第27話 高校の進路で悩む話1【大地・将軍・ベッキー・鉄郎】

小島は、高校へは野球で行くことを中学2年生の夏には決めていた。

理由は2つある。

1つ目は、中学1年生の時のいじめで、教科書とノートがビリビリの破られていたので、勉強ができる状況ではなく成績が悪かったからだ。

そして2つ目は、大人になった今でも鮮明に思い出せる将軍の引退試合が関係している。

その時に対戦した大地のチームによって、今まで以上に野球熱に火が付いてしまったのだ。


小島と大地は、小学校の少年野球時代にバッテリーを組んでいた。

そして小学生の大地は、「中学は違うチームになるけど高校へ行ったら、またバッテリーを組もう!」と小島に言った仲だ。

大地は小学生の頃、特別すごいピッチャーではなかった。

ところが中学2年生の春に、日本最速と4キロしか違わないストレートを投げる成長ぶりを見せ、高校スカウトマン達に知れ渡る存在になっていた。

そんな大地と中学2年生の夏の大会準決勝で対戦することになったのだ。


足で点数を取りに行く大地のチームに対して、将軍にしごかれて覚醒していた小島は、強肩で盗塁をすべてアウトにしていく。

一方、大地は剛速球で17個の三振を奪う。

ランナーを塁に出させない大地。

ランナーを刺して点を取らせない小島。

両チームとも点が入らない接戦となった。


ちなみに大地のチームには、少年野球チームで一緒だったベッキーがいる。

ツーアウト満塁で小島のチームがピンチの時、2塁ランナーがベッキーだった。

小島はタイムを取って、ショートの鉄郎にこう言った。

「2塁ランナーは、馬鹿のベッキーだから、リードが大きかったらベース入れ!俺が刺すから!」と告げた。


試合再開となった1球目、将軍が投げた球は大きく外れてボールになった。

小島は、その球をすかさず2塁へ投げた。

小島が2塁へ投げると予想していなかったベッキーは、焦って足がもつれて…コケた。

ベッキー、タッチアウト。

ベッキーのおかげで、満塁のピンチを0点で乗り切ることができた。

投げた小島も、まさかこんなにうまくいくとは思っておらず、馬鹿なベッキーがいてくれて本当によかったと思った。


試合は0対0で最終回までもつれ込む接戦となったが、勝利を手にしたのは大地のチームだった。

試合が終わり整列して挨拶したあと、小島と大地は握手を交わした。

その時に大地が「小島!お前の肩ヤバすぎ!」と言葉をかけた。

小島は「お前もな!」と言った。


そして大地は将軍の所へ駆け寄り「今日はありがとうございました。」と深々と頭を下げた。

この日、大地からレフトフェンス直撃のヒットを打った将軍は、いつもの偉そうな感じで「俺にあそこまで飛ばされるんだから、お前もまだまだ甘いな!」と言った。(敗者なのに)

大地は「中学入って外野越されたの初めてです!」と答えた。


小島は負けてしまったけれど、この日の白熱した試合内容は、小島の野球人生の中でベスト試合になっている。

そして将軍と大地もこの試合が野球人生ベスト試合だと大人になってから語っている。

そんな特別な試合となったのだ。

ちなみに大地は、決勝戦でも先発で出場し、ヒットを1本も打たれることなく優勝している。

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