第5話 無理矢理仲間にしました


黒い炎と、光線のようなものが私にぶつかる。


あぁ〜あ……念願の異世界に来て、しかも最高の推しカプにも出会えたっていうのに……こんな序盤で退場かぁ。


ここで死んでもちゃんと現代に帰れるのかな?私。これで人生も途中退場だったら、あの女神を一生怨んでやる。


「……あれ?でも全然痛くない?」


強い衝撃を受けたはずの身体や手をくまなく見てみるが、血どころか傷一つ見当たらない。確かに攻撃は当たったはずなのに。


「……なんで?」


そう疑問に思っていたのはどうやら私だけじゃなかったらしく。カルナやリザルド達の動揺した目が、私を凝視していた。


「お前……一体何者だ。なんで俺の炎を受けても燃えない」


「え?燃える?」


「光の剣だって、魔人を消し飛ばすほどの威力です。勿論普通の人間がくらっても無事ではすみません。それなのに……どうして貴女はピンピンしてるんですか」


「え?え?なに?私なにかしたの?」


二人に問いただされるが。私には全く身に覚えない。


寧ろ「あ、オワタ」って思ったくらいだし。


「もしかして……貴女も魔人……なのですか?見た目は普通の人間のように見えますが」


「え?」


「そ、そうよ!!きっとそう!!」


「カルナ!!その女から離れて!!」


「いやいやいやいや!!ごくふつーーの一般人ですよ私。一応勇者希望ですけど」


普通と違う所って言ったら、別の世界から来たってことくらいだし。


「勇者希望……成程。ということは、きっと貴女は女神様のご加護を俺達よりも多く与えてもらっているということですね」


「……女神様の、ご加護?」


「はい。俺達の魔力は、産まれる時に女神様から与えられたもの。だからこそ、こうして勇者となって魔の者と戦えるんです。けれどその魔力量は人それぞれ……きっと貴女は、女神様に選ばれた特別な存在なんですね」


選ばれた存在……そう言われてみれば確かにそうなのかもしれない。


あの女神によってこの異世界に呼ばれたわけだし。私にこの世界を救ってほしいと頼み込んできたくらいだ。特別扱いされていてもおかしくはない。


なんだよエドナの奴。結構粋な計らいをしてくれるじゃないか。ちょっと見直したわ。


「まぁテメェが俺達と同じ魔人じゃねぇことくらいは最初から分かってたしな。だいたい魔力の色が全然ちげぇし」


「魔力の色?そんなのあるの?」


「あ?なんだお前。そんな事も知らねぇのか?さっきの反応からすると、自分がどんだけの魔力量を持ってんのかも知らねぇみたいだしよ」


「あぁ~~そのへんちょっと色々と勉強不足でして」


まだこの世界に来たばかりだし。


「……はぁ。テメェ等人間も、自分の魔力を見る方法くらいあんだろ?俺は知らねぇけど」


「勿論あるが……それには魔人の目玉が必要だ。お前が提供してくれるなら、俺達が確認しとくが?」


「ハッ!誰がクソ勇者共に、目玉なんかやるかよ」


いがみ合う二人。


しかし、二人が普通に会話をしているだけで興奮する。言葉のキャッチボール=気持ちの受け渡し=交尾と考えてもよろしいでしょうか?駄目でも妄想しときます。


「チッ。まぁいい。俺の目なら簡単に見れるからな。教えてやるよテメェの魔力」


「え!?私の魔力見えるんですか!?」


興奮のあまり思わず子供みたいに駆け寄って、リザルドの赤い目をジッと見つめる。


「……魔人の目は、生き物全ての魔力を見ることができるからな。というか、さっきまで話してたろうが。聞いとけ」


「マジですか!!めっちゃ便利じゃないですか!!」


「……」


ぐいぐい行く私に、リザルドは眉間に皺を寄せながら徐々に後ろへ後ずさる。


「それで……私の魔力ってどんな感じなんですか?」


「……あそこのクソ勇者共と同じで鮮やかな黄色。その量は……クソ勇者や俺の倍以上だ」


「なっ!?俺の倍!?」


「マジか」


もしかしてこれが、主人公によくある『チート』というやつなのでは?


「じゃあ私に全くダメージが無いのって、私自身が自分の魔力で二人の攻撃を防いだからってことなの?」


「さぁな。ただ、テメェの身体には大量の魔力が纏っているからな。魔力が壁になってるんだろうよ」


「壁……」


リザルドから『壁』と言われて、一つ思い出した事がある。


教会の扉を開けて街へ向かおうとした時。エドナが最後に一つと言って「貴女がなりたかったものはありますか?」って聞いてきた。


急な質問に私は、咄嗟にこう答えたんだ。


ーー「推しを見守る壁になりたかった」と。


まさか……それが関係しているのだろうか?


「ムカつくが。テメェをぶっ潰せる奴なんて、そうそういねぇだろうよ」


「ふむふむ……っていうことは~~……私ってリザルドさんよりも強いってことですよね?」


「…………あ?」


「ふふっ。私の方が強いっていうことは~~リザルドさんは私に歯向かえない!!イコール!!あ~んなことやこ~んなことさせ放題!!ふ、腐腐腐……じゃあ早速。あそこで服脱いで、ポーズとってもらっーーグフッ!!」


「それ以上喋ったら殺す」


胸倉を掴まれ、地面に爪先が付くギリギリまで持ち上げられる。


「違うんです……私はただ次の新刊用のネタに使いたくて……」


「意味はわからんが、勝手に俺を使うな」


それは、ごもっともです。


「その人を離せリザルド!!」


「ぁあ?」


さっきまで私の魔力量を聞いて呆然としていたカルナだったが。私が胸倉を掴まれた事により、再び顔を引き締め。リザルドに剣を向けた。


「その人に危害を加えようとするなら、俺はここで貴様をーー」


「あ、気にしないでくださいカルナさん。これは寧ろご褒美なので」


「……ん?ご褒美?」


私の言葉に、カルナは目を丸くする。


「だって、リザルドさんの顔がじっくり間近で拝めますし。匂いも嗅げるし。私の服に触ってるんですよ?損なことは何一つありません。強いて言うなら息が苦しいのが辛いだけですから、気にしないでください!」


「おがめる?におい?」


どうやら私の発言に、頭が追いついていないらしい。


リザルドも、汚物を見るような目をして、手を離してしまった。


しょうがない。だって私自重できないオタク腐女子だし。


どうせならいっそ、ここで欲をぶちまけてしまおう。


「というかカルナさんは、いつリザルドさんへの恋心を自覚してくれるんですか?どうせもう好きなんでしょ?気付いてないだけなんでしょ?天然無自覚キャラも良いですけど、ずーーと追いかけてばかりじゃ、いつか他の勇者に取られちゃいますよ?」


「え?へ?こい?すき?てんねん?」


「いいですか?もしも二人っきりになったら、戦ってる途中でこける振りしてそのまま押し倒し。リザルドさんのハートをキャッチするんです!!そしてあわよくば、リザルドさんの処女を奪ってやってーーガハッ!!」


「いい加減にしろ」


バシッ!!と強烈な音と痛みが頭に走る。

今ので頭がへこんだと思うくらい強烈なチョップ頂きました。有難うございます。


「お、俺が?リザルドに?恋?ていうか……しょ、しょ、しょz」


「ちょっ!?カルナ!?」


「やだ!!大丈夫!?」


どうやら早口で喋り続けた私の言葉に、カルナの頭はキャリーオーバーしてしまったらしく。目が点になったまま、故障したロボットの様に地面に倒れてしまった。

きっと一時は立ち直れないだろう。


「ねぇ……これって、私のせい?」


「当たり前だろうが。気持ちわりぃことばっか言いやがって。俺も失神するところだったわ」


「いやでも……悪いのは二人だからね?」


「俺達がなにをした!?」


「だってだって!!敵同士で結ばれてはいけない禁断の関係って、そんなのもう公式カプ決定じゃないですか!?天然無自覚イケメン攻めとツンデレ強気受け……いい雰囲気まで行くのにその先までが長い。じれったい二人……ぐ腐ッ!!本出せるわ」


「な、なんで俺が……アイツなんかとそんな関係にならねぇといけねぇんだ!!」


「そんなのリザルドさんがエロいからに決まってるじゃないですか!!なんですかその顔!!その腕!!腰!!足!!全部シコいわ!!一体その身体で、何人の男をたぶらかしてきたんですか!!」


「やめろやめろ!!エロいとか意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!」


聞きたくないとでも言うように耳を強く塞ぐリザルドだが。若干頬が赤くなっている。成程。まんざらでもないと。


「照れるリザルド……尊いグホッ!!」


まさかの無言腹パン。

ムカつくのは分かりますが、さすがに一応女子なんで腹パンは駄目ですって腹は。


というか、さっきの死亡回避不可能な攻撃は全く痛くなかったのに。なんでチョップと腹パンは痛いのか……。そこも壁作っとこうぜ私。


「はぁ……テメェといると頭がおかしくなりそうだ」


「あはは!なに言ってるんですか~~。これから先ずっと一緒にいるんだし。頑張って慣れてくださいよ?」


「…………は?これから先?」


「はい!というわけで、私の仲間になってください!魔人リザルドさん!」


手を出して、私はリザルドに握手を求めた。


もう私は決めたのだ。こうやって推しキャラを見つけたら、人間でも魔人でも獣人でも構わず仲間にしていこうと……。


そしたらきっと私が壁になって守ってやれるし。いつも身近に推しキャラがいれば、脳内でどんどん推しカプを作り上げて、アニメやBL本がこの世界に無くても、私の腐った心を満たせていける。


「私は、リザルドさんと一緒に戦いたいです」


なんて、カッコイイ台詞を言ってみたが。私の手はあっけなく弾かれてしまった。


「ふざけてんのか……だいたいテメェ等勇者は、俺みたいな魔の者を殺す為にいるんだろうが。なのに……なんでテメェは、その殺すべき相手を仲間なんかに勧誘してやがる。一体何を考えていやがるんだ。何が目的だ」


私的には、とてもスマートに勧誘出来たと思っていたが。バリバリに警戒されてしまった。


まぁ予想はついていたけど、やっぱり勇者が魔人を仲間にするっていうのは有り得ない事なんだろう。


でも私は、元々魔の者を倒すつもりなんてない。

寧ろ仲間にしたい。魔人も魔王も。


「私がリザルドさんを殺す様な真似をしたら、容赦なく殺してもらって構いません。だからお願いします!!私の相棒になってください!!」


「オイ。さり気なく仲間から相棒にランクアップさせるな。誰かテメェみたいな変人と相棒になるかよ」


「何言ってんですか。私達はもう、身体を舐めあった関係じゃないですか……」


「誤解を招く言い方すんじゃねぇ!!テメェが勝手に俺の手を舐めてきたんだろうが!!気持ちわりぃ!!」


「大丈夫!私が汚したところは、いつかカルナさんが上書きしてくれますよ」


「余計気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇ!!」


こうして私は、逃げようとするリザルドの足を必死に掴んで、半ば無理矢理彼を仲間にすることに成功?したのだった。



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