第2話 腐女神に異世界へ連れて来られた
「多分だけど……教会?……だよね?ここ」
まだ寝ぼけているのだろうか?どこをどう見ても私が寝転がっていた場所は、教会だった。
三人ほど座れるような長椅子が綺麗に並べられているし、教会でよく見る大きな十字架も建っている。
でもどうして私が教会にいるのか。そもそもどこの教会なのかは、さっぱり見当がつかない。
「もしかして私……実は覚えてないだけで、推しが死んだショックでヤケ酒して、酔った勢いでこんなとこまで来ちゃったとか?もしそうだとしたらヤバイくね?不法侵入だよ」
「大丈夫ですよ
あの時聞こえたのと同じ透き通るような声が教会に響き渡ると、天井からキラキラと金色の粒子が降り注ぎ。そこから一人の女性が私の目の前に姿を現した。
まるで人形の様な小さな顔に綺麗な白い肌。降り注ぐ粒子と同じ金色の美しく長い髪。私みたいな貧乳尻デカ体系が恥ずかしくなってくるほどの完璧なプロポーション。そんな完璧な身体を、真っ白いドレスと淡い水色の羽衣が合わさったような服が彼女を包み込む。
まさに美。これぞ美。
私はこんなに美しい人間を、二十五年生きてきて今まで見たこと無い。
「おはようございます野崎友里様。私はこの世界を管理している女神。エドナと申します」
「お、おぅ……」
あまりにも愛らしすぎる微笑みに、思わず胸ズキューン!と撃ち抜かれる。
駄目だ。あんな天使みたいな微笑みを向けられたら私……この人で百合妄想してしまう!
因みにこの人は攻めだな。清純そうに見えて、実は肉食系美人とか最高。
あの顔で可愛い女の子をガツガツ食っていってほしい。
「野崎様?野崎様!」
「え?あぁごめんごめん。えっと……エドナさん?でしたっけ?」
「気軽にエドナでよろしいですよ」
「お、おぅ」
あまりの美しすぎる微笑みに、私まで百合ルートに行きそうになってしまう。
エドナちゃんマジ天使。じゃなかったマジ女神。
「えっと……じゃあエドナ。ここは一体……?」
「ここは野崎様が住んでいた世界とはまた違う世界……。簡単に説明させてもらいますと、所謂異世界召喚ってのをさせていただきました!」
「え?私を?」
「はい!」
「異世界に呼んだってことですか?」
「はい!」
まさかそんな、ラノベみたいな展開が本当にあるなんて……。
しかしこの状況とこの美しい女神。私が異世界召喚されたってのは、多分嘘ではないだろう。
「でも……本当に私で良かったんですか?もっと他に誰かいたでしょ?例えばひきこもりニートの男性とか、ゲームオタクの男子高校生とか。ブラック企業で働く社畜男性とか……私とか普通の社会人だし。女だし。しかも腐女子ですよ?可愛い女の子は好きですけど、きっとハーレム展開とかないでしょうし。そもそもゲームもそんなにするタイプじゃないんで「あ、この展開はゲームと同じだな」とかなりませんよ?多分進み悪いですよ?」
「あはは!そんなに気にしなくても大丈夫ですよ!誰かが野崎様の異世界生活を見ているわけでもありませんし。ハーレムが作れなくても、なんの進展が無くても大丈夫です!ただ、勇者になってこの世界を救ってもらえればそれで!」
ん?今なんて言った?この女神。
「……勇者?世界を救う?私が?」
「はい!」
サラッととんでもないこと言ってきたエドナに動揺が隠せない。
いや確かに、異世界に来て勇者や冒険者になるのはよくある話だけど……そんな重大な役をこんなただの社外人&腐女子に任せないでしょ普通。絶対もっと適任な人いたって。
え、なに?虐めなの?この女神様は私を虐めて楽しんでいるのか?
さっきまであの笑顔にときめいていた私の気持ちを返しやがれ!!
「すみません野崎様……いきなりこんな場所に呼んで、勇者になって世界を救ってほしいなんて言われたら、普通困りますよね」
「そりゃそうでしょ」
「でも!!野崎様ならきっと、この世界を救えると思ったんです!!」
「え、お、う……うん」
「今この世界は魔王に脅かされ。魔人や魔物達が暴れております……どうかお願いします!勇者となってこの世界をお救いください。野崎様」
私の手を握り。エドナは真剣な眼差しで見つめてくる。
コイツは顔が良すぎてホント困る……これじゃあ断りたくても断れるわけないじゃないか。
「うぅっ……あぁもう!!分かりましたよ!!勇者になりますよ!!世界救いますよ!!どうせ今更帰るとか言っても帰してもらえないんだろうし……出来るだけの事はしてみますよ」
「流石は野崎様!!よくぞ言ってくださりました!!では、私からの説明は特にありませんので、そのまま街へ行って勇者登録してきてください」
握っていた手をサッと離して、早く行けと言わんばかりに手を振るエドナ。
ちょっと。なんか急に態度が辛辣になってません?この女神、絶対私を舐めていやがる。
「あのさ。一つ言っとくけど、私の推しキャラって皆悪役ばかりなの。だから勇者になっても、魔王を殺すなんて絶対しないから。それでもいいっていうなら」
「えぇ大丈夫ですよ!ただ、世界を救ってくださればそれでいいので」
「え?いいの?」
「はい!というか……寧ろ私もそういうキャラ好きですから。殺してもらわない方が有難いです」
「……うん?」
「はい?」
あれ?
もしかしてこの女神も……。
「あの、質問いいですか?」
「はいどうぞ!」
「……攻めの反対は?」
「受け」
「『番』この漢字、なんて読む?」
「『つがい』」
「好きな受けのタイプは……?」
「私雑食なので。なんでもいけます」
この女神、仲間でした。
「ふ……ふふっ。腐腐腐。よければまたいつか、ゆっくりお話ししましょう。エドナ」
「はい!喜んで!」
こうして私は腐女神エドナと友情の握手を交わし。協会の扉を開けて、勇者になるため街へ向かったのだった。
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