第23話 天狗と言われた男の話【トモ・堀田】
トモは頭の中を整理しようと必死だった。
「小島ちゃん、堀田とは、小学校の時も仲が悪かった?」
「俺は普通だと思ってたけど、堀田は気に入らなかったと思うよ。
今思い返すと、俺、スゲー嫌な奴だったからさ。
遊ぶときは、みんなからお小遣いを持ってこさせて、そのお金で駄菓子屋で買い食いしてから遊びに行くのが当たり前だったし、気に入らないことがあればすぐ暴力だったからな。
もちろん堀田に対しても同じなわけ。
あいつは一番になりたい奴だけど、俺に喧嘩で絶対勝てないから目の上のたんこぶだったんだろうな。
だから中学になったのをきっかけに、みんなに俺を無視させて集団リンチしたんだと思うよ。」
「うわー、俺、堀田マジで嫌いだわ。」
ちなみにトモは、集合住宅に住んでいて、堀田は2件隣に住んでいる。
「まぁ、そういうことですわ。トモ、もう遅いし帰れよ。」
「何言ってんだよ小島ちゃん!天狗の話は!」
「・・・話してもいいけど、オチがないし、面白くもないよ。」
「このまま帰れるわけないじゃん!」
「んー、簡単に言うと、集団リンチされてから、20人相手でも全員ぶっ倒せるように学校が終わってから近所の山で修業してただけの話。
それを誰かが見たんだろうな。」
トモは、小島をじっと見つめて「もっとくれ」という顔をしている。
小島は仕方なく続けた。
「20人が相手だったら、どこから攻撃が飛んでくるか分からないし、同時にも攻撃してくるから反応速度っていうの?瞬発力?を上げるために山の上から全力で下って、次々に襲ってくる枝や木をかわすわけ。
相手に攻撃されて動きを止めたら、その時点でボコボコにされるから、目に枝が当たっても木にぶつかっても絶対スピードを落とさずに下るわけ。
下れば下るほどスピードがのってくるから、足が追いつかなくてゴロゴロって転げ落ちるけど、そうなっても素早く立ち上がって、またかわし続けるという修行だな。
毎回傷だらけになったけど、普通の人がやったら大ケガすると思う。」
トモの目が「それから、それから♪」と言っている。
仕方がないので小島は…
「あと20人シャドーっていう修行があって…シャドーってわかる?」
「シャドーボクシングのシャドー?」
「そう、あれって戦う相手を1人だけイメージしてパンチや防御の練習をするけど、俺のは、戦う相手が20人のシャドーなわけ。
相手のパンチをかわして顔面を殴って、別方向からパンチが来るけど、それはよけきれないからパンチをもらいつつ俺の肘をくらわして、即座に後ろのヤツの足を払って、倒れたところを馬乗りになって別の奴の蹴りを受け止めてから、馬乗りになった奴を殴る、みたいなイメージに体が対応できるようにシャドーを繰り返すわけ。
無数のパターンがあるから、延々と続くけどな。」
「それが噂の天狗の舞かもな!」
「そうなん?
他にも裸足で砂利道をダッシュしたり…用水路に入ってひたすら水の流れに逆らいながら歩いたり…親に見られなくてよかったわ。
いよいよ頭がおかしくなったと思われただろうからな(笑)」
トモは、「まだあるだろ?」と言わんばかりに、じっと小島を見ている。
「・・・夏の夜、寝ていたらカナブンが1匹部屋に入って来て壁に当たってうるさくてさ。
気にせず寝ようとしたけど気になって寝れんかった。
夜中の1時の話な。
電気をつけて捕まえて追い払えば5分とかからなかったと思う。
けど、これも修行の1つだと思って、部屋は真っ暗だけど、さらに目にタオルで巻いて視界を完全に奪って音だけを頼りにカナブンを倒すことにしたわけ。
それから闇の中、パンチやキックを繰り返した。
俺のパンチがカナブンにクリーンヒットしてやっと倒したときには、夜中の3時を回ってた。
自分でも何の修行かさっぱりわからないまま、その日は深い眠りについて…学校へは遅刻した(笑)」
トモは、まだじーっと小島を見ている。
小島は、さすがにイラっときて…
「もう、ねぇーよ!
それに天狗の噂のせいで修行行きづらくなって、最近は山に入ってねぇし!」
トモは「あんがと♪」と言って帰って行った。
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