第8話 私が壁になりました
店の壁をぶち壊して登場した勇者カルナに、私とリザルドはあからさまに眉間に皺を寄せた。
カルナはかっこよく入ってきたつもりかもしれないけど。普通に器物損壊だからね。勇者のすることじゃないからね。
だがそんな事は気にしない勇者カルナは、オークに剣の先を向ける。
「まずはお前からだ。醜い魔人」
「カルナーー!!頑張ってぇーー!!」
「やっちゃえーー!!」
相変わらずカルナの後ろでは、仲間の女性二人が黄色い声援を上げている。
その光景に慣れてしまった私達は、黙ってカルナ達の戦いを見物することにした。
カルナは勇者の中でも強い方らしいし、あれだけの自信があるならきっと大丈夫だろうと……そう思っていた。
「ウル、サイ」
オークは金棒を上に掲げる。
カルナは振り下ろされるとふんで、剣を盾にするように構えるが。金棒はそのままオークの手から離れ、一直線に投げ飛ばされた。
その先にいたのはーー。
「えっ」
その場にいた全員が、一瞬にして静まり返った。
何故なら、カルナに黄色い声援を送ってた一人の女性勇者の首が、いつのまにか無くなっていたからである。
「キャアァアーーーー!!!!」
隣にいたもう一人の女性勇者の黄色い声援は、恐怖の叫びへと変わった。
「メ、ビィー?」
カルナの手から、剣が滑り落ちる。
あんなに意気込んでいた顔が、たった一瞬で絶望へ変わってしまった。
何が起こったのか、私の目では捉えきられなかった。
「ウルサイ。コモノ」
オークは投げつけて壁に刺さっていた金棒を拾いに行き。付着していた血をはらった。
「あ、あぁ……そんな」
信じたくないと頭を抱え。一気に力が抜けたようにその場に座り込んでしまうカルナ。
その背後から、オークがのしのしと近づいていく。
「ユウシャ、ハイジョ」
カルナの頭上に掲げられる大きな金棒。
私以外の人が、あれをまともに食らったら……きっと。
「なっ!?オイッ!!」
引き止めようとするリザルドの声が聞こえた時には、既に私の足は走り出していた。
「うぐっ!!」
勢いよく振り下ろされた金棒が私の背中に直撃して、大きな衝撃が走る。
しかし相変わらず痛みは全くない。
もし壁に感情というものが存在したのなら、ボールとか投げつけられるたび、こんな感じだったんだろうな。
「ドMにはたまらんかも」
私は違うけどね。
「……あ、なた……は」
私に押し倒されていたカルナは、上に乗っかった私を、未だに魂が抜けたような目で見つめている。
私も誰かが殺された瞬間を見たのは初めてだったから、流石に血の気が引いた。気持ち悪くなったし、怖かった。
会ってまだ二回目で、名前も知らなかった人だったけど、それでもショックを覚えた。
だからきっと、ずっと仲間として一緒にいたカルナは、私より何十倍もショックで辛くて悲しんでいる。
私なんかが何を言っても、どうしようもないかもしれない。
けど、攻めの闇落ちは私的にはあまり好みじゃないからーー。
「大丈夫ですよ。カルナさん」
「……大丈夫じゃ、ないですよ……だって俺は……守れなかった……仲間を」
「でも、カルナさんがここで死ねば。メビィーさんは悲しみます」
「っ……でも、俺は……俺は!!」
漫画やアニメだったら、私はただ物語の流れを見ているだけの傍観者だった。
でも、今私はここで生きている。
なら、助けてやりたい。
推しを守りたい。後鬱展開は嫌。
「勇者なら、剣を取って最後まで戦いましょう。大丈夫。私が全力で壁になってみせますから」
「っ……!」
「立ってください。勇者様」
カルナの目に、光が戻った気がした。
「有難う。俺は戦うよ。必ず……メビィーの敵を討つ!!」
「よし!その意気です!」
「オラ。じゃあさっさと起きて戦えよ。いい加減俺もあのデカブツを片付けたいんだが」
「分かってる。魔力が底をつきそうになってるお前が偉そうに言うな」
「あ?」
「ほらほら~~喧嘩してないで、私が壁になってうちに、二人でやっちゃってください」
私は立ち上がり。二人を守るように前に出る。
「ニンゲンゴトキ、ガ、ナゼ、シナナイ!!」
一歩一歩近づいていく私を、オークは何度も何度も自棄になって殴りつけてくる。
どうやら、このオーク。力はあっても頭はからっきしなようだ。
「ヒッキャハハハッ!!俺の炎に焼かれて死ね!!肉だるま!!」
「天に召されろ。届け、光の剣!!」
私の後ろから放たれた黒い炎と、眩い光線は、オークの身体を直撃した。
悪役大好き腐女子が、異世界に来ました。 黒縁 @kurobuti-megane
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