第4話

あれから一週間ほどが過ぎた・・・

俺が生まれ変わることになった翔太という人間は通っていた大学では成績優秀であったらしい!?


俺は言葉が喋れると言っても犬だったので人間が持つ知識を普通に持っているはずもなく、簡単な文字は何とか読めるが字は書けないし筆記用具さえ上手く握れないので取り敢えず大学は辞めることにした。


今は人間となってからの妹である杏奈(アンナ)から教えてもらってるたし算やひき算に悪戦苦闘中である!


犬だった頃と違う視点の高さに走るどころか歩くことも困難な状況だったが慣れて来るにつれ自然と歩いたり走ったりも出来るようになった。


外に出て自分が住んでた場所を思い出そうと辺りを見回してみるが記憶に残るような風景はどこにも無くて帰るべき方向だけはわかる


きっとこの先の何処かに彼女が居るに違いない!


そう思いながら立ち止まって遠くの空を眺める俺に

「どうかしたの?」

1人にするのは心配だからとついて来てくれる杏奈が心配そうな顔で尋ねる。


「大丈夫だから心配しなくてもいいよ、ありがとう」

そう答えながら偶然、見てしまった杏奈の肩や腕などに残された痣に心が痛んだ・・・

俺がやったわけじゃないが、この身体が彼女たち親子に底知れぬ苦痛と恐怖を与え続けて来たのだ!

そんな存在と一緒に歩く杏奈は一体、どんな気持ちで居るのだろうか?


この先、彼女たち親子にも元の持ち主である翔太の代わりに償って行かねばならないだろう。


人間とは色んな能力を持ち、羨ましいと思っていたが、こうして自分がなってみると面倒なことが多く飼い主の美希が人間関係に涙を流していた姿が浮かんだ


「今頃、どうしてるかなぁ?」

呟くように言った俺に気持ちを察したのか、今度は何も訊かず数歩前に飛び出すと振り返って笑った

きっと大丈夫!

そんな意味が込められている優しい笑顔だった。


この方角の先がどんなに遠くても彼女が居る場所へと俺は行かなければならない・・・

死んでしまった俺を彼女が待っているはずもないことはわかっているが俺の本能がそう告げている。


それから更に2ヶ月ほど新聞配達などのアルバイトで移動に必要なお金を貯めた俺は夜も明けきらぬ早朝、リュックを背に家を出た


ここに再び戻って来ることがあるか、わからない?

本来ならこれまでのお礼と別れをちゃんと言ってから旅立つべきであったのだろうが言えなかった!

気づいてくれたかどうかはわからないがそれとなく自分の意思は伝えた。


玄関のドアを閉めた俺は静かに鍵を掛けるとポケットの中に鍵を入れて歩き出した


ほんの数分、冷たい空気に白い息を吐きながら足早に歩いていると背後から走って来る足音が聞こえた。


あの足音は間違いなく杏奈である!

俺は足を止め、まだ見えもしない彼女を待った。

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