第11話
あれから色々と俺は考えてみたが正直にどんな経緯でこうなったのかを話して美希は信じてくれるだろうか?
犬のオスから人間の男・・・
俺が犬だった頃に聞いた彼女の話では小学校に入った頃から人の心が読めるようになったらしい。
恐らく人の心が読めるんじゃなく、人の表情に対し敏感になったのだろう?
人の顔色を伺うあまり人に対し恐怖心を抱くようになり自分の心に殻を巻いてしまった結果、人を信じることが怖くなったのかも知れない。
そんな彼女に俺が事実を話したとしても混乱するだけの結果を招いてしまうような気がする!?
焦らない方がいいかも知れないと言ってくれた杏奈には念の為に俺が突然、消滅してしまったら杏奈の口から事実をそのまま伝えて欲しいと頼んだ
それを聞いた杏奈は急に怒り出すと
「そんな役目を私に頼んだりしないで!」
そう言ったばかりか顔に平手打ちまで食らってしまった。
人から叩かれたのは生まれて初めての体験であったが意外と痛いものだと知った
何かとても失礼なことでも言ったのだろうか?
打たれた頬を撫でながら考えたがさっぱりわからない
杏奈に理由を訊きたかったが今は辞めた方が良さそうに思えたので後を追わなかった。
色々と教えてもらったりしているので杏奈の存在は妹というよりは俺の飼い主に思えて歩き出すとつい、後を追い掛けて行きたくなるのだ
本能として染みついた習性というモノは人間に形を変えても簡単には消えないらしい?
昨日もナゼ着いて来るのかと怒られたばかりである。
今日は美希と会うことを約束した日である。
午後からの約束だし急行列車で行くので十分に時間的な余裕はあるのだが、杏奈は朝早くから起きて数種類の服を俺の部屋に持って来ると並べてどれがいいかと尋ねた。
この前まで犬だった俺に女性の服の良し悪しなどわかるはずも無いが知らぬ振りをすると怒り出すので俺は適当に指さしたのだが、偶然にも彼女の考えと一致したらしく上機嫌で褒められた!
何にしても人の役に立つのは嬉しいことである。
その瞬間に思ったのだが杏奈が俺の飼い主だとすれば美希は過去の飼い主なのか?
友達という設定までにやっと漕ぎ着けたのに何だか遠い存在となってしまったようで寂しかった・・・
じゃあ、この切ないような気分は何なんだろう!?
今、思えば以前からそんな感情を抱いていたような気がしないでもない
飼い主に対する忠誠心だとばかり思っていたのだが?
自分の着て行く服が決まると今度は俺の身体に色んな服を合わせながら独断で決めて行く!
やっとボタンをはめることに慣れて来た俺は杏奈が決めた服を着ると、これも最近になり乗り方を覚えた自転車に乗り2人は駅を目指して出発した。
あれから一週間が経つが今度は美希が最も苦手としていた男性である俺と少しでも話してくれるだろうか?
そんな不安を抱えたままの俺に
「さぁ、着いたよ・・・お兄ちゃん!」
彼女が住む街へと着いたその時、杏奈は恥ずかしそうに初めて俺のことをそう呼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます