第15話
自分の立つべき位置がわからず、混乱してしまった俺は美希にバロンであることを否定してしまった!
自分が以前、彼女に飼われていた犬だということを話して信じてもらうことが目的だったはずなのに、逆のことをしてしまったのだ。
彼女と次に会う日を約束し帰る列車の中で杏奈は細かく俺に状況を訊いたが知ってるんじゃなかったのか?
あの時、確かに杏奈の匂いと気配を感じた気がするが強烈な平手打ちで全て忘れてしまった
まだ赤くなってる頬を手で隠すように片肘をついた俺はじゃあ、何で杏奈は泣いてたんだと考え続けていた。
具合が悪くて泣いてたのかと思ったのだが違う理由であったことはこの結果で明白である
人間は複雑で犬が単純であるというわけでは無いのだろうが今度の飼い主である杏奈は特に複雑な感情の持ち主でなかなか喜ばせることが出来ない・・・
犬と人間の感情を併せ持つことで困った俺は杏奈には犬としての忠節を尽くし、美希には人としての誠意を示すことで感情のバランスを維持して行こうと決めた。
やがて列車は駅へと到着し、降りた俺と杏奈は自転車を漕ぎながら家を目指す
すっかり暗くなってしまったが俺には昼間と変わりなく普通に見えるのでライトを点け忘れ杏奈に注意された
まるで杏奈の目には俺だけしか映ってないのではないかと思ってしまうほど細かい点で注意される!
以前の俺と違い身体も飼い主より、遥かに大きくなってはいるが杏奈の俺に対する躾は完璧に近かった。
しばらく前後に自転車を並んで走らせていると何となく身体の奥から染み出して来るような違和感を感じた
最初は痛みも無く、ちょっと気になる程度であったのだがそれは胸を抉るような強烈な痛みに変わった!
俺は痛みにバランスを崩しながら地面へと転げ落ちた。
俺の後ろから着いて来ていた杏奈は倒れて胸を抑えながらもがき苦しむ俺の傍らに自転車を放り出すと駆け寄り
「どうしたの!?」
心配そうに俺を胸に抱くと背中を摩り声を掛けた。
胸の奥底から無理やり俺の中に押し入って来ようとする何か?・・・悪意の塊みたいなモノ!
食い止めようと必死で抗う俺の心と押し合うごとに痛みが増して来る気がした。
これはもしかして!?
痛みを懸命に堪えながら俺が出した答えはそれだった!
悪意と復讐の怨念を感じる邪悪なモノ・・・
この身体の本来の持ち主であった中野翔太である。
こんなモノを甦らせてしまったら杏奈は、そして杏奈の母親は再び地獄の日々を送るどころかきっと無残な形で殺されてしまうに違いない!
何としても食い止めなければ・・・
どうすれば良いのかもわからない状態で俺は必死で抗うように本来の俺が持つ果敢な闘争心に火をつけた。
何の痛みに苦しんでいるのかもわからず俺を抱き締めた杏奈の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる・・・
あの事故の時と同じように雨の如く俺を濡らした。
ダメだ!
まだダメだっ!
俺の役目はまだ終わっちゃいない!
強く、強く心の中で繰り返し叫び続けた。
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