第30話 中学卒業の話【小島父・小島母】

小島の父親は、昔気質の大工で親子関係は不器用なところがあった。

学校の行事ごとは毎回母親が出席していて、父親は小学校の時から入学式にも運動会にも授業参観にも野球の試合にも1度も来たことがない。

そんな父親が、小島の中学の卒業式には自分から行くと言い出して出席した。


小島は、卒業証書を受け取る時に壇上でふざけて笑いを取ってやろうと思っていたけれど、今まで作業服姿しか見たことがなかった父親が、背広を着てハゲた頭をオールバックにしてキメて来てくれていたので、しっかり卒業証書を受け取った。


小島が卒業の打上げが終わって家に帰ると、父親はいつものようにテレビを見ながら日本酒を飲んでいた。

小島は、そんな父親に「親父…今日卒業式来てくれてありがとね!嬉しかったよ!」と照れくさかったけれど気持ちを伝えた。

父親は、いつものように「おう!」とだけ言った。

小島が部屋へ行こうとすると「トシ…お前が一番カッコよかったな!」とこっちを見ずに父親が言ったので、小島も「おう!」と答えた。


小島が後々母親から聞いた話では、小島が部屋へ行った後、父親は泣いていたらしい。

「よっぽど嬉しかったんじゃない。」と母親は言った。

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