第38話 不幸を呼ぶLOVEの話【LOVE・トモ・豊ちゃん・アイ】

小島とアイが付き合いだして間もない田植えの季節のことである。

小島は、いつものように夕飯と風呂をさっさと済ませてアイの家を目指して自転車をこいだ。

けれど途中でかったるくなったので、トモの家に寄ってLOVEを借りることにした。

LOVEというのは、トモの家に置いている50ccの黄色いスクーターだ。

トモは高校へは進学せずに隣の群馬県で美容師の見習いとして住み込みで働いていたのだけれど、小島達と遊ぶためにしょっちゅう秩父へ帰ってきていたので、実家にLOVEを置いていたのだ。

小島がLOVEを借りに行くとトモはいなかった。

けれど、小島はトモの母親のとも親しかったので「豊ちゃん、LOVE借りてくね~」と豊ちゃんにひと声かけると「はいよ~」と返事があって借りられる関係だった。


ちなみに小島達の間では、LOVEに乗るとろくな目にあわないと有名で10人以上が警察に捕まっている。

なので誰か捕まるたびに小島達の間では「うわー、やっぱり不幸を呼ぶLOVEだよ~」なんて言っていた。

といってもノーヘルや二人乗りで捕まっているので、乗っている人が悪いだけでLOVEはちっとも悪くない。

どうやら黄色のLOVEは、やんちゃな若者が無茶な運転をしているということで警察にマークされていたようだ。


そんなLOVEに乗って小島はアイの家へと向かった。

LOVEのヘッドライトのランプが切れていたので夜道は走りにくかったけれど、小島はスピッツのロビンソンを歌いながらLOVEを走らせる。

夜風は冷たかったけれど小島の心はポカポカしていた。

ところが無灯火のバイクに乗っているところを警察に見つかってしまう。

小島は無免許だったこともあり「野球部のみんなに迷惑をかけてしまう!」と逃げることにした。

ただ、周りは田んぼばかりで隠れるところがない。

警察をまくために、慌てて田んぼのあぜ道に逃げ込んだのだけれど、外灯がないうえにヘッドライトも点いていないので道がよく見ない。

そしてデコボコ道にハンドルを取られて小島はLOVEもろとも田んぼにダイブしてしまう。

水を張った泥の田んぼだったけれど、結構なスピードでダイブしたので悶絶ものの痛みだった。

けれど、このままじっとしていれば警察に見つからないかも…と思った小島は、痛みに耐えながら泥の中で息をひそめた。

そして暗闇の中でカエルの鳴き声を聞きながら警察が去るのをひたすら待った。


警察は小島を発見できずに去って行った。

ぬかるんだ泥の中からスクーターを引っ張り出すのは、なかなかの重労働で、おまけに泥に体温を奪われた小島はガタガタ震えていた。

さすがに全身泥まみれでアイの部屋に入ることもできないので、その日はアイの家へは行けなかった。


小島はこう思った。

「やっぱり不幸を呼ぶLOVEだよ…」と。

繰り返しになるけれど、LOVEはちっとも悪くない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る