第12話 自転車で川を下った話【トモ・ペコ・森谷】

小島が同級生一同から無視され続けている間に、唯一話しかけてくれたのが幼馴染のペコちゃんだった。

小島を心配したペコちゃんが、みんなの目を盗んで話しかけてくれるのだけれど、ひと言ふた言、声をかけるのが精一杯なくらい無視が徹底されている状況だった。

小島もペコちゃんを巻き込みたくないので、話しかけたらダメだと言っていた。


約1年続いたそんな流れを変えたのが、「トモ」という名前の男子転校生だった。

トモは転校生なので、小島と同級生の関係をもちろん知らない。

だから普通に小島に話しかけてきた。


その頃の小島は、耳が妙によくなっていたし、場の空気もすぐ察知できるようになっていたので、周りの「あ~あ」という空気を痛いほど感じていた。

小島は「俺は慣れたからいいけど…転校してきてすぐトモまで無視やいじめにあうのはかわいそうだな…」と思ったので、トモにこう言った。


「なんとなく気付いてると思うけど…俺はみんなから嫌われて無視されてるからさ、俺と話さないほうがいいよ。

俺は大丈夫だからさ!」と。


するとトモはこう言った。

「だったら俺は小島ちゃんとだけ話しするわ。俺はたぶん小島ちゃんと友達になるために転校してきたんだと思うんだ!」と。


小島は、最初「こいつ何言ってんの!?」と思ったけれど、トモは、それからも小島とばかり話し続けた。

小島は「俺はちゃんと忠告したし、どうなっても知らねえからな…」と思いながらトモの話を聞いた。

ただ、そんなトモの話を聞いていると、興味を持って聞いてしまうことが度々あった。

例えば…


「小島ちゃん、自転車で川を下ったことある?」


「ん?ないけど、なんで?」


「俺が前に住んでた近所に小さな川があってさ、友達とカエルを捕まえたり、ダム作ったり、上流に探検に行ったりしてたんだけど、その川が用水路みたいに全部コンクリートで固められて、今までみたいに遊べなくなってさ、みんながっかりしてたんよ。

けど、川の底が道路みたいに平らになったから、自転車で走れるんじゃね?て思って、上流まで自転車を持って行って、自転車で川を下ったらさ、すげースピードで水がバシャーってなって進むから、めっちゃ気持ち良かったんだよね!

それで誰が一番早く下れるか競争みたいになって盛り上がってさ!

ただ、ゴールの手前にコンクリートの橋があって頭をかがめないと打つんだけど、森谷君が橋に頭ぶつけちゃってさ、人が乗ってない自転車だけゴールするのは面白かったわ(笑)。

でさ、森谷君は橋の下で頭抱えてうずくまってたんだけど、血が川にボタボタ落ちて救急車で運ばれちゃったんだよね…

で、俺思ったんだけど…その頃、森谷君の身長が急にスゲー伸びててさ、きっと自分の身長をわかってなくて脳天ぶつけて血を吹いたんだろうね!

急に背が伸びると危ねーな(笑)。」


そんなことをケタケタ笑いながら話すトモを見ていた小島は「こいつ面白い奴かも!?」と思うようになっていく。

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