第83話 駆逐戦 【2/4】
「今御者台に居るイーレさんは、ゴスさんの娘さんなんですよ。
ガスさんの方のご家族は皆既に亡くなっていますが、殆どゴスさんの家族としてやっている感じですね」
ゴスたちの大声が途切れた後、クタンは彼らの事情をカナリアに説明していた。
頷くカナリアを前にして、ゴスとガスが説明を続けていく。
「この辺りは強い怪物の出る事が多くてな! デカい襲撃は俺が遭ったので今回で四回目だ!」
「二回目の時だな! 俺の家族が殺されたのは! しっかり落とし前はつけたがな!」
自らの家族が殺された事も、あっけらかんとした体で言ってのけたガスは、さらに言葉を続ける。
「生き残った事を悔いた事もあったがな! だが、生きていて良かったぞ、こんないい死に場所が出来るのならな!」
「お前はいいじゃねぇか! 向こうで待っている奴らが居るんだからよ!
俺はしばらく待ちぼうけだ!」
ゴスの言葉でカナリアはあることに気づいていた。
彼らはカナリアの事を信じている。たがしかし、それとは別に、既に彼らは死ぬ気でいるのだ。
勝つために犠牲を厭わないという気概自体は悪くはない。しかし、カナリアの思いからすると、それは余計な意気込みであった。
カナリアは内心でこう決めていた。
自らの出来る限り、全員を生かして返すと。
カナリアの決意は、生存者の人数に左右される報酬の為ではない。
それは純粋に冒険者としての矜持の為であった。
カナリアは今は身分を偽ってはいるものの、本来はクラス1の冒険者である。
よって、冒険者として正しくある者達を無下にする事は自らの気格に反するのだ。
ノキのギルドマスターのバティストや、都市長パウルも悪い人間達ではない。
だからこそ、カナリアは最大限手を貸すつもりでいるのだった。
それが、きっとシャハボの為にもなるのだからと信じて。
瞑目してガスとゴスの姿を視界から消した後、カナリアは目を閉じたまま石板をクタンに向ける。
【《
「い、今ですか?」
【うん、そう。早く】
理由も知らされず、急かされるままにクタンは詠唱を行い《
《
実は、カナリアがクタンを指名した理由の一つ、それが《
辺境では、頻出する
魔法やそれに類する活動を感知する《
都市部や軍属の
そして、カナリアの出したもう一つの条件を満たす人間となると、クタンしか候補は居なかったのである。
彼の《
しかし、使用直後に、クタンは疑問の声を上げる。
「あ、あれ? 何ですか? この大きな反応……?」
【それが
誰かに作られて、何かの魔法の力で動いているから、《
「……なるほど?」
目を開けたカナリアはクタンの顔に浮かぶ疑問の表情を見た後、石板に言葉を映す。
【どのくらいの距離に居るかわかる?】
「いえ、光点の大きさと方角が大体わかるぐらいで、はっきりとした距離までは」
慣れていなければその程度だろうと、予想していた通りの精度に頷くカナリア。
次の事を石板に書いたのだが、それをクタンが見る前に声を出したのはゴスとガスであった。
「おう、クタン」
「クタン、お前、
声に驚いたクタンは、ゴスとガスに目を向けた後でカナリアに視線を戻す。
「あ、はい。カーナさん、これ、本当に
【そう】
返答の通り、それは
クタンに《
「遠くからでもわかるなんて凄いじゃねぇか!」
「やるじゃねぇか、ひよっこ!」
ゴスとガスがクタンの事を褒めちぎるが、カナリアはまだひよこを褒める事はしない。
かわりに石板にてクタンに見せるのは、一旦見せかけて消した言葉であった。
【反応が大きくなったり、動いていたら気をつけてね】
カナリアの知覚する限り、
よってこれは、危険を事前に知らせてくれという事ではなく、あくまでひよこが頭の上に乗った殻を落せるかどうかという程度の忠告であった。
程なくして、というよりも、ほとんどすぐにひよっこクタンがこう言った。
「あ、少し何か動いている気がします」
それは緊張感の抜けた物言いであった。
しかし、シャハボが発した次の言葉で空気が一気に張り詰める。
『じゃぁ、こっちの動きに気付かれたな』
シャハボは皆にわかりやすい様に言っただけなのだが、実際の所、カナリアの《
バティストらの言葉を信じるならば、それは森の中に居たのだろう。動いていても、しばらくの間はゆっくりとした進み具合に感じられていた。
恐らくそれは、
続けてカナリアは、自分たちの集団が先陣であった事を僥倖に思っていた。
機がずれて後続の第二部隊、第三部隊が先にぶつかるようであれば、予定は大きく崩れ、死人も増えていただろうからだ。
『みんな、降りて戦いの準備をしろ。戦いの場は街道上だ。
馬車は反転させて後続へ連絡に向かわせろ。
ここに居たら巻き込まれる可能性も無くはないからな』
シャハボが喋る事はチームの全員が前日の作戦会議の際に見ていた為、それに驚く者はいなかった。
それだけではない。シャハボの指示は唐突であったにもかかわらず、馬車内の全員は即座にそれに従い、一目散に雨の降り続く外へと飛び出していたのだった。
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