第3話
え〜森に入ってから、3時間20分18秒(ミリナ情報)。
オレの現在の状況。 腹減り+喉渇き+遭難。
……本日3度目の王手です。
『提言。
日没まで残り、15分。 早急な安全の確保を推奨』
この森に入った時、オレの上でさんさんと輝いてた太陽も、オレンジ色に染まり出してからは早い。今はもう、背の高い木が生い茂っているせいで森の中にはほとんど光が射し込まない。
いや、オレ、普通に森の中で水場、探してただけだよな……?
何をどうしたらこんなヤバい状況になるんだ?
親父とその友達と4対1で実戦練習した時並にヤバい。
しかも安全の確保って言ったって、正直木の上くらいしか思いつかないんだけども。
「グゥ〜」
……腹減ったな。それに喉も渇いてる。
このまま、だだっ広いこの森を歩いてても意味無い気がする。
うん?…………水の流れる音だ!
一定の方向に進んで、音が大きくなったらその方向に水場がある……はずだ。
しばらく歩き回っていると案外簡単に小川が見つかった。今までの苦労は一体……
まぁ、目的の一つが解決しただけ良しとしよう。
オレは川から水を掬ってそれを一気に飲み干す。
美味い。 やっぱり苦労した後の一服は格別だ。(タバコじゃない)
あとは食料だけど……暗くなったからもう良いよな?
今日一日ヌいたくらいで死にはしないし。寝床も木の上にあるし。
「ガルル……ガァ!!」
後ろの林から何か音がしたかと振り向いてからは一瞬だった。
真っ黒な狼……いや、それよりも二回りくらい大きい、虎の様な動物がオレの首元に飛びついて来た。
当たれば常人ならまぁ、死んでるだろう(いや、死なないかもしれないけど、カッコつけさせて下さい)。異世界にも野生動物くらいいるの忘れてた。
「あっぶね!」
その一撃をオレは身を翻して間一髪、躱す。オレを仕留め損なった虎はそのまま小川の対岸に着地した。
本日、4度目の王手でした。(今日だけで何回、危機があるんだよ?!)
……い、今のはちょっと油断してただけだから。
動物ごときに負けるほど、オレ、弱くないから!って言いたいんだけど、実際、虎とは闘ったことないんだよなぁ。 当たり前だけど。
にしても、デカい。本で見たことあるシベリアトラくらいデカい。
オレが対岸にいる虎を見据えると、虎の眼の色が変わった。今の攻撃を避けたことで虎の中でオレの評価が改まったのだろう。
虎とオレはお互いの眼を見据えながら、どっちも動けなくなった。
もちろん、オレも虎も対岸まで跳ぶのは簡単に出来る。向こう側まで3メートルくらいしかないし。
ただ、その後が問題だ。着地した後は必ず隙が生まれる。そこを一撃で仕留めるのが一番リスクが小さい。
虎にもそれを理解する知能はあるのか、それが分かっているからこそオレも虎も動けなかった。
ちなみに、今の話はどっちかが一撃で仕留められる前提での話。
ミリナのおかげで身体能力が上がっているとは言え、今のオレには多分、無理だ。
野生動物の耐久性(タフネス)は尋常じゃないことは今まで身をもって体感してきた。(親父に連れられて山に行った時、独りでイノシシと闘った。多分、3時間くらいは闘ってたはず)
……脈が早くなってる。
どんなに冷静を装って分析したりしてても人間、根っこの部分は変わらないらしい。久しぶりの強敵(動物だけど)に興奮が治まらない。
『提言。
スキルの使用を推奨』
ミリナに言われるまで忘れてた。そういえば、オレ、スキル持ってたんだった。
う〜ん普通に闘いたいんだけど……まぁ今回だけはいいか。それになんだかんだ使いたいし、スキル。
オレは心の中で叫ぶ。
(発動!!)
『オリジンスキル【選択】発動します』
ミリナが言い終わると同時、本当に全てが止まった。川のせせらぎも虎の呼吸も、そして、ついさっきまで早鐘を打っていたオレの鼓動も全てだ。
『一時停止中。残り時間2分56秒です』
えっと確か、ミリナと相談しながら行動を決めるんだっけか。
(……ミリナ、いるか?)
『はい。 実行する行動は決まりましたか?』
ちゃんと反応が返ってきたので安心した。
一応、このスキル死ぬかもしれないからな、気を付けないと。
(試しに聞きたいんだけど)
『なんなりと』
(対岸のアイツ、一撃で殺れそう?)
『……実行可能な行動です。 実行しますか? Yes/No』
いや、出来るんかい!? 冗談のつもりだったんだけど。
そういえば、オレの潜在能力を100%引き出すんだったか?
……見たい。自分でも底の知れない才能の到達点を。
(実行する。 Yesだ)
『認証。実行します』
ミリナが実行した瞬間、オレの身体はいつの間にか対岸に着地していた。
オレも虎も何が起きた分からなかった。虎は尚更だろう。
振り向いた瞬間に顎を一撃で砕かれたのだから。
骨の砕ける音とともに、虎の顔が180度回転して顎と頭の位置が上下に入れ替わる。そして最期に断末魔を上げることもなく、虎はその場に崩れ落ちた。
『実行完了。 身体操作権を主、ショウに返還します』
身体の感覚が一気に戻ってくる。右手で殴ったのか、少しジンジンする。
ただ、思いの外痛くない。 むしろ、あれだけの威力で殴ったならこっちの拳も砕けていてもおかしくないはずだ。
オレはいつの日に聞いた親父からの言葉を思い出す。
『人でも物でもそれがどれだけ硬かろうが、当たる瞬間に関節を固められさえすればこちらの拳が砕けることは無い』
要するに剛体術だ。武術の達人が人生をかけて習得する技をあのレベルで……
(ミリナ、今のが100%か?)
『いいえ。 対岸に移る際は62%、討伐した際は58%の出力です』
いや、マジか……あれでかよ。
自分より強いヤツと闘いたいとか言ったけど、ミリナが一番強くないか?
これでミリナに実体があったらと思うと武者震いしそうだ。
(とりあえず、助かった。 ありがとうミリナ)
『お役に立てて何よりです。 では』
「グゥ〜!」
ミリナと接続?が切れた直後に腹が特大の鳴き声を上げる。
強いスキルなだけに体力の消費もだが、魔素の消費も大きいのだろう。
身体が重い。ミリナから聞いてた通りだ。
オレの目の前には、果てた虎が一匹。
……食べれるのか?これ。
一応、肉だから食べれないこともないだろうけど、自分で解体するのはキツい。
どうしようか迷っていると、後ろの草むらから足音が聞こえてくる。
また、あの虎か?
そんな思考がオレの頭を巡る。
しかし、そこから現れたのは予想外にも人間だった。何故か黒い武道着を着た。
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