第12話

約束した通りに美希は駅前で俺たちを待っていた。


早めに着くように来たので正確に言えば約束した時間までまだ30分近くある!

杏奈は携帯で時間を確認しながら飛びつきそうな勢いで喜びながら彼女に駆け寄る。


俺に対しても時々、そんな仕草を見せるのだがそんな子供みたいな所が杏奈の可愛さでもある!

まぁ、飼い主を誇りに思うのは俺の習性なのだろう。


美希の案内で3人は連れ添って近くの河川敷に向かった

バロンとよく散歩に出掛けた場所・・・

それを聞いた時に俺には何処なのかがわかっていた!

河川敷に着くと俺は思わず両手、両膝をつき四つん這いになり懐かしい景色を眺めた。


この匂い・・・故郷の香りだ!

俺の行為に驚いた2人は揃ってどうしたのか尋ねた

「いや、ちょっと転んじゃっただけです」

明らかに嘘だとわかる言い訳をした俺に杏奈は笑うと

「そんな風には見えなかったけど犬にでも戻りたかった?」

冗談っぽく茶化したが俺はその発言にドキリとした。


「きっとバロンにはこんな景色が見えてたのね?」

独り言みたいに呟くその声に目を向けると美希が俺と同じ態勢で眺めていた

彼女の隣には同じ格好をした杏奈も居る!


「3人揃って転んじゃったのか!?」

「誰かに見られたらきっと大笑いされちゃうぞ」

照れ隠しで言った俺の言葉がよほど可笑しかったのか、杏奈に続いて美希も仰向けに転がると笑い合った。


その笑い声を俺はどれだけ待っていたんだろう?

あれだけ真剣に迷いながら決めた服が汚れてしまうことも全く気にしていない杏奈に感謝した!

3人とも立ち上がると輪になって前の人の背中に付いた汚れを叩いて取り合った。


杏奈とかなり親しく話せるようになった彼女は遠慮がちではあるが俺とも少しだけ話してくれた

話すというか返事をする程度でしかなかったが美希と会話が出来ることは俺の夢みたいな望みであっただけにそれだけでも夢は叶ったことになる。


俺は捨てられていた犬で自分がこの世に生を受けた日も年齢もわからないし親という存在も誰なのか知らない

生まれて扱いに困ったから俺の親に無断であの場所へと置き去りにされたのだろう?


こうして人間となり優しい家族も出来て大好きだった美希と友達にもなれた!


そんな幸福感を味わうごとにこの暮らしが少しでも長く続いてくれることを願わずにいられない

だが突然、始まったことは突然、終わることもあるのだと自分に言い聞かせてる俺の存在が儚く思えた。


「ちょっとトイレに行って来るから悪いけど2人だけで話しながら待っててくれる?」

杏奈は俺の憂える表情に気づくと美希にそう言いながら座っていたベンチから立ち上がり行ってしまった

走って行きながら振り返ると

「その不愛想なお兄ちゃんをヨロシクね!」

誰に向けた合図なのかもわからないVサインをすると大きく手を振り、また駆け出した。


クスッと思わず笑いを漏らしながら美希も杏奈に手を振り見送ったが、一瞬の間が静寂を生み出す・・・

「君にとってバロンはどんな存在だったのですか?」

静寂を破った俺の言葉は自分でも思わず後悔してしまったほどの核心をついた質問であった。


その瞬間に鉄橋を渡る列車の音が鳴り響く!

彼女はその音が遠ざかるのを待つと俺を見て話し出した。

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