第15話 死を覚悟して親に打ち明けた時の話【トモ・真理】
「なー、トモ。乳ガンってわかる?」
「おっぱいにできるやつ?」
「そうそう、俺さ、小学6年の時におっぱいに、しこりがあってさ…乳ガンはしこりが出来ると知ってたから死を覚悟したんだよね。」
「マジ!?」
「うん、まじ。
だから、ずっと好きだった真理ちゃんに『ずっと好きだった!』って人生初の告白をしたんよ。
そしたら『貴弘くんが好きなの』と言われた…
友達にも『俺…ガンなんだ…』って打ち明けて、形見として大事にしてたビックリマンシールのコレクションをみんなに分け与えたしさ…
もう思い残す事はなくなったから親にうちあけたんだけど、病院に連れていかれて検査してもらったら…
『この年代の子供は成長期の過程でよくしこりが出来る』って言われて…『乳癌じゃないよ』って半笑いで医者に言われたわ(笑)。」
「何だよ!不安になって聞いてたら笑い話かよ(笑)!」
「今となっては笑い話だけどな(笑)。
無駄にフラれた真理ちゃんとは、意識してしまって前みたいに話せなくなった(笑)。」
「で、ビックリマンシールは、返してもらったん?」
「それな!超レアなヤツもあったから返してもらうか悩んだけど、そのままあげた。」
「このクラスの奴も持ってんの?」
「持ってるよ………」
小島の目から涙が溢れてきた。
全員から無視されても、親に買ってもらったばっかりのグローブを切り刻まれても、集団リンチされても一度もこぼれなかった涙が溢れて止まらなかった。
小島自身、何で涙が出てくるのかわからなくてビックリだった。
それから小島は、休み時間のにぎやかな教室が静かになったことに気付かないほど泣いた。
そしてトモは、小島にひと言も声をかけることなく、泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
トモが転校してきてから、まわりに少しずつ変化があらわれていた。
主犯の奴ら以外のクラスメイトが普通に話しかけてくれるようになった。
リンチに加わっていた奴に「ごめん」と謝られたりもした。
中学2年の3学期には3人を除いて同級生と普通の学校生活が送れるまでになった。
その理由は小島にも未だにわからない。
教室でトモと毎日バカな話をして笑って1度泣いただけで、クラスメイトに対して何もしていないからだ。
けれど、トモが転校してきてから変わったことだけは確かだった。
それから小島は、とにかくバカな事をやって人を笑わせた。
トモのおかげで小島とまわりが変わる事が出来たのだ。
あれから26年…
小島は仕事帰りに、いつものゴルフの打ちっぱなしに行く。
トモとふたりで。
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