第一章 天狗はこうして作られた
第6話 笑ってくれた女の子【ペコ・アイ・ベッキー】
小島の家の近所にペコちゃんという同級生で幼なじみの男の子がいた。
ペコちゃんの家は、毎年夏休みに親戚と海へ旅行に行っている。
小島家も家族旅行へは行っていたけれど、冬の温泉旅行ばかりで小島は生まれてから一度も海へ行ったことがなかった。
そういったこともあって小島の両親が、ペコちゃんの親に小島だけ海旅行へ連れて行ってもらえないかと頼んだ。
ずっと家族ぐるみの付き合いをしていたペコちゃんの両親からも全然かまわないよ、という流れになって、小島は小学校5年生の夏に初めての海へ行くことになった。
旅行当日、小島が車に乗り込むと、きれいな顔立ちの女の子が座っていた。
名前をアイと紹介された。
ペコちゃんの親戚で、年は小島の1つ下だった。
車が出発すると小島は、さっそく隣に座っているアイに話しかけてみた。
「ねー、赤いきつねと、緑のたぬき、どっちが好き?」
「え?赤いきつね…かな。」
「そうなんだ、俺も大好き!でも、もう食えないんだよね…」
「どうして?」
小島は、少し沈黙してから話はじめた。
「俺さ、小学校1年生のときに何であんなことやったのか、いまだにわかんないんだけど、赤いきつねに三ツ矢サイダーを入れて食べたんだ。
それが物凄い不味さでさ…でも残しちゃいけないと思って汁も全部飲んだけど、気持ち悪くなってテーブルの上にゲロしちゃってさ。
親父にも殴られて散々で…それから赤いきつねを普通に食べようとしても炭酸うどんの記憶がいまだに残ってて…気持ち悪くなって食べたいんだけど食えないんだよね。」
「何それ、面白い(笑)」
「いやいや笑い事じゃなくて、アレはほんとにヤバいんだって。」
「じゃ、今度試してみる(笑)」
「ダメだって、あれは絶対やめた方がいいよ!」
「それなら教えなきゃいいのに (笑)」
「もしあの毒物を食べさせるとしたらベッキーくらいかな。」
「ベッキーって?」
「俺、少年野球のチームに入ってんだけど、そこにベッキーっていうバカなヤツがいてさ。そいつのこと。」
「外人なの?」
「バリバリ日本人!そして男。」
「変なの(笑)。何でそんな名前にしたんだろね?」
「知り合った時からベッキーだったよ。
もともとはベッキーっていうアニメのキャラクターがいて、それに似てたから、そんなあだ名になったんだって。
たしか本当の名前は…たか…、ひで…、たけ…、えっと…ごめん、思い出せない…」
「何それ(笑)」
「きっと、みんな本当の名前知らないよ。だってベッキーの父ちゃんも母ちゃんもベッキーって呼んでるくらいだから!」
「あははは、それほんとの話?」
「ほんとだって、年賀状に『ベッキー様』って書いて出したら、ちゃんと届いたよ。
それくらいベッキーが当たり前なんだって。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます