれば食べたぶんだけ大きくなっていくのだ。

「やめてぇぇ!家が壊れちゃうじゃんょう」

抵抗むなしく彼女は押し潰されてしまう……というのは彼女の妄想で。キャン太郎は親指程の大きさになったところで、その成長は止まった。

「ふえぇよかったいよぃ」

彼女はへなへなと安堵でその場にへたりこんだ。するとキャン太郎は、

「なんだ恩人の方よ。某を鬼の封印から解いてくれたというのに、その体たらくは」

と、シンクの上から、時子に呆れたような目を向けたのだった。

「あれ、赤ちゃんじゃないに?なんでもうしゃべれるの?」

そう、不思議に思い時子は尋ねた。

「見た目は赤ん坊でも、中身は大人なのだよ。恩人に言うことではないが、君とは逆だな」

どうやら、異世界で鬼退治中、戦いに敗れ二度と歯向かうことができぬよう、ご丁寧に缶詰にされて封印されてしまったのだという。

時子の夢は、きっとその異世界とリンクして結果、缶詰が時子の手に渡るよう運命が仕向けたんじゃないかなって、時子は思いました。

キャン太郎はこのぶっ飛んだ考えに呆れたかというと、しかし逆に深刻そうな顔をして考え込んでしまった。

「あながち間違いではないのかもしれない。某も戦いの前に夢をみたのだ。頭の弱そうな女が、ばずった?とか言いながらこの面妖な器を開けていたのだ」

きっと何か得体のしれない何かに動かされているのかもしれない、と言うや否やキャン太郎は時子に頭を下げる。驚いて膝立ちでシンクに詰め寄る時子に、キャン太郎は言った。

「図々しいが暫くのあいだ、ここいさせてほしい。行くあてもないのだ」

そういうキャン太郎に、時子は満面の笑みで答える。

「いいょ!時子はね、弟がほしかったの!」

今日からキャン太郎は子分ね!と、ドスンドスンと飛びあがって喜ぶ時子に、思わずキャン太郎は心配そうに溜め息をつき、頭痛さえ感じるのであった。


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かみひこうき Tamathan @Tamathan

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