第7話 多分私はチートじゃない


「ミツケタ」


店内の入り口だった場所には大きな穴が開き。そこからのそりのそりと入ってきたのは、すすけた緑色の巨体で、何故か目玉が真っ黒になっていたオークだった。


「フラグ回収早すぎです……」


しかも最初に戦う相手にしては、難易度高そうなモンスターだし……普通はもっと弱そうな奴からでしょ。いきなりコレは無理。


「マオウサマ、メイレイ、リザルド、ユウシャ、ミナゴロシ」


まるでロボットのような感情のない喋り方。

しかし手に持った巨大な金棒のような物は、私達を殺す気満々だ。


「きゃぁあーーーー!!」


「一般人は早く逃げてください!!早く!!」


「誰か!!何とかして!!」


悲鳴と、恐怖と、戸惑いの声が飛び交う。


このオークはさっき魔王命令でリザルドと勇者を殺すと言っていた。

勇者を始末するのは分かる。でも……。


「どうしてリザルドさんを……」


「ハッ……そりゃそうだろ。俺は、魔王様から捨てられた身だからな。ゴミはとっとと処分しておきたんだろうよ」


「え!?捨てられたって……どうして」


「……毎回あのクソ勇者を仕留めることが出来なかったからな。弱い手下は要らねぇだとよ」


「リザルドさん……」


リザルドの悲哀に満ちた顔に、胸が痛む。


「大丈夫ですよリザルドさん……一度砕かれた恋の痛みは、新しい恋で埋めればいいんです」


「は?」


「元カレ(魔王)の事は忘れて、前を向きましょう!」


「……俺はそんな話したつもりねぇんだが」


「きっとカルナさんが、リザルドさんの胸の穴を埋めてくれますから!」


「だからそんな話してねぇ!!」


と、リザルドの鋭いツッコミが炸裂したと同時に、金棒が私達の頭上から落ちてきた。


「リザルド、シマツ、スル」


床の木がぐしゃりとへこみ、粉々に割れて吹っ飛ぶ。


その下敷きになっていた私達は、床のようにへこみも粉々にも……ならなかった。


「クッ。ハハハッ!!ゴリラかよテメェ」


「ちょっ!?今の茶苦茶失礼ですよ!?一応私も乙女なんですから、ゴリラとか止めてくださいーー!!」


金棒を右腕で受け止めたままの私は、口元を必死に抑えながらもくつくつと笑い続けるリザルドに、思わずバシバシと肩を叩く。


でもこれは、確かにゴリラと言われてもおかしくない。

だって私の身体の倍はある金棒を、右腕一本で受け止めてしまっているのだから。


そうだ。

そういえば私、チートキャラだった。


ならこのオークも、私一人で倒せるかもしれない。


「お、丁度いいところに」


右腕をゆっくりと上げて、そのまま一気に金棒を振り払った私は、偶然にも足元に落ちていた剣を拾って、勇者ぽく構えてみた。


「えっと……オークなのか魔獣なのか魔人なのか分かんないけど。私が勇者になる為に犠牲になってもらうよ!」


「……ニンゲン、ゴトキガ」


「大丈夫。痛くないように、一瞬で終わらせてあげる」


私はオークに向かって走り出し。そのまま大きな腹に向かって刃を振るった。


だが……オークの腹は切れなかった。

それどころか、かすり傷一つつかない。


「あ、あれ?」


肉を切った感触もない。ただ当たって跳ね返ってきた。

まるで、玩具の剣でただ叩いただけみたいに。


「偽物……とかじゃないよね?」


「オイ!なにやってんだ!剣に魔力を込めろ!」


「剣に……魔力?」


「じゃねぇと、切れるわけねぇだろ!」


つまり、勇者達は皆武器に自分の魔力を送り込んで戦っているという事か。

じゃあ尚更、魔力の高い私なら出来るはず……。


「なのに……どうして切れないのぉお!!」


何度試してみても、オークの身体には傷一つ付かない。

試しに落ちていた他の武器も使ってみたが、同じく全く使えなかった。


「なんでなんでぇえ!?」


「っ……おかしい。魔力は大量にあるつうのに、テメェの魔力は全く動きを見せねぇ。ただ全身を守る壁にしか……」


まさかあの女神。

私が『推しを見守る壁になりたかった』とか言ったから、本当に壁としての役割しか与えてない……とかじゃないだろうな。


「とにかく……退散しよう!!」


「チッ。ムカつくが、それがよさそうだな」


これ以上店にも被害が及ばないように、私とリザルドはオークの隙をついて逃げようとしたのだが。


「もう逃がさないぞリザルド!!あそこにいる醜い魔人と共に、貴様も薙ぎ払ってやる!!」


「カルリザが見れるのは嬉しいけど、今じゃない!!タイミング悪すぎ!!」

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