第6話

いつも俺は何を見ていたんだろう?

モノクロームで見える景色と空だったが何も覚えてない気がするのはナゼなのだろう・・・

彼女の歩調に合わせながら歩いてた俺は結局、彼女の存在だけしか見ていなかったのかも知れない!?


そんな自問自答をしながら眺めていた俺は巨大なビルをみつけて隣で眠る杏奈を揺り起した!

全面が鏡みたいなガラスで覆われたあの建物に見覚えがある気がしたのだ。


突然、揺すり起こされて興奮状態の俺を見た杏奈は理由もわからず驚き、怯えているみたいだった

多分、以前の恐怖を呼び覚ますように俺が興奮してたからなのだろう。


「驚かせてしまって済まない、でもみつけたんだよ!」

「あそこに見えるビルに見覚えがあるんだ」

そう言った俺を見た杏奈は理由がわかりホッとしたのか微笑みながら頷くと次の駅で降りて行ってみようとリュックを背負い俺を促しながら昇降口へと向かった。


乗ったのは各駅停車だが時間的には4時間近く列車に揺られていたのでもうお昼近くになっていた

見逃さないようにと神経を張り詰めていたからだろうか

ホームに降り立った時、俺は少しよろめいてしまい先に降りた杏奈に支えられた。


「大丈夫!?」

「その身体にまだ十分、慣れてないんだから無理すると探し出す前に倒れちゃうわよ」

小声でそう言いながら心配そうな顔をした。


人影が数多く見られない割りと小さな駅だがその辺りはちゃんと気を遣ってくれてるようだ。


2人は駅の構内にあった店で野菜サンドを買うと近くにあったベンチに腰掛け食べ始めた

季節は冬へと変わっているのだが珍しく真っ青な空から暖かい日差しが照りつけて気持ち良かった!

お金は十分に持って来たつもりだったが1人分では無く2人で探すことになったので十分とは言えなくなった。


その分、孤独な旅を続けなくていいし隣で地図を広げながら俺が言ったビルまでの距離を計算している杏奈はとても頼りになる存在なのだ。


「ここから普通に歩くと1時間ぐらい掛かるみたいだけどもう少し休んでから行く?」

杏奈はそんな俺の事情をちゃんと考えてくれてるらしく交通手段は2人の足であると決めている

大丈夫と言った俺は立ち上がるとゆっくり歩き出した。


俺よりも彼女の方が疲れているだろうと思ったからだが明るい笑顔を見せた杏奈は俺の手を握ると

「バロンが探してる彼女がみつかればこうして一緒に歩くことも無くなっちゃうのかなぁ?」

寂しそうに言って照れ笑いした。


休憩を入れて2時間ほどを費やしビルまで辿り着いた

見覚えがあるというだけでここまで来てしまったのだが何気に周囲を見回した俺はそこで視線が止まる・・・

そこには俺が捨てられていた路地があった!


早くも沈みかけた冬の夕日が俺たち2人をその路地へと引き込むように長く影を伸ばしていた。

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