第48話 20年ぶりの優勝をかけた戦い【常木】
夏の甲子園も終わり、秩父農工野球部は次の大会に向けていつものように厳しい練習をこなしていた。
小島の右足の靱帯は順調に回復して練習に合流していたけれど、今度は肩に痛めてしまう。
そして椎間板ヘルニアは回復することなく持病になっていた。
一方、絶対的エースの大地の剛速球は、肘を怪我してから復活することなく2番手投手となってしまった。
そんな中でも秩父農工は、チーム一丸となって埼玉県北部大会決勝戦へと駒を進める。
決勝の対戦相手は本庄東高校である。
小島にとってこの試合は、レフトで出場していた常木のおかげで忘れられない試合となる。
(常木は、春の大会で甲子園出場校の春日部共栄との対戦の際に相手をビビらすために後頭部まで剃り込みを入れた男である)
緊迫した決勝戦は、7回を終えて3対2で秩父農工1点のリード。
そして8回表、本庄東の攻撃。
1アウト2塁の場面で4番バッターに回ってくる。
本庄東に取られた2点は、この4番バッターのツーランホームランだったので、秩父農工にとっては、もう一発出れば逆転される嫌な場面だった。
そして4番バッターの打球は芯をとらえて剃り込みの常木が守るレフトへ…
小島は、打たれた瞬間にレフトオーバーを覚悟した。
その球を常木が必死にバックして追う。
そして常木は、ボールも見ずにやけくそジャンプをすると奇跡的にグローブにボールが入った。
一番ビックリしたのは常木だろう。
興奮した常木が「シャー!コラー!!」と叫びボールを地面に叩きつけてガッツポーズを見せた。
ボールはてんてんと転がっているけれど…まだツーアウト。
本庄東のセカンドランナーがホームに帰って同点となる。
秩父農工のメンバー、監督、それに応援に来ていた父兄ら全員がポカーンとなった。
常木は「すいません」と言っていたけれど全員に無視された。
本庄東の攻撃が終わり、常木はベンチに戻ってからも謝っていたが、やっぱり全員からガン無視だった。
小島は、その光景がおかしくて笑いをこらえるのに必死だった。
それと同時に、これは後々いい笑いのネタになるとも思ったので、この試合を勝ってやると小島は燃えた。
そして小島のタイムリーツーベースで逆転し、一点差で秩父農工は20年ぶりの北部優勝をはたす。
ついでに常木の「すいません」を30回ほど聞かされた日にもなった。
ただ20年ぶりの優勝の代償は大きく、肩に痛みがあるのに無理して大会に出続けた小島は、2塁ベースにボールが届かないほど痛めてしまう。
そこでドクターストップとなり、春までボールを投げるのを禁じられた。
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