第17話【覚醒】
ヨルナミは剣を引き抜き、キロルの所に立ち向かって行った
とても怖かった。もしかしたら自分が死ぬかもしれない。キロルが死ぬのを早めるかもしれない。何もしないよりもマシだと思ったヨルナミは足を動かしていた
「ヨルナミ! 死ぬぞ! 」とキロルは止めたがヨルナミは聞かなかった
キロルが聞かなかった時と同じように
ヨルナミが走り、瞬きをした瞬間、不思議な空間に移動した
幻覚なのか分からない。死んだのかな……
とりあえず様子を確認しようと周りを見渡すと見覚えがあった。よく考えるとワタと喧嘩をして、気が付いたら居た自分の世界と同じだった
そしてまた、来た時と同じ様に誰かの声がした
またあの何かの使者なのかな……
「誰? 」とヨルナミが言うと誰かの声は「私はあなたのお母さん。」と言う
「そう言ってまた僕を騙そうとしてない? 」
ヨルナミは少し疑いつつも聞いてみる
「本当よ。あなたはペンダントを持ってるでしょ? その後ろにはあなたと私のイニシャルのYが彫られているはずよ」
そう言われ、恐る恐るペンダントの後ろを見る。うっすらとだが本当にYが彫られていた
僕も気付かなかったのにこれを知っているっていう事は本当なのかな
「本当なの……? ならなんで僕を孤児院に入れたの? 」
前みたいな詳しい理由を聞いてみることにした
「それはあなたがお父様に殺されそうになってたからよ。あなたはアクアヒルス国の王子。跡取りの話でお父様が邪魔だといい、あなたを殺そうとしたの。それで私がタトイヒ国に亡命して、孤児院に預けたの。これが真実よ」
僕がアクアヒルス国の王子? お父さんが僕を殺そうとした? お母さんが亡命? どういうことなの?!
ヨルナミは理解が追いつかなかった
「アクアヒルス国に行ったら何か分かるかな? 」
ヨルナミはアクアヒルス国に行くことを思いついた
「そうね、なら幸という女性を訪ねさない。幸ちゃんならあなたの力になると思うから……」
「分かった。」
「ヨルナミ……あなたは強い子。もし、躓いているなら焔と念じなさい。あなたの剣は焔と言う物質でできてますので……力になります……」
世界は突然暗くなり始める
「待って! お母さん! 」
ヨルナミはお母さんの姿が無くなり始めていることに気付く
「あなたは強い子。ザンロの使者にも勝てたのだから……あのザンロにも勝てるよ……」
ヨルナミはそのまま気を失ったと思った
目が覚めるとさっきキロルを止めようとして走り出した時と同じ状況だった
何が起こったのかは分からないが、さっき本当にお母さんに会ったのだろうか……
そうだ! お母さんが言ってたように焔と念じてみよう
「焔……」
ヨルナミが言うと剣は紅焔に染まり始めた
あの時、不思議な夢を見た時に出来た事と同じ様に
「ヨルナミ! それもよせ! 後遺症残るかもしれないぞ! 」
キロルは当たり前のように止めるが「君には言われたくない」
キロルは言い返せなくなり、ザンロの攻撃を防ぎながら弱点がないか探し回った
ヨルナミも参戦し、2人掛りでザンロに押し掛ける
ワタはそれを見ていることしか出来なかった
ヨルナミとキロルは自分の武器の色を変えられるのに自分は変えられない……自分は2人の力になれないという悔しさと自分も2人の力になりたいという葛藤がワタの心でぶつかり合う
確かにここで見ているだけだと自分は助かるかもしれない。それは逆に自分の相棒や仲間を見殺しにしようとしているのと同じだ
もし、自分が2人の力になりたいと思い、突撃をすると足でまといになり3人まとめて死ぬかもしれない
俺が生き残るか、みんなで死ぬか
ワタはもうひとつ思いついた
自分が2人の壁になり、時間を稼ぎ2人の体力の回復時間を稼ぐ
ワタはそれしか思いつかなかった
自分の剣を引き抜き、ザンロの所に向かった
「ザンロ! ! ! 」
ワタはザンロの翼を斬り消した
サタンは予想以上の痛みにもがき苦しむ
「貴様……出来損ないの癖に我の翼を斬るとは……」そう言うとワタはザンロに吹き飛ばした
誰もがそう思った
しかし、キロルがワタの身代わりになっていた
あの一瞬、キロルはザンロの尻尾がワタの腹に突き刺さろうとしているのが見えた
この一瞬を発見し庇い、キロルは吹き飛ばされた
致命傷だった。ザンロの尻尾が腹を貫き、そこには毒が注入されている。毒が体を溶かし始め、腸が貫かれた所から出ている。それに、見たことの無いほど大量に出血をしていた
右腕は千切れ、左眼が潰れていた
他にも体のありとあらゆる所が無くなっていた。焔により色が変わっていた目や髪も元に戻っておりもう助からないであろうと誰もがそう思った
「キロル! ! ! 」
「教祖様! ! !」
ワタと信者がキロルのそば駆け寄ってきた
キロルは信者をみるや否やこう言った
「娘よ。もうすぐわいは死ぬだろう……ノルトの28代目教祖はお前だ……頼んだ……」
娘? どういうことだ?
「お父様? ……お父様だったのですか? ……なぜ教えてくれなかったんですか?」
突然のことに戸惑いながらも理由を聞いていた
「それは……決まりだからだ……わいもそうだった。親父が死ぬ半年前にさらっと親父であることを言われた。まだ頼んだとは言われてなかったからな。あんな事が起こったんだ」
「お父様が苦労なさったのはご存知です。それでも……11の自分には……まだ早すぎます……何より……自分は女です……」
「女だろうが男だろうが前に引っ張っていく人に性別なんて関係なんだよ! いいか! 頼んだぞ! 」
そう言われ、キロルの娘は頷く
「ヨルナミ……ワタ……面倒かけたな……わいはもう助からない……」
意識が朦朧とする中2人に謝る
「僕らの方こそ……喧嘩に巻き込んで、お前をひとりぼっちにして……」
涙を流しながら2人はキロルの手を握る
「そんなこともあったな……今となってはいい思い出だ……」
そう言いながらキロルはワタに自信の使っていた短剣を渡す
「ワタ……お前は焔が使える程の精神力はある……この剣は焔が使える……あとは……頼んだぞ! ……ぐはッ!」
キロルは更に吐血をした
「最後に娘よ……父親らしい事出来なくて済まなかった……来世であったらもっと父親らしい事をしてやる……」
キロルはその事を娘に伝えると溶け始めていた体は半分以上、ほとんどの骨も残らず、娘の手の中で静かに息を引き取った
上半身の顔部分だけが残り、その死に顔は少し悔いが残りつつも人生を全うしたという喜びがあったのか、笑顔になっていた
そして、頬には涙の1粒が流れていた
「貴様……」
キロルを喪った悲しみはワタとヨルナミの心に深く傷が付いてしまった
「ザンロ……貴様! 俺らがぶっ殺してやる! 」
ワタは怒り、キロルの使っていたナイフをザンロ向かって構える
「ほぅ……焔が使えるのか。我の炎を使えなくても焔が使えるのなら上出来だ……」
「黙れクソ野郎! お前は俺らがぶっ殺す! 」
遂に怒りが頂点に達したワタ
「焔よ……力を! 」と唱えるとキロルの短剣は山吹色に染まる
ただ染まるだけではなかった
ワタの怒りエネルギーが更なるパワーを呼び、更に深い山吹茶になる
「ワタさん! これ以上は危ないです! 」
とキロルの娘が言う
「ああ、わかったよ! 」
ワタは山吹茶になった短剣を構え、ザンロに向かっていく
「相棒! 行くぞ! 」
「ああ! 任せろ! 」
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