第4話
「これ、お前が殺ったのか?」
突然、黒い武道着を着た人間が現れたかと思うと質問される。重厚で渋い声だ。
で、今のなんですか?? 自動翻訳のおかげで言葉は分かるけど、答えないとダメなやつ?
「一応、オレ、ですけど……」
大丈夫だよな? 別に普通に返答だよな?
……もしかして、殺したらいけない系の動物だったのか?!
「そうか……」
予想外に薄っすい反応が返ってきた。
「グゥ〜」
……ヤバい。 やっちまった。本日3度目の腹鳴りだ。まさか人前で鳴るとは。
「……腹、減ってるのか?」
「恥ずかしながら」
いや、ほんと恥ずかしいから。
「毛皮を譲ってくれるなら、俺の家でその【ノワールタイガー】を調理してやるが、どうする?」
願ってもない、申し出だ。この空腹と比べたら、毛皮なんか全部持っていってもらって構わない。ていうか、コイツ、ノワールタイガって名前なのか。カッコイイな。まぁ、それはさておき。
「いや〜ありがたいです。 毛皮くらい、いくらでも差し上げるんでお願いします」
「分かった。 それじゃあ付いてきてくれ。お前、名前は?」
「あ、天野翔です」
ちょっとキョドった。向こうでも、こっちでもオレのコミ障は健在らしい。
「俺はルイス・ボルドだ。敬語はいらん」
「わ、分かった」
うちの道場は良くも悪くも、実力至上主義だったから後輩が先輩を呼び捨てで呼ぶこともあったからタメ口には慣れてる。
ボルドは肩にノワールタイガー?を担ぐと元来た方に歩き出したのでオレもついて行く。
確か、シベリアトラって300㌔くらいあったよな? それと同じ体格したあれをあんなに軽々と……ルイス・ボルド、只者じゃない。
しばらく歩くと、林を抜けた先にかがり火を焚いた木造の小屋が建っていた。
ボルドはそのまま小屋の裏に周り(多分、虎を解体してる?)、残されたオレは先に入ってろとのことだった。
言われた通り、お邪魔する。
……殺風景だ。 部屋の中に一通りの家具とキッチン?というか調理場はあるけど、それくらいだ。
家具は全部一人前だから独り暮らしだろう。オレと一緒だ。ははは
とまぁ、自虐は置いといて、とりあえず座って待機かな。
オレは床に腰を下ろす。正直、腹減りと身体の倦怠感が酷くて、立っているのもやっとだった。
15分後。(時間の類はミリナの情報だ)
「待たせたな。 取り敢えず、食べられる部位だけ解体してきたぞ」
そう言って部屋に入ってきたボルドの両手には、生々しい生肉が抱かれていた。
50㌔は軽くありそうだ。
「血抜きと下洗いは済ませた。早速調理するがどんな調理法が良い?」
「調理法? なんでも良いですけど、なるべく早いやつで」
正直、早く食べないと死ねる。ていうのはさすがに冗談だけど、実際、それくらい腹が減ってる。
「分かった」
ボルドは一言だけそう言うと、調理場に立つ。
オレもボルドが調理するところを観察するために、邪魔にならない場所で待機させてもらう。
丁寧にゆっくりとボルドはドデカいまな板に肉を置く。……そして包丁(もはやナイフ)を握った。
オレがボルドの作った料理に腰を抜かすのはまだ、先の話。
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