第3話
あれからどれくらいの時を経たのだろうか?
激しい息苦しさに咳を繰り返しながら俺は目覚めた。
何だか首筋にヒリヒリとした痛みがある・・・
首輪で擦れて痛いのかと手で触ってみたが首輪など付いていなかった
ん?
首輪・・・手?
この手は何だ!?
もしやと思い、慌ててベッドから降りて鏡の前に立った俺はその姿を見て愕然とした。
犬ではなく人間の姿へと変貌を遂げていたのだ!
首筋には何かで強く絞められたような跡が残っていて所々に血が滲んでいた
人の気配に振り向くと腰を抜かしたように震えながらしゃがみ込んでいる2人の女性の姿があった。
「い、生きてたの・・・?」
驚愕の表情で娘らしき女性が恐る恐る問い掛ける
「この姿は・・・俺は一体、誰なのか教えてくれないか?」
質問に質問で答えた俺に2人は顔を見合わせた。
そんな怯える2人に俺は本来、捨て犬であったことや彼女と暮らした日々、事故に遭遇し命を失くしたことなど順を追って丁寧に説明した。
それに対する2人の話だと俺が乗り移ったこの男は家庭内に於ける暴力が凄まじく母親である女性と妹に毎日、乱暴を繰り返していたらしい・・・
我慢と恐怖の限界点を超えた2人は協力し合って彼を絞め殺してしまったのだが、甦った俺の姿を見て腰を抜かし動けないで息を殺しながら見ていたという
お互いに立場は違えど、それぞれに事情があったのだ。
「俺がなってしまったこの男は何て名前なんだ?」
まるで他人事のように尋ねた俺に妹だった女性は
「翔太・・・中野翔太(ナカノショウタ)よ」
毎日を恐怖で見ていたであろう俺であるこの男の表情がどんな風に変わったのかはわからないが吹き出しそうな笑顔を浮かべながら教えてくれた。
「翔太かぁ・・・何だか犬っぽくない名前だなぁ」
バロンと呼ぶ美希の声が思い出されて涙ぐみそうになりながらも人間となった今、俺に帰る場所も無いし俺を大事に飼ってくれた彼女を探したいと考えた俺は
「迷惑だろうがここに置いてくれないかな?」
突然の申し出で断られることを承知で俺は言った。
「中身だけが犬と入れ替わってしまったのは間違いないみたいだけど・・・噛みついたりしないわよね?」
如何なる理由があったにせよ、我が子を殺してしまった罪の意識から表情が暗かった母親は冗談っぽく俺に訊いたが、その顔は少しだけ明るく見えた。
それから3人で今後のことについて話し合った
人を殺してしまったという罪の意識は消えないだろうがこれからは前向きに明るく生きて行けるように家族の一員として2人を支えながら俺はここで生きることにし
彼女を探し出すことにした!
こんな姿になってしまった俺が美希に再会したとしても信じてくれるかどうかもわからない・・・
だが俺は彼女に再び会って人間の言葉で「ありがとう」と伝えたいだけなのかも知れない。
その日の朝食はドッグフードとは違い何だか複雑な味がするしスプーンを使うのがやっとで食べにくかったが少しづつ人間の生活に慣れて行くしかない。
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